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いにしえからのこもりうた
2、ファースト・コンタクト


これから担任になるであろう教員についてエメラは廊下を歩いていた。

廊下は誰もいないが、朝のホームルーム中なので教師の声が各の教室から聞こえる。
日差しの少々強い外を見つつエメラは新しい歌詞が浮かんできたようで、メモをしながら歩いていた。

着きましたよ、という教師の声にエメラははっとしてメモに視線を落としていたのを前に向けた。
慌てるエメラに教師は苦笑し、歌手活動もがんばってくださいね。と優しい笑みと共に労いの言葉を駆けてくれた。
その言葉が嬉しくて、ありがとうございます、と彼女は頭を下げたのだった。




ホームルームが始まった。
教師の紹介でエメラは自己紹介をしている。
クラスは彼女の名前を聞いた途端に驚きや歓喜の声を上げた。


本物ー!?
うそーっテレビで見るよりもかわいいー!!
決闘してくれないかなっ
歌きかせてねー!



クラスメイトとなるエメラに対して言いたい放題の生徒。
インダストリアル・イリュージョン社のM&Wというカードゲームがこのクラスでも人気を博している。
その矢先にその世界大会の優勝者が転入して来た、となればクラスの雰囲気も沸き上がると言うものである。
おまけに、そもそもの彼女の職業は歌手。時たま世界ツアーをするのだが、その際にM&Wに出会ったのだ。
彼女は日本だけではなく、世界が注目する人物、いわば時の人なのだ。

彼女の席は一番後ろの廊下に近い席から数えて二つ目。
その右隣には変わった髪の毛の男の子がにこっと笑っている。
教師に、武藤遊戯の隣です。と言われ、それに頷き歩を進めた。そして、自分の席に着席をした。

その後、隣の遊戯と呼ばれた少年によろしくお願いします。と笑顔を見せた。
すると、彼女の笑みに頬を少々赤らめながら、よろしくね。と遊戯は笑った。
そんな二人の仲良い雰囲気に周囲の男子生徒は、なぜ武藤なんだ!や、くそっうらやましい・・・と言うオーラが出ている。しかし、そんな雰囲気に臆せずに二人はにこにこしている。

そんな中、ホームルームが終了した。


****



「ねぇねぇ!私は真崎杏子!貴女のこと、どう名前を呼べばいい?」


「はじめまして、真崎さん。」


「真崎さんだなんて…私は杏子でいいからね。」



それと、その敬語も無しだよ。と笑顔を見せている女の子は遊戯の幼なじみの女の子である。
エメラの名前は”エメラ・ネスト・エムロード”
基本、名前を呼び捨てなので呼び捨てで構わないとエメラは言った。それに乗じて、城之内や本田、獏良も彼女を名前で呼ぶ様になった。
やはり、その会話を聞いて話しに入って来れない男子らからは嫉妬と羨望の視線が向けられる。

そんな周囲の状況は気にも止めず、遊戯はエメラちゃんは世界大会で優勝したんだよね?その時のことを聞かせてよ。と声をかけた。



「ベスト3に常連って聞いたけど本当?」


「えぇ、まぁ・・・。ただ、いつも勝てないの。瀬人に・・・。」


「え?瀬人さんって、あの海馬瀬人?」


「…はい。」



兄弟で仲良くしてくれて・・・。と言葉を続けるエメラに表情を曇らせる杏子と遊戯。
しかし、そんな空気を読まない城之内は遊戯が海馬を負かしてしまったことを話してしまった。

その城之内の言葉にエメラは耳を疑った。
 




瀬人が、負け、た・・・?


彼にとって、負けは



"死"





息が詰まりそうになりながらも、海馬の居場所を尋ねる。
遊戯は彼は今、童実野総合病院にいると説明した。

その周囲の反応を見たエメラはまだ中身を出していない鞄を片手に立ち上がった。
そんな彼女の様子に遊戯等は目を丸くする。驚いている彼らを後目にエメラは携帯を取り出した。



「ごめんなさい、緊急の用事が入りましたので早退するね。
先生には後ほど、詳しく説明をさせていただきます。と託をお願いできますか?」


「え?帰っちゃうの?」


「ごめんね・・・。」



そう言いつつ、エメラは電話をかけ始めた。
電話の相手はフレイの様で、車を童実野高校に回して欲しいと伝えた。
その後に、ではまたね、salut!と遊戯たちに頭を下げた後に教室を出た。

去っていく彼女の背。
遊戯らは、彼女の行動は海馬瀬人を案じてのものだとすぐにわかった。
すると、今度は遊戯が鞄を片手にエメラを追って行ってしまったのだ。



「・・・もう一人の遊戯・・・。」


「そうだったね。」



いつもの温厚な目つきではなく、キリッとした頼もしい目つきへと変わってた遊戯の表情を城之内らは見逃さなかった。それは、遊戯が首から下げている千年パズルなるものの中に宿る、もう一つの魂。

海馬に勝ったのは自分。
エメラを不安な思いにさせたのは自分の責任と思ってしまったようで、居ても立っても居られなくなったのだろう、と城之内らは思ったのだった。




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