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いにしえからのこもりうた
1、朝に

また、太陽が昇る。
古来より太陽は様々な形で神として崇められ、信仰の対象となっていた。
東より生まれ出で、南を通り人々に恩恵を与え、西へと死んでいく。そして、また東より生まれいでる。
そんな太陽が、また朝を告げる。

東の空が薄ピンク色に染まりだした明朝。
薄いピンクと空色が混じりあっているその光景はなんとも不思議な感覚に襲われる。
しかし、その感覚は気持ち悪くもなく、むしろ心が安らぐようなものである。

ちゅんちゅんと雀が植木の枝に止まり戯れる姿はなんとも可愛らしい。
そんな微笑ましい光景を窓越しに見ている人物がいた。
なぜか、その人物は半透明で背後の物が透けて見える。



『エメラ様・・・もう朝でございます。』



起きないと遅刻をしてしまいますよ、と優しくベッドに横になっている人物の体を揺する。
その彼の言葉と行動に反応したのか、ベッドに潜っている人物は身じろいでゆっくりと起きあがった。
そして、自分を起こしてくれた人物にふんわりと笑みを見せつつ、おはよう、カオス。と呟いた。
まだ寝起きのためにか細い声にカオスと呼ばれた人物はおはようございます、とゆっくり頭を垂れた。

んー。と伸びをしたのちに、ベッドからのろのろとした動きで降りた。
そんな時、ドアがノックされて黒髪を一つに結んだ青年が入ってきた。なぜか、片手にはティーポット。



「エメラー。遅刻するぞー。」



初日からRetardは不味いんじゃなのか?という青年の言葉に彼女はFaux!?と言いつつ慌てて準備をしだした。
そんな彼女に苦笑しつつも早くしろよ。と言いつつ扉を閉めた。

彼女が袖を通す真新しい制服はピンクのブレザーに水色のスカート。

手際よく着替えを済ました後に、鏡台の前に座った。
茶色の長い髪をまとめているのだが、どうも上手に出来ないようで悩んでいる。
そんな彼女を見て、後ろに控えていたカオスが失礼いたします、と一言断った後に彼女の髪をまとめ始めた。
彼は、長い彼女の髪の毛を器用にお団子にしていく。
しかし、全てお団子にするわけではない。
肩に掛かるくらいにまで髪の毛の長さを短くし、残りは流す様な変わった髪型をカオスはセットした。お団子にするために、髪の毛を丸めていき、その纏めたお団子の根本から丸めなかった髪の毛のだす。そんな不思議な髪型だ。
その様子を、鏡越しに見ていた。
そして、数分後。
アメジストの髪飾りをお団子の根本に添えて完成した。



『出来ましたよ。』


「Merci!Chaos!」



髪の毛をセットしてくれたカオスにお礼を言うと同時に朝食が出来あがったらしく、彼女を呼ぶ青年の声がした。
その声に返事をしつつ、カオスから鞄を受け取り、二人は部屋を出た。


*****


リビングに行けば、そこには香ばしい匂いが充満していた。トーストとグリーンサラダ、スクランブルエッグとベーコンなどバランスを考えた物である。
今日はダージリンの1stフラッシュだ。と言いつつ紅茶を温めてあったマグカップに注ぐ青年。
こぽこぽと音を立てて注がれる1stフラッシュ特有の紅茶の色と香りをエメラは楽しんでいた。

渡されたマグカップを受け取りつつ、ありがとう、フレイ。とエメラは一声かけた。それに対して、フレイと呼ばれた青年はおう。と短く返答をする。



「今日はカオスも着いていくんだよな?」


『勿論です。』


「ん。なら安心だな。」



朝食をとっているエメラの斜め後ろに立っている半透明のカオスにそう言いつつ、フレイはコーヒーを流し込んだ。
エメラは彼が作った朝食をすべて平らげた後に、ごちそうさま。と一声かけ、自分の使った食器をキッチンに持っていく。
その後、いってきまーす。とフレイに言った後に玄関へと向かう。いってらっしゃい、というフレイの声を背中に受けて、部屋の扉を閉め、マンションの階段をリズムよく駆け降りて行き、カオスと共に学校へと向かった。


フレイはベランダに出て小さくなっていく二人の背を見送っている。黒いカッターシャツに黒いズボンは彼のスタイルの良さを醸し出している。

彼女らが住んでいるマンションは高級住宅街と呼ばれる場所に極めて近いところにあり、このマンションも少々豪華である。
フレイらが住んでいる部屋は特殊で、この彼らが住んでいる階のから部屋数が減るために一部屋とベランダの広さがその分だけ大きくなのだ。

フレイが体を預けているベランダの手すりの近くにはエメラが育てているのであろう苺とピーマン、茄子などの果物や野菜からビオラなどの花までもが植えてあるプランターがある。
この前の大会の賞金のほんの一部がそこに形になっていた。

そんな風に揺れる可愛らしい様子を見て微笑んでいたが、ふとポケットに入れてった携帯が震えた。何かと思って携帯の画面を見たフレイは一瞬、目を丸くしたが着信ボタンを押し、長い髪をかき分けて耳に当てた。



「Hello,Mr.Pegasus・・・。」



先ほどとは打って変わって、低い声が空へと吸い込まれていった。




******



童実野高等学校。
それが彼女の転入する高校の名前である。

彼女は新しい生活に胸を踊らせて登校している。



しかし、彼女はまだ気がつかなかった。


この転入が彼女に大きな衝撃を与え、大きな時代のうねりに巻き込まれてしまうことを・・・。

3000年前の戦いに犠牲になった魂たちが願った、”終焉”を・・・叶えるために、自分が涙を流すことも。





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