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所詮例え話*マット





「ねえ、あの、さ」


「んあー?」


「マットは、太陽みたい、だね」





二人、土手の上

伸びる影を見つめながら七海が言った


















 所詮例え話





















そうだね、マットが太陽だとしたらあたしは月




太陽はいつだって輝いてて

みんなに笑顔を与えるの



太陽の周りは明るくて




太陽がないと生きていけないのよ





太陽が皆に与えるのは


夢、希望、笑顔、勇気?

元気も、パワーも


太陽があるだけでみんなが幸せになれる






今まさに沈もうとするときだって

これから訪れる闇なんか怖くないよ、って



最後まで一生懸命真っ赤に燃えてる




大丈夫だよ、って

みんなの心に真っ赤で暖かい気持ちを残してく








でもね、月は

いつも暗闇の隅でひっそり



誰に何を与えるわけでもなく


ただただ真っ暗な中にぽかん、って浮いてる





太陽に追い付きたくて、触れたくて

必死に追いかけるけど届かないの


どんなに頑張っても、月が太陽に追い付くことなんてないの






だから、ね









そこまで言って七海は空を仰ぎ見た


俺もつられて上を見上げる









「あたしは、この時間が、好き」






だって、夕方の僅かな時間だけは

月と太陽が見つめ合ってるから



沈みながらも真っ赤に燃える太陽を遠くから見つめることが出来るから











ふわりと笑った七海は儚くて、今にも消えてしまいそうだった











「俺がもし太陽で七海が月なら」









太陽が与えるのが希望?元気?

何だか分かんねーけど






月がいなかったら夜は真っ暗だぜ



真夜中だって月が頑張って光ってるから俺らは道を見失わない




辺りが暗闇だろうと月の仄かな明かりが俺らを見守ってくれてる


だから俺らは安心できる


安心して眠れる






月はいつだって優しく俺らを見守ってる




太陽は月に追い付きたくて、触れたくて

一生懸命近づこうとするけど、太陽が出てくれば暗闇はどんどん消え去って



それに比例するように遠ざかっていく月は控えめに傍らで光っている




いくら太陽が月に触れたくても太陽が月に触れられることはない











だけど






「そんなこと、どーでもいいだろ?」


「……え?」






隣を歩く七海の手を握る







隣を見ればさっきまで儚げだった表情はぱちくりと目を見開いていて




それが、すごく、可愛くて




なんだか無性に抱き締めたくなった






俺って、思い立ったらすぐ行動な奴だから




気付いたら、抱き締めてた










「七海、俺らにはそんなこと関係、ないだろ?」








そうさ、だって、

















 所詮例え話
(俺もお前もここにいる)(こうして俺の腕の中にいる)(それだけで、十分じゃないか)











これ、相手誰でもよかったんじゃないかな…


20080914 C


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あきゅろす。
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