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05
待ちに待った夏休みがやって来た。とは言っても、図書委員である私はほぼ毎日学校に来ている。委員ではあるけれどこの図書室には勉強設備がないためにほとんど人が来ない、よって特に仕事はない。それに私自身本が好きだから苦ではないのだ。今日も私は真夏の正午過ぎ、最後の階段を上りきって真っ直ぐ行って突き当たり、古びた戸を開く。そこに広がるのは無人の図書館の、どこか神聖な雰囲気…




「おはよ!」




…ではなく。神聖な雰囲気を1人で相殺する力を持つほどの、バカが机の上に腰掛けて手を振っていた。






「な、ん、で!夏樹がいるの、ここ毎日毎日ずっと!」

「ばっかお前!草食系に文学要素は必須だろ!」

「…まだそんなこと言ってんの?」

「あとみなみが1人じゃ寂しいだろうと思って」

「はいはいお上手ですねー」





調子の良い奴め。ぶーぶーと何か言いたげな夏樹をかわして、私は委員用のカウンター席に座ると本と一冊のノートを広げる。ここは私にとって特等席だ。すぐ側にある少し大きな窓からはグラウンドが良く見えるから。



走るたびに背中のユニフォームが風ではためく。…あ!転んじゃった!転んで砂まみれだというのに口を大きく開けて笑う姿に、思わず笑みが零れる。本当にサッカー、好きなんだなぁ。




真っ白なノートに鉛筆を走らせる。小さい時から絵は好きだった。もしかしたら唯一の趣味と特技かもしれない。グラウンド、ゴール、白黒のボール、そして、真崎くん。表情は描かない。あんなにきらきらした笑顔、とても絵じゃ表現できないもの。





「なに描いてんの?」




不意に後ろからノートを覗き込まれる。隣に顔が並ぶのを感じて、反射的に机ごと叩くようにそれを閉じた。さっきまで大人しく本読んでると思ったのに、いつの間に…!




「な、何でもいいでしょ!」

「見せてくれてもいいだろー、お前絵ぇ上手かったじゃん」

「ダメなものはダメ…あ!ちょっと!」



一瞬の隙をついて私の手からノートを奪い取る。取り返そうと伸ばした手は、5年で大きく開いた身長差によって届かずに虚しく空をきるだけ。「返して!」「いいじゃんけち」私の必死の抵抗も叶わず、ノートは簡単に開かれてしまった。



「おー、上手い!」

「はい見た!見たでしょ、返してっ」

「…あれ?これ、背格好とかあいつみてぇ」







真崎






一瞬で顔に熱が集中するのが分かった。夏樹の口から出た3文字は私の喉を詰まらせて、上手く言葉が出てこない。このままじゃ気付かれる。誰にも、ほんとうに誰にも言わなかった私の気持ち。





「…え、当たり?つーか何、みなみお前、」






「真崎のこと好きなの?」









「…そうだよ、悪い?」



もう半ばヤケだった。どうにでもなってしまえ。あぁ、夏樹だけには知られたくなかったのに。絶対からかわれる、笑われる、お前なに言ってんだよって。顔を俯かせてぎゅっと、目を瞑る。






「そっか」





けれども私のそんな予想に反して、返ってきたのはその一言だけだった。思わず顔を上げてぽかんと口を開ける私と目が合えば、





「頑張れ」





なんて、大人びた顔でやさしく笑うから。私は小さな違和感を覚えることになる。






(なつきが、へんだ)
(こんなの夏樹じゃないみたい)

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