03
橋本夏樹と私の関係は、いわゆる幼馴染というものだ。小さい頃はご近所さんとしてよく遊んだりもした。けれど、私が中学校入学と同時に引っ越してからは何の連絡も接触もなくなってしまっていて。記憶の中で思い出になりかけた頃に、あいつは突然やって来た。
「せんせー!俺瀬尾みなみと知り合いなんだけど!」
「なら窓際の一番後ろ空いてるから橋本はそこ座れ、瀬尾ー色々頼んだぞ」
驚きから未だ声が出ない私をよそに、クラスの有志の手によって机が移動されて着々と橋本夏樹の席がセッティングされていく。背も髪も伸びていて、後ろから見たら誰だか分からないと思う。でも、ありがと、なんて言う愛嬌たっぷりの笑顔は昔と何にも変わってない。
「ひっさしぶりだなー」
「うん久しぶり…、じゃない!あんた何でこんな時期に転校なの!?」
「えーなんとなく」
「何それ!普通は親の都合とか…」
「じゃぁそれでいーや、親のツゴー親のツゴー」
「夏樹!!」
適当すぎる奴に私が掴みかかろうとした瞬間、夏樹の前の席…つまり私の斜め前から聞こえてきたのは、吹きだしたような笑い声。呆然とする私、私にシャツを引っ張られる適当男、椅子はそのままに身体の向きを横にした、私の好きなひと。
「俺、瀬尾が男子相手にそんなに話してんの初めて見た!」
「ま、真崎くん、ちが」
「マサキって名前?」
「いや苗字、名前は俊也」
「シュンヤ?俺橋本、橋本ナツキ!」
あぁもう、まだ私が訂正してるっていうのに!このままじゃ私が乱暴な子みたいじゃない。慌てる私の言葉を遮って、いとも簡単に真崎くん仲良くなってしまった隣の奴が憎い…ずるい!私は真崎くんとそんなに話したことない!
1限目始まりのチャイムが鳴って、数学の先生が大きな定規と共にやって来た。素早く前に向き直る真崎くん、教卓の前では先生が委員長の号令を促す。その時に、私はふと浮かんだ疑問を隣に投げかけた。
きりーつ。
「ねぇ、何で今年は日焼けしてないの?」
「…なんで?」
「小学校の頃とか、夏場はいつも真っ黒だったでしょう?」
「それはー、」
れーい。
「今年は草食系が流行るって聞いたからさ!」
ちゃくせーき。
お調子者なところも全く変わってないようだ。ふぅん、私は軽く相槌を打って机の中から教科書を引っ張り出した。
(なぁ、教科書見して?)
(前の学校のは?)
(どっかいった)
(………)
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