01 初めて出会った時は後ろ姿だった。何気なく目を向けた窓の外、太陽の下を駆け回る背中が眩しくて。他の部員たちと白黒のボールをあっちへやったりこっちへやったり、人ってあんな楽しそうに走れるんだ、なんてぼんやり考えていたその瞬間。不意に見えてしまった横顔に、くしゃくしゃな笑顔に、私は恋をしてしまった。 高2は中だるみの学年だと定義されているけれども全くその通りだと思う。日々じわじわと温度を増す教室にみんなうんざりした様子、授業なんかそっちのけでそれぞれ下敷きで風を起こしていて。それでも今日は風があるからまだ過ごしやすい。それは私が割と窓際の席だから言えることなのだろうか。 窓際2列目一番後ろが私の席。斜め前、いちばん窓際の後ろから二番目の席が真崎くんの席。普通好きな人とは前後や隣同士になりたいものだと思うのだけど、私はこの斜め後ろという位置が一番嬉しい。近すぎると常に緊張してなきゃならないし、たまにこっそりと横顔を覗き見ることもできないから。 第一、私みたいな何のとりえのない奴が近づきすぎちゃいけない相手なんだ。それは重々承知していること。真崎くんは何もしなくても人が集まる、絵に書いたような人気者で。男子はもちろん、私から見て…ちょ、ちょっと怖い感じの女の子(多少まつ毛が長かったりスカートが短かったり、ね!)ともよく話してる。そんな人が私なんかに好かれちゃ迷惑だ、だから諦めよう、諦めてよと今日も自分に言い聞かせる、のに。 めいっぱい開かれた窓から強い風が吹き込む。ばさばさと掲示物を揺らしたそれは、斜め前の机からふわりとプリントを攫って、何の悪戯か私の足元へと落としていった。 拾い上げたのは一枚のルーズリーフ。黒板の板書が男の子らしい字で走り書きしてあって、空白にはボールと数人の棒人間。吹き出しには「サッカーしてぇ」の大きな文字が。 「せのおー、瀬尾」 どくん、心臓が跳ね上がって頭が真っ白になる。好きな人に呼ばれる名前は私のものじゃないみたいだ。それオレのだわ、次に続いた声に慌ててルーズリーフを手渡す。その時に目を合わせてしまった、 「ありがと!」 見てしまった、あの笑顔。今は私だけに向けられた、だいすきな笑顔。 また決心が揺らいで崩れていく。むしろ諦めようとするほどに膨らんでいくのは気のせいだろうか。 もう授業どころじゃない。心臓が全速力で走り出して、何やら顔がとても熱い。周りに気付かれないように両手で口元を覆い隠した。ちらりと盗み見た横顔、視線はグラウンドに向けられている。 届いてほしい、そんな贅沢は言いません、だから。 好きでいることだけは許されないでしょうか? (あわよくばあのルーズリーフに) (頑張れ、と書き足す事ができたなら) [次へ#] |