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撃ち抜かれる(牛鬼編)






「さあ、着きました!」
「…鴉天狗達に連れてもらって来るのは予想外だったよ」


あはは、と力無く笑った。ちなみに今はというとハイテンションな彼女の勢いに逆らえず、外に連れられてしまっていた。服は魔法使いのままで、勿論雪女も猫耳をつけたままである。これでもしもご近所を徘徊したら不審がられることは、間違いないだろう。

何だかそれを想像したら、溜息を吐きたくなった。

しかし今はとりあえず最悪の事態には陥っていないので気を取り直す。


「…で、ここはどこ?」
「あれ、見覚えありません?」


キョロキョロと辺りを見渡すと木々が生い茂っていた。鬱蒼とした森である。今はまだ夕方よりも明るい時間帯のはずなのに、どこか薄暗い。
しかしやはり何となく見覚えはあった。


「さ、さ!あそこの玄関でさっきの台詞を言ってください!」


しかし思い出す前に雪女が急かしてきた。私はここで待ってますので、と言う彼女がさらに怪しく思えてしまい不審な目で見てしまう。


「どうかしましたか、リクオ様?」
「……ううん、何でもないよ」


だが思っていたよりも純粋な目に合ってしまい何も言えなかった。雪女の大きな目がくるりと一度、瞬く。
―――…どうやら邪まな考えで動いているわけではなさそうである。


(ええい、もう覚悟しろ!男だろ!)


結局腹を決めて現代の日本から消えつつある引き戸を数回叩く。その頃には何故自分だけ、といった思いは吹き飛んでいた。

しかし反応がない。
聞こえなかったのかと思い、もう一度叩いてみる。が、しんと静まり返っているだけだ。
待ってはみたが何の音沙汰もない。不安になって後ろに控えている彼女に問い掛けようとした。


「…雪女、誰もいないみたいだ、」


そのときだった、勝手に玄関の戸が開いたのは。


何の前触れもなしに開いたものだから一瞬身体が震えてしまった。しかし見ないことにはどうしようもないので、恐る恐る振り返ってみると、


「…ここまでいらっしゃったのですか」


少々面をくらった牛鬼が、そこにいた。















目の前にいる少年が可愛く見えて仕方がないのは、私が可笑しいのか、はたまた自然の摂理なのか。
出来れば後者だが、私はそこまで愚かではない。




実は先刻まで読書に耽っていたため、反応が遅れてしまった。最初は誰か出てくれるだろう、と静かに思ったがそのときはたと気づいたのだ――――今は全員出払っているということに。私、一人だけである。
それで重い腰を上げて長い廊下の先にある場所まで歩を進めた。一体この山奥に何用なのか、果たして誰が来たのかと少々疑問に思いながら。


(それで来てみれば、この方が)


開けて見れば黒いものが―――確か西洋の帽子だったと記憶していたが―――目に入る。そのものが振り返えって目が合ったのは、紛れも無く若き頭首候補であった。
まさかこのような山奥にまたもや訪れてもらうなど思いもしなかったので、虚をつかれてしまい、動けない。それは相手も似たようなものだったらしく、お互い黙ったままの状態が軽く一分は過ぎてしまった気がするのはおそらく気のせいではないだろう。


「…こ、こんばんは」
「今晩は」


一言発するのもなかなかの至難の技のように感じられたが、だんだん彼も私も覚醒してきたのか、まずは挨拶をしていた。居心地が悪いのか、それとも何か悩みがあるのかううん、などとそのあと彼は唸っている。
放っては置けずについつい手を出してしまうのは果たして良いことなのだろうか。


「ところで、どうかなさいましたか?」
「あ、うん、えっと……」


何か言いかけたが、


「あ…そういえばここ牛鬼の家だったんだね」


という質問の答えにならない返答が返ってきた。続けて、だから見覚えあったんだ、となんとまあ暢気な発言をするのだから笑えてしまう。


「来たときは回り見渡す余裕がなかったから、何か新鮮だよ」
「―――……それもそうでしょうね」


その科白を聞いて、この場所(といっても奥の部屋だったが)で刃(やいば)を交え死ぬ覚悟でいたのを思い出した。まるで遠い日のことのように、だ。微かに夜の彼が不敵に笑った顔が頭に浮かびあがり、また沈んで行く。
それを思うと、今こうしてこの場所に二人立っているのは、本当に感慨深いものであるように思われた。
もう二度と叶わない夢のように。そう、硝子のように脆く、すぐに壊れてしまいそうな。


「あ…で、今日はね。…えっと、」
「頑張ってください、若!」


その間も彼はまたもや唸り始めた。いや、唸るというよりは渋っているように思える。そんな悩める少年を離れた樹木と樹木の間から応援しているのは、側近である雪女なのだろう。普通悩んでいたなら助けるのではないか、と思いはしたが口にはしなかった。

数分彼は百面相を繰り返し、とうとう決心がついたのか、気合いをいれた。
そして紡がれた言葉はというと。


「お菓子をくれなきゃいたずらするぞ!」


という何とも可愛らしいもので、悪戯されたいと思ってしまった自分は、とうの昔に取り返しのつかないところまで嵌まっていたのに気づいてしまったのだった。





****
このあと牛鬼はお菓子をもっさりあげます^^
しかしながら余り現代のお菓子はなさそうなので、自家製のお饅頭でもあげそうです←
だけどハロウィンとは気づいていないので、あげた後に若に質問していたらいい(*´∀`*)
そんな事後設定ww←






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あきゅろす。
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