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暗示(鴆→若)






人間界の端っこにそれはあった。
そこは妖怪の間では有名であり、こぞって買いに来るものは多く存在する。皆気に入っているのだ。だが聞いた話、人間にも頼まれれば商売をしているらしい。よく出来るなあ、とほとほと感心してしまう。
そんなことをつらつら思い浮かべながら、引き戸に手をかけた。


「旦那、起きてるか」
「…そりゃあ、起きていますよ、鴆様。よくいらっしゃいました」
「おう」


頷いて部屋に入ると一面に布という布が敷き詰められていた。美しく艶やかな布、布、布。その中に少し痩せこけた老人が毅然として立っていた。


「頼んでおいたもんは出来ているのかい」
「勿論でございますとも」


何たって鴆様直々の頼み事ですからね、といけしゃあしゃあ言う辺りが商売上手だ。彼が一旦奥に入って取り出したものはとう紙に綺麗に包まれていた。ごくり、と喉が自然に鳴る。


「どうでございましょうか」
「―――…文句なし、だ」


とう紙から現れたのは見事な深緑だった。その味わい深さは恐らく見ていて飽きが一生こないだろう。そこにさらにひっそりと、だが力強く鳥が点在していた。遠目からは分かりにくいが、近ければ近いほどその圧倒的な存在感を感じるに違いない。それほどまでにこの布―――いや、羽織は見事であった。


「やっぱあんたは凄いな、こんなもん俺は作れねぇよ」
「はっはっは、人間何かしら特技はございませんとね」


いやその前にあんたは人間じゃ無いだろ、と思いはしたが言えなかった。ここではそれは禁句だ(何せ彼は自身が人間に化けているときは成り切ってしまうのだ)。

その後適当に妖怪間における噂話や世間話をしたあと代金を払って店を出た。

出る前に何食わぬ顔で、


「いったい誰の手にそれが収まるのでしょうね?」
「……」


と、自然に問われたがそれに答えることなく店を後にした。月はまるで何でも知っているぞ、とでも言いたいのか不敵に笑っているかのように見えてしまい思わず苦虫を潰したような顔になっていたのを、あの店主はきっと知らないだろう。










「…へ、僕にこれを?」
「おう、そうだ。やっとこさリクオが襲名宣言したからな」


その祝いの品だよ、と言ってやると照れ臭そうに笑った。貰ったばかりのものを熱心に見ている辺りが可愛らしい。


俺から見れば、昼のリクオは俺に安らぎを与えてくれる存在だ。人間らしい細かい気遣いなど正しくそれに当て嵌まる。ただ惜しいのは、と心の内で続けようとしてあ、と言って眉を寄せたリクオに注意を引かれた。


「これ、もしかし無くても結構値が張るんじゃあ…」
「そんなこと気にするんじゃねぇよ」


そう、残念なことに彼は物の値段を気にしがちなのだ(気にしてしまうのはきっと総大将のせいだろうが)。あとは成長していけば立派になるだろうが、これだけは治りそうにもない。


(まぁ、それがいいんだけどよ)


内心で呟くと、んと曇りなき目がこちらを向いて首を傾げた。声を出して居ないのに彼は何故か察してしまう辺りも実は末恐ろしいと思うのは誰にも言ったことはない。


「とにかくよぉ、義兄弟の盃を交わした俺からの贈り物だ。気にしず受け取るのが礼儀ってもんだろうよ」


どちらにせよ、まずはリクオに渡しきらなければ何も始まりも、終わりもしないので言うと、


「…ん、そうだね。大切に使わせてもらうよ」


と、なんとか頷いてもらえて安心した。そうとなればもう本家にいる用事もなくなってしまい、一気に居心地がむず痒くなる。理由は知っているだけに、何とも対処の仕様がない。
リクオは目を伏せて、寂しそうな顔をした。
―――……おいおい期待させるような仕種をするんじゃねぇよ。


「じゃあまたな」


色々な思いを捩伏せて背中を向ける。足は止まることはないと思っていた。後ろであ、とまた彼が言うまでは。


「これ、鳥がいるね―――…何の鳥かな」


肩がぴくりと動いてしまったのをリクオは気付いてしまっただろうか。
だがリクオは問いかけるというよりは寧ろ呟きのようだったので、


「……さあな、俺もしらねぇな」


と律儀に答えて素早く部屋を出た。顔を見ることは出来なかった。今もし誰かに見られたら変な顔をされるに決まっている。きっと―――…赤く赤く染まっているはずだ。

知らないはずはない。だって知っているからこそ、敢えて贈ったのだから。


(あれは、俺なんだ)


だがそんなことは口が裂けても自分から言うことなど出来やしない。だって恥ずかしいではないか、その理由がただの一方通行の独占欲だなんて。ずっと傍にいたい、自分が一番近い場所にいるんだとただ示したいだけがために作らせた、だなんて。今から思うとなんと浅はかで、浅ましい行為だったのだろうか。


(ああもう、あわせる顔がねぇよ…)


でも、もしリクオがあの羽織を着ているのを見かけたらきっと抱きしめてしまうだろう。まだ、愛の囁きさえ語らいあう仲にも進展しているわけではないのに。







****
鴆がヘタレです。ろうの好みです、はい。
いちよう鴆→→→若(この場合どちらも)ですが、若も少なからず気があるのに気付かない鴆哀れ(ェ

後日談も考えてあるのですが、夜若さま出張ります。
書けたら書きたいなあ!

ってか私の話、無駄に長くてすいませんorz







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