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共鏡(夜昼)





「今日しか逢えないってことにしたら、どうかな」

いきなり昼のリクオがそんなことを言い出した。髪を弄りながら遥か彼方に目線を向けている。
夜のリクオは、虚をつかれて思わず一拍息を止めてしまった。

「何言ってやがんだ」
「何って、思い付いたこと言っただけなんだけど」

言外に阿呆かと皮肉を込めて言ったつもりだったが、昼の姿は事もなげにするりとかわした。
こちらを向いていないせいかもしれない。表情が見えないせいで、意図が汲み取れない。
ああ、こういうずる賢さはやはり昼の方が一枚上手なようだ。夜は降参とでも言いたそうに頭を振った。

「嘘か真か知んねーけどな、そんな冗談面白くねぇし笑えねーよ」

むすっとして返せば、やっとリクオは顔をこちらに向けた。綻んだ顔が後背の天の川に溶けていきそうなほど澄んでいて、思わず夜は下唇を浅く噛む。

「だって君、しつこいんだよ」
「…しつこいってなあ」
「一年に一度だけ逢えるってことにしちゃえばさ、僕は勉学に従事出来るし、睡眠不足に悩まされることもないだろうし」
「悪かったな」

好きだから傍に居たいわけで、それに元から自分たちは二人がいなければ成り立たない。おかげでずっと寄り添えることが出来ていた。
夜はいつも愉しそうに、昼に纏わり付く。覆うこともあれど、それは四分の一にしか満たさない。
また覚醒したときに周りを見聞したくなるのも自明の理であった。昼の姿のときに夜の世界を知りたいと思わないことはないだろう。
昼のリクオだってそれは理解していた。解っていた。確かに言ったことは事実だ。だけれど、柔らかい空気に酔いしれることだって、実はある。満更でもないのだ。ただ面に出さずに包み隠してはいるけれど。
しかしながら、素気なく言ってはみたものの、いざ実際に自分一人になってしまったらと想像すると酷く恐ろしくなった。
―――いまや当たり前に存在している彼を失うことを逆にはっきりと自覚してしまったのだ。強く強く、認識してしまった。
だから、ごまかすように本音を本音でぼかす。

「でもさ、実際そうなったらって想像すると無理みたいなんだよね。…あんまり嬉しくないけどさ」

だから、冗談だよと笑ってみせる昼のリクオに思わず夜の姿が飛び掛かった。
うわ、と突然の重みに堪えられず昼は後方に倒れ込んで尻餅をついてしまう。
まだまだ発展途上の昼のリクオの身体は、同じ存在とは思えない長身に覆い隠されてしまったのだ。
見上げた空には一面の天の川。

「痛いよ、夜」

訴えて、しがみつく夜リクオを退かそうと試みたが、自分よりも背格好が豊かな者をどうすれば動かせようか。
直ぐさま自力でどうこうするは諦めたのか、昼は夜の背中に手をまわし、そして赤子をあやすように叩いて促した。
だが、夜は一向に動く気配を見せない。逆に頑なにしがみついてくるようだった。微動だにしない。
痺れを切らして、いい加減にしてとでも叫ぼうとしたとき、掠れた息遣いでそっと囁かれた。

「なあ、嘘でもやめてくれ。…持たねぇよ」

そしてさらに強くしがみついてくる。放さないとでも言うように。
昼は呆れてしまった。これではまるで大きな赤子ではないか。
泣いてこそはいないが、自身の妖怪の血の化身であるリクオが縋り付いてくるのは傍から見れば異様だった。一つの執着心が炎のように燃え上がっているのだ。いつも余裕綽々な、あのお山の大将が、である。
しかし、その原因を作ったのは紛れも無く自分だった。

「…馬鹿だなあ」

それは誰に向けた言葉なのか。
ただ、応えるように昼は夜の背中を強く引っ掻いた。




***
何を思ったのか七夕にちなんだ小咄です。どうなのコレどうなの?←
精神的昼夜なんですが、これは断じて夜昼です(きっぱり)
依存しちゃってる夜若とやっぱり依存してるのに気付く昼若みたいなみたいな!←←
七夕って年に一度しか逢えないということから、昼若に言わせてみました/(^O^)\
ひそかに捧げさせていただいた作品でもあります。


100710


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あきゅろす。
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