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恋に落ちる(夜昼)





「…どうにかなりそう」
「はん、なっちまえよ」

楽になれと囁く声に鼓膜が震えた。悪魔の囁きだ。相変わらず夜のボクは無責任にボクを煽る。
この空間は二人以外に何も生み出さなかった。いつでも咲いている時期外れの桜が印象的で、その周りは薄くぼんやりとしている。思い出そうにも思い出すことは出来ないくらいに曖昧模糊としていた。枝垂れ桜はいつでも咲き誇っていたが、それ以外はコロコロと場面は流れて行く。
とどのつまり夜と昼しかその世界にはいなかった。辺りは暗い。まるでスポットライトで一点を明るく照らされているようで、空虚の感が否めなかった。観客もいないのに、惑い踊るボクらは滑稽この上ないだろう。
―――でも逆らえないのだ、誘惑には。

「喜劇だよね、こんなの」

湧き出る情は循環している。ボクは君に、君はボクに惹かれて。
結局は表に出なく、永遠に巡り巡っていくのだ。
それが一番哀しい事実だった。

「ボクが君じゃなかったら良かったのに」
「おいおい、オレたちの“リクオ”を否定するのかい」
「そういうわけじゃないんだけど、ね」

だって君がボクじゃなきゃきっと少なからず匂うのだ。それは裏の秘め事ではなく、表で確実に誇示をする。
君とボクの繋がりを、如実に。

「オレはな、おめぇに溺れてんだ」
「…意味が分からないよ」

比喩的に例えるのを気に入っているのか、夜のボクは薄く笑って告げる。それがボクをからかっているように思えて仕方がなく、つい口をとがらせた。
それを見た夜のボクはやんわりと宥める調子であのなあ、と言う。

「だがだんだん溺れることに慣れちまって、逆に水が傍にねぇとしっくりこなくなっちまった」
「何それ」

と、一回は眉をしかめたが、はたと気がついた。

「…もしかしなくても、水ってボクなの?」

くすっと笑われる。

「おめぇ以外誰がいるかよ」

とくんと心臓が跳ねた。
嬉しいはずなのになんだか認めたくなくて、下手な言い訳が思い浮かぶ。
照れ隠しだと罵られてもいい。だが、何度も彼の掌中で踊るつもりはなかった。

「…組の皆のことかもしれないじゃない」
「なんで」
「だって皆がいるからボクらは頑張っていけるんだから。逆にいないとやっていけないじゃないか」
「…そうかもしれねぇけれど」

理屈は解るのだろう。しかしイマイチ納得できないのか、呆れられた。
同じ年齢のはずなのに、彼はどこか貫禄がある。ボクがまるで庇護される者のようで、いつも歯痒い思いばかりだ。
見ていられなくて、ぷいとそっぽを向いてしまった。けれどこの行動も幼稚だと思い当たり、さらに沸々と沸き上がるこの感情がそろそろ堪えられそうになかった。
そんな時、その一連の所作を見守っていたらしい夜のボクはいきなり、敵わねぇなあと呟き空間を一気に暖かな色に変えてしまった。

「あのなあ、確かに組の奴らはいねぇと困る。ってか困るに決まってんだろ」
「…夜のボクでもそう思うんだ」
「あったりめぇだろ。感謝してるくらいだ」
「だったらあってるじゃない」
「だが、そういうことじゃねぇ」

羽毛のように柔らかい雰囲気の声音にそろそろと視線を向ければ、目を引き付けられた。
―――ああ、彼はこんな表情〈かお〉も出来るのだ―――。

「愛してんのは昼のオレだけだぜ」

分かってんだろ、と促されだがうんとすんとも言えなかった。
ぶくぶくと音がする。溺れている自分がいるのだ。本当に息が出来ないくらいに、のめり込んでいた。
―――ああ、もうどうにかなりそうだ。

「ん、顔があけぇぞ?ん?」
「……ばぁか」

そうしてボクはまた―――。






*****
なんか可愛い昼若を見たくなったので。スパイラルです。輪廻?←
愛が循環しているんです、夜昼はと宣伝しときます。最初は耽美で最後は甘くみたいな。
最近昼若補給が中々出来なかったので、自家発電です(笑)


20100411


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