[携帯モード] [URL送信]
出し抜けの本音(夜昼)






あ、夢だ。

唐突にそう自覚した。
立っている場所は寸分違わず本家の庭で、周りの木々や池も寝る前に眺めたままだった。何もかもが嘘みたいに現実のままであるというのに、夢だと分かってしまった。確信してしまった。

だから、妖しい微笑を称えながらいる君でさえ夢だとしか思えなかった。廊下の端に立つ姿はなかなかに凛としている。だけれども、彼はそこから動かないのだろう。これは僕の夢だから。
普段、夜になればたいてい会っているというのに、この時ばかりは残像だと認識してしまった。


振り出しに戻って考えてみればおかしな話だ。君と僕は同じ人間で、どちらも『リクオ』だ。僕は灰色。両方に属しているようで、実は一人浮いている。
昼は人間、夜は妖怪――――そんな不思議なことがあってたまるか。
もし僕が一般人だったとしよう。妖怪や幽霊といった類いを信じない人間であり、さらに今までそれらに遭遇したことが無かったならば、必ずそう思うだろう。そして、たとえ目の当たりにしたところで認めようとはしない。目の錯覚、もしくはまやかしだと思い込もうとするのがたいていだ。だが、それも仕方が無いことなのだろう。人間、イレギュラーなものをそのまま素直に受け止めることは想像より難い。

ただ、僕は違う。僕の父は紛れも無くあの大妖怪、ぬらりひょんの血を半分も受け継いでいた。僕もまたその血のさらに半分が流れている。脈々と流れるそれが一時期欝陶しく感じたこともあったが、今では誇りに思う。


「なあ、昼の俺」


唐突に口を開いた彼に一瞬思考が停止したが、慎重に返事をする。


「――――なんだい、夜の僕」


切れ長な目が、そろりとこちらを窺った。
まさか夢で話し掛けられると思っていなかった僕としては、寝ているはずの身体が一気に熱くなった。ああ、夢なのに。たまらなく恥ずかしくなる。


「どうして俺はお前と同じなんだろうな」


ドキリ、とした。まさか今考えていたことを話し出されるとは思わなかった。胸の底が冷えてくる。

もしも、と思う。
もしも仮に、君と僕が同一の存在でないとしたら、どうなるのだろう。
生まれたときから、各々が個人で存在しているのだ。勿論夜が妖怪、僕が人間として生まれて。
双子だろうか、それとも歳の離れた兄弟だろうか。いや、もしかしたら親子かもしれないし、はたまた赤の他人かもしれない。
考えれば考えるほど闇に呑まれそうになる。その先の未来が壁となって僕を押し潰そうとしていた。息が苦しくなる。助けて、と心が堪らずに叫んだ。


「僕だって、分からないよ」
「……そうか」


しかし、それをおくびにも出さずに自身の考えを告げた。気の無い相槌が後から乗せられる。
実際どうしてかなど自分でも分からなかった。それは結局有り得ない話で、今現実には同じ存在である。考えても無駄なのだ。二人が別人で全く交じらない、有りもしない世界のことなど、空想の、仮想の物語である。
頭ではそれを分かってはいても、いざ当人に尋ねられたとなると感情が追いつかなかった。詮なきことだ、と知っていても尚恐れてしまう。だから何を答えれば、その疑問に彼が満足するのか良く分からない。というよりこれは夢だというのに、何故ここまで真剣に考えなければいけないのだ。だんだん、訳が分からなくなってしまっていた。


「俺はな」
「…なあに」


急にまた語り出した夜の僕に、一瞬気取られる。揺れた空気が覚醒の時を知らせているようだった。
ああ、このまま夢の中に全てを封じ込めれたら、どれだけ幸せなのだろう。
揺らぐ地面を感じつつも、近付いて来る夜を確かに僕は待っていた。自分から歩み寄る勇気さえ無いのに、来ることは拒んではいなかった。突っ立ったまま、足音の大きさに耳を澄ます。
まだ、目を覚ましたくはない。


「きっと一人じゃあ事足りないんだよ」


目の前に現れた彼は、また脈絡のなく話し掛けてくる。
ふわり、と髪が撫でられた。柔らかく髪を一房掬って、弄ぶ。


「どういう意味だよ」
「…一人ってのは難しいぜ?なんたって両手でしか全てを抱えきれねぇんだ。それじゃあ、したいことの半分も出来ねぇよ」


何が言いたいのだろう。そして、一抹の不安が頭を過ぎる。
果たして、これは本当に夢なのだろうか。


「なあ、腕を広げてみろよ」
「なんで…」
「いいだろ、減るもんじゃねぇし」


渋々腕を動かして、これでどうだと見る。意図が掴めずにいるのが余計に不安だったが、そんな想いはすぐに霧散した。いきなり捕まれたのだ。


「ほら、二人ならこんなにも広がるんだぜ?」


腕を持ったまま、彼は自身とともに僕の腕を横に広げた。広げられた腕は円を形どる。
ああ、彼の言いたいことが分かってしまった。な、とまるで見つけたものを自慢して伝える子供のような科白につい笑ってしまいそうになる。それでも途端に目が霞んでしまい、堪えるのに必死になってしまった。


「お前の思っていることなんざ、お見通しなんだよ」
「―――なにそれ」


辛うじて拗ねたように笑い返すと、頭を撫でられた。思わず口許が緩んでしまう。何故って、気持ち良いから。
そのままするりと手が頬を滑ってくる。近付いて来た感触を僕は甘んじて受け取った。吸い取られるような心地の中で、夜がそっと僕の耳に囁く。さあ、時間だよ、と。


「安心して、学校行けよ」


柔らかい空気が辺りを覆う。そっと押された感覚は、いつもの覚醒のときと同じ浮遊感。ああ、朝が世界を支配し始めたのだろう。
その時僕はやっとこれが現実だと思い知ったのだ。――――あの熱さは夢なんかじゃない。











****
曖昧な表現多用で申し訳ないです。ってかこのネタは二度目かしら…?好きだからシリアスめは結構これからも書くかもしれませんね(笑)
実は夢じゃなくて、リクオにとっての現実だった、っていうオチでした。実際は二人とも夜に意識が出会う、というのが不思議でたまらないと考えたのがネタ元です。
裏設定で夜若はお茶目だったっていう←






091130


[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!