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光陰矢の如し(黒+夜若)







妖怪は普通、ごく一般に知られるように長く生きる。永く永く世界の中に留まるということは、必然的に人よりは長寿になってしまうのだが、何故そうも長生きをしてしまうのかは実際の身体であっても理解の範疇を超えていた。


「…長生き、ですか」


ひとりでに呟いた言葉は虚しく風にさらわれる――――はずだったのだが。


「何考えこんでんだ」
「……わ、若!」


消える寸前に拾われてしまったのだ、しかも若は若でも夜の方である。そこではたと周りを見渡せば、闇夜が世界を占めていた。ああ、時間が過ぎるのは早い。先程までの燃えるような夕焼けが嘘のように、深い深い夜の帳が降ろされていた。


「何じじくさい発言してんだよ」


どうやら声に出していたようだ。ムッとしてまだまだ若いですよ、と抗議の声をあげると俺から見れば皆年上過ぎるんだよ、と言われるのだから仕方がない。しかし盃を傾けながら口許を不敵に上げるその姿は、はっきり言って貫禄がありすぎだ。若本来の年齢で考えれば十代の中頃であるはずなのに、どうみても渋い。渋すぎる。だからといって反論出来る訳でもなく、今度はきちんと口を噤んだ。


「…長生きするって、何だろうな」


不意にぽつりと零された言の葉は、ゆっくりと私に染み込む。憂いを含んだその声音にはっとして彼の目を覗き込んだ。闇夜に浮かぶ月を、薄雲に覆われ儚く浮かぶ月をその目に映す姿はあまりに美しく――――哀愁が漂っていた。


(不安に、思われているのだろうか)


妖怪はある程度の年齢になると外見上変化が見られなくなってしまう。おかげで昔数えていたはずの己の齢(よわい)も忘れてしまっていた。今果たして自分がいくつなのか、あとどれだけ生きていけるのか分かりはしない、いや分かりたくもないが。
興味がないと言えば嘘になるが、全てがどうでもよくなってしまうのだ。それだけ、人間の感覚とはズレている。しかし、


(…皆、すぐ老いてしまう)


それだけは天命だ。人間だって妖怪だって同じ穴のムジナ、逃れることは出来ない。

だからこんなにも美しいのだ、生が。
たとえ儚く散ったとしても、それもまた一興。
限りある命の中で誰もが己の道を切り開くのだ。生きている全てのものが、だ。


「…考えても仕方ありませんよ」


目だけがこちらに注意を向けられた。それを受け止めて、私は軽く微笑む。


「天命は誰も知ることが出来ないのですから」


彼は人間である前に妖怪の血を受け継ぐ偉大なる者なのだ。若は学校となるものに通い、触れ合い、そしてたくさんの学友を手に入れたのだろう。しかしいつかは決別の時が来てしまうのだ。違った、形式の。それは意図されたことではなく必然であり。彼はそれを思い、嘆いているように私には見えていた。


「―――…黒に諭されるとはな」
「な!どういう意味ですか!」
「そういう意味だよ」


今度は失礼ですね、と反論するといい根性だとニヤリと笑われた。一瞬慄いてみたけれど、あの月とともに映った不吉な影が弱まっているのを知って、心なし晴れ晴れとした気持ちになったのは言うまでもない。


(生きている限り、お傍で)








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黒を書きたかっただけです←
彼は人間はとくに興味なさそうですが若が多分ちらついて最初に呟いてるのだと思っていただけると幸いです。
本当はハロウィンでどこかに登場させる気ではあるんですが・・・何分滞ってるもので^^^←馬鹿
黒は普通に愛らしいです、はい。



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あきゅろす。
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