すき
手を出してと言うテンテンの右手には彼女愛用のハンドクリーム。俺は言われるがまま、黙って手を差し出す。
テンテンはチューブから出たクリームを指先で少し取って、手の甲からゆっくり塗っていく。
「ネジの手冷たい」
「いつものことだろ」
二人とも戦闘において手を特に酷使する。手入れは必須で、人に任せられることではない。だが俺の場合それは指先、爪までの話。
「冷えるのは嫌だけど、乾燥しないのは羨ましいなぁ」
冷えはするが乾燥がひどくてかさかさになるとかいう体質ではないので、ハンドクリームを使うことは滅多にない。
逆にテンテンは手が乾燥するらしい。冬場は特にこの愛用のクリームを使っている。そして機嫌が良い時、余裕がある時、思い付いた時なんかに俺にも塗ってやるから手を出せと言う。要は気まぐれだ。
「冷たくない方がいい」
「無い物ねだりね」
「お前もな」
マッサージを兼ねるかの様に、適度に力を加えながら手の甲や指にクリームを塗り込んでいく。その指先をぼんやり眺めながら器用だなと毎回思う。
「よし、上出来」
一通り終えた後、彼女は自分の左右の手のひらで俺の手を挟む。クリームが馴染むようにするためなのか何なのかは知らないが、ぎゅうと重ねるだけ。じわじわと体温が混ざっていく。
テンテンが最後に行うこの動作、一分にも満たないこの時間が好きだった。温かくて、彼女は満足そうにしていて、それにつられる自分も嫌ではなかった。
「ありがと、終わったよ」
「ん、ありがとう」
好きという感情はこんなにも心地良い。
fin
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