コトリとペンを置く。報告書を書き始めてから集中していた気を緩め、テーブル脇に置いていた缶コーヒーに手を伸ばす。来た時はちらほらと人が居た待機室は、いつの間にかネジ一人になっていたらしい。飲み終わったら誤字脱字がないか確認して提出、そして帰宅。
厄介だと聞かされていた任務が滞りなく終わったことに安堵しながらコーヒーを啜っていると、背後の扉がガラリと開いた。


「お、ネジじゃないか!」

入ってきた二人を窓ガラスに映った姿で確認して、缶コーヒーに口をつけたままネジはくるりと振り返った。


「一人で何してるんだ?」
「…報告書」

ぶっきらぼうにそれだけ言っても、テーブル上の物を見てすぐ理解したらしい二人は、そのままネジを真ん中にしてそれぞれ両隣に腰を下ろした。間に挟まれた事に疑問符が浮かんだが、ネジはまあいいかと流す。


「それより!上忍昇格したんだって?」

「やっぱりお前はすごいな、まだ16だろう?」

「…すごい事なのか?」

「当たり前だろ!昔からお前は何やったってすごいんだから、少しくらい自慢したっていいんだぞ!」


自慢しろと言われても、と半ば呆れるネジだったが、自分を祝ってくれているのだとそれだけは感じ取ることができた。



「あ、実はな、俺も少し昇進したんだ。ついこないだだからネジもまだ知らないだろうけど」

「昇進?」

「そう!分家総代の補佐役になったんだ俺」

「補佐役?あんたが?」

「はは、騙されるなよネジ。正しくは補佐役の補佐だからなこいつ。まだまだ下っ端だ」

「補佐は補佐だっての」


ネジを挟んでやいのやいのと兄たちは楽しそうに騒いでいて、自分が置かれた状況がなんだか不思議に思えてくる。こんな光景、ある日を境にぱったりと無くなってしまったから。



「まだ下っ端でいいんだよ!ネジが総代になる頃に立派な補佐役になってればいいんだから。それまでじっくり学ぶさ。なぁネジ!」

「いや、俺がなると決まったわけじゃ」

「いいや、なるんだ。兄さんたちに任せておけよ」

「話を聞けよ」

「そこは弟らしく任せておいたらどうだ?」

「…あんたまで」


ネジは言い返すのを諦め、また少しコーヒーを口に含んだ。別の話題に移り変わっても楽しそうな二人の間で、机の上の報告書の存在に気づく。窓の外は既に日が沈みつつある。いつ解放されるんだか、ぼんやり考えながら少しだけ笑った。


fin


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あきゅろす。
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