こども
一番星が姿を見せ、空もだんだんと藍色に変わってくる頃。風があり、比較的過ごしやすくなりそうな今夜。久しぶりに読書でもしようかと考えながら、分家の 古びた門の扉を押そうと右手を上げかけた時、内側からゆっくりと扉が開いた。ぶつからないよう横にずれると、相手も外側に人がいるとは思っていなかったら しく、ぱちりとお互い驚いたように目が合った。



「まぁ!ネジ君」

中から出てきたのは同じ分家の女性。両親と親しくしていた人だった為、幼い頃から見知ってはいるものの、実際面と向かって話をしたことはあまり無い。


「ネジ君久しぶりね。怪我の具合はどう?」
「はい、もう大丈夫です」
「そう?良かったわ」


うちはの生き残りが里抜けしたという事実は瞬く間に里中に広まった。それは日向分家も例外ではなかったが、ただその事実に加えて、俺が重体に陥ったことも知らぬ間に伝わったらしいのだ。


「みんな心配してたのよ、万が一の事になったらどうしようって」
「…大袈裟ですよ」


万が一などと、確かに一時は危ない状態だったらしいが、そんな風に言われていたなんて知りもしなかった。呆れたり情けなくなったりと返す言葉がこれ以上見つからない俺を見て、その人はくすくすと笑った。


「いいじゃない、ネジ君の心配したいだけなのよ。知らないでしょうけど、やっと堂々とあなたの心配が出来るって、最近みんな言ってるわ」

「?、どういう…」
「ふふ、今のは気にしないでちょうだいね」


幼い頃と違って目線は同じ高さになったものの、その言葉の意図も白く柔らかな眼が語りかける意味も、今の自分にはまだ分からない。



「あなたも分家の大事な子だからね。勝手に心配するのが親の役目ってものよ」




彼女はにっこりと嬉しそうに笑い、それじゃあまたね、と去っていった。
門の前に一人残された俺を静かに風が追い越していく。手に馴染む扉の感触がいつもより心地よく、響く木の音が穏やかだった。


fin


[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!