魔法をかけましょう
「ネジ?」
診察室から出てすぐ、廊下にある長椅子に腰掛けていた人物を見て、チョウジは思わず足を止めた。
「待っててくれたの?」
「報告、案外早く済んだから」
今日共に任務に就いた彼は怪我を看てもらわなければならない自分の代わりに任務終了の報告に行ってくれた。てっきりそのまま帰っているものと思っていたが。
「腕、平気か?」
白い瞳の視線がチョウジの左腕で止まる。ネジの横に並んで座り、チョウジは真新しい包帯の巻かれた腕を少し持ち上げた。
「大丈夫。お風呂の時に濡らさないよう気を付ける事、それだけだったよ」
「そうか」
それだけ言って、白い瞳は伏せられた。それだけの動作がなんだか凄く綺麗だった。言ったら怒るだろうかとぼんやり考える。
「へへ」
「どうした?」
白い瞳が今度は不思議そうにしている。
「ネジはかっこいいなと思ってさ」
「なんだ、いきなり」
「うん、ネジは強いし優しいだろ?だからかっこいいなって思ったんだ」
チョウジはにこりと笑う。
反面、かっこいいと言われたネジは何とも言えない顔をして数秒間言葉を探す。
「…凄いな。お前が言うと嫌みに聞こえない」
「ええ?本心だよ?」
「ああ悪い、そういう意味じゃなくて」
難しい顔をしているネジを見て、チョウジはまた少し笑みを浮かべた。きっとうまく伝えられる言葉を彼なりに探しているんだとチョウジは大人しく待つ。
そういえば、ネジと打ち解けたのも病院だったなと思い出す。サスケを追ったあの任務で二人して重体で、他の皆より入院期間が長かったんだったか。他人の表 情や感情の動きに聡いチョウジはネジの不器用さも早い時点で見抜くことが出来た。気まずいのは最初だけ、壁が無くなれば優しさも優しさとしてちゃんと伝わ るのだ。
「へへ、ネジみたいなかっこいい兄ちゃんが欲しかったなボク」
ネジはいよいよ閉口した。全て分かっているかのように笑うチョウジの前では尚更そうするしか出来なかった。
「お前に褒められると、」
「うん?」
「…いや、なんでもない」
「そっか」
それから病院の前で別れ、それぞれの帰路につく。別れ際のネジは今日一番の穏やかな顔をしていたとチョウジはやはり少し笑って思い返した。
fin
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