瞳の言葉
報告を終えたあと、消灯時間を過ぎて暗くなった廊下でお疲れ様と眠た気に挨拶を交わして部隊は解散、数日掛かりの任務が終わった。
最上階の火影執務室前から一度資料室へ向かい、数冊の本を棚に返してテンテンは廊下を戻っていく。
一階ロビーは大きな窓が取り付けてあるため日が入りやすく、昼間は常に誰かしらが話し込んでいたりする場所だ。夜でも月明かりが差し込み、いまテンテンが歩いている数十メートル離れた所からでも十分に明るさが窺えた。
「テンテン」
月明かりに入ると同時に、急に飛び込んできた自分を呼ぶ声にピタリと足が止まった。
「え、ネジ?」
ま さかこんなところに居るとは思わない。座っていたソファーを離れスタスタと歩いてくるネジ、突っ立ったままのテンテン。そして、どうしたのと言おうとした 彼女の声は途切れてしまう。彼と彼女の普段の距離感を作って止まると思われた彼の足は止まらず、テンテンの方へさらに一歩大きく踏み込んできたからだ。
外で距離がゼロになる事は滅多に無いはずなのに、頬がネジの肩口に軽くぶつかった。背中に腕が回ったことでやっと抱きしめられている事に気付いた。
「な、に? どうしたの?」
どう考えてもここは家ではない。ぎゅうと抱き込まれたままテンテンは瞼をパチパチと動かす。誰かに見られたらと一瞬心配になったが、ネジのことだ、確実に誰も居ないからこうしているに違いない。
「遅いから」
「あれ、もう9日終わっちゃった?」
首を少し動かして、ネジの肩越しに壁掛け時計を見る。日付変わって20分ほど経過していた。
「ごめんごめん、予想外に長引いちゃってさ」
「……」
「なぁに、そんなに当日中にお祝いしたかったの?」
すっ かり身体の力を抜いて体重をネジに預けたテンテンは、けらけらと笑ったが彼は黙ったままだ。そのだんまりを、図星で言い返す言葉が無いから口を閉ざすとい う、彼のよくやる行動パターンの一つだと判断したテンテンだが普段なら更に突っ込んでからかう所を今回は止めた。純粋にここまで迎えに来てくれたことが嬉 しいし、数日振りのネジの体温が心地良い。
まぁそういうことにしといてあげるわ。と、そう言うつもりだったテンテンの声は再び途切れてしまう。
「そうだな」
誕生日だしなとネジは言った。
少しだけ体を離してようやく見た彼の顔は、眉間にシワを寄せて照れてもいないしふてくされてもいない。テンテンの予想からは大きく外れて、とても優しい顔をしていた。
「昼には戻ると言ったくせに帰ってこないから、一人で暇潰してた、けど、やっぱりお前が居る方が、良いな」
テンテンの上にぽつりぽつり声が降ってくる。驚いた顔のまま固まっているテンテンをふと一瞥したネジが小さく笑った。
「だから、お前が生まれてきたことが俺は、嬉しい」
月明かりの様にぼんやり光るネジの瞳から目が逸らせない。目は口ほどに物を言うとは本当なのだ。テンテンの自惚れでも勘違いでもなく、好きだと、言ってくれている。
テンテンが不在のテンテンの誕生日に、彼は一人でどんなことを考えていたのだろう。
その瞳の言葉が総てだと受け取って良いのなら自分は幸せ者だ。
「…ありがと」
顔を隠すように俯いたテンテンは、今度は自分からネジに抱き付いてぎゅうと腕に力を込める。ゆるゆると彼女の髪を撫でるネジの瞳がいま何を語っているか、いまのテンテンに疑うものは何も無い。
fin
3/9 HappyBirthday Tenten !!
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