伝わる
ガラ、と扉の開く音がしたので見てみれば、入ってきたのは小さな犬だった。


「(赤丸…?)」

そいつは病院の固い床を同じく固いであろう爪で音を鳴らしながらやってきて、軽い身のこなしでベッドに飛び乗った。その前足には包帯が巻かれていたが、先 程の様子からしてもうそれ程深刻な状態ではないのだろう。主人はどうしたのかと思ったが、そういえば今朝方その主人が今日は検査ばかりで滅入ると愚痴って いたのが頭をよぎった。


「お前も退屈してるんだな」


そう、退屈なのだ。
することが無い。話し相手などはいらない、代わりに本なんかがあればいい。だが、今ここにある本は暇なあまり全て読破してしまった。気になっていた本を短 期間で一気に読めたのは嬉しいが、また新しく本を持ってきてもらおうにも頼りのテンテンは数日前から遠方に任務に出ていた。

赤丸の柔らかい毛並みを撫でながら、ぼんやりと窓から空を見上げる。
彼女は大丈夫だろうか。一人でガイの相手など自分は出来るならしたくはない。帰って来るのは確か明後日。疲れ切った顔でやってくるか、はたまた解放感溢れる顔をしてくるか、


「……」


…いや、分からない。

目を覚ましてもうすぐ2週間。なんとなく、本当になんとなくではあるがテンテンの言動に少し違和感を覚えている自分がいる。怒っている、近寄ってくる、悲しんでる、避けている、嬉しがっている、悔しがっている、どれも違うようでどれも当てはまるように見えた。


小さく赤丸が鳴く。いつの間にか撫でる手が止まっていたらしい。



「…よく、分からないな」


他人の変化など気にしたことはなかったし、自分はそういうことに疎いのではと今更思う。違和感を目の当たりにして気付くなんて本当に今更だ。自分には欠けてるものが多すぎたんだ。

一つ鳴いて不思議そうに首を傾げる赤丸の言わんとしている事は、当然だが分からなかった。それでも何か伝わるものがあるのも確かで、それだけが今は嬉しかった。

fin






以前の自分、周囲の人間、今後の自分。入院中に色々考えるネジ。ある意味で良いリセットになったのかもしれないなと。

ネジ←テンだけどネジ→テンにはまだなってない。


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あきゅろす。
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