一粒の欠片
7
「一度真ん中まで行ったのを入口まで戻ってくるのは体力使いますね。」
ふぅ…と俺は息を吐いて少し乱れた髪を撫でしつける。
「こっち見た時に気づくかな?と思ったんだけどな」
「すみません。まさか夕也だとは思わなかったんでスルーしてしまいました。」
ほんと、気づいてたら今俺はこんなに疲れてない。
今日は疲れっぱなしだ。
エロホストといい、18禁顔といい、南狩雅也といい・・・(って、全部一緒か)
「榎緋さぁ、見えねぇんだったら前髪上げれば?」
そんな俺に呆れたのか、(いや…事実呆れてんだよな)溜息を吐かれる
「…すみません」
「別に謝んなくてもいいさ」
からりと笑った夕也は俺の隣に座った。
「榎緋ってなんか隠したがるけどさ、見られて困るような造作はしてないじゃん」
唯一、俺の素顔を知る夕也が突っこんでくる。
見た目育ち盛りのやんちゃなガキな夕也は中身もやんちゃなガキってな感じで好奇心旺盛だ。
そのやんちゃさを侮った結果、前髪も眼鏡もない状態を見られてしまったのだ。
夕也はアレの事については知らなかったみたいで、最悪の結果だけは免れたみたいだけど、他には俺の素顔については他言無用ってことでお願いした。
隠している理由は『自分の顔が嫌いだから』という事にしてある。
じ…っと髪と眼鏡に隠された顔を見つめてくる夕也から僅かに顔を逸らす。
「そう思うのは夕也だけですよ」
「そうかぁ?」
「そうです。周りの目が真実を語ってるじゃないですか」
と言っても、見られたこと無いんだけどね
「あらやだ!周りの目は信じれるのにせっくんの言葉は信じれないっていうのね!」
うん、“せっくん”の言葉は信じられません。
てか、せっくんって誰だよ・・・
「夕也…今とても疲れてるんでそのテンションはうざいです。」
ちょっと、おどけて言ってみたら
ガーーーーーン!!!っていう効果音が本気で聞こえてきた。
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