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一粒の欠片
12

sid 葵&幸汰


「初めまして、楠木 榎緋です。」


一番後ろに座る俺は
クラスの全員が引いたのが分かった。

それと共に続く落胆のため息と侮蔑の声


耳障りだ


横に座る、幼なじみの葵でさえ目を点にしている。


間抜け面


教卓の横に佇む彼は、見事にクラスの期待を裏切った。


黒いバサバサの髪
黒縁の眼鏡
陰鬱な感じ



期待していたモノは


綺麗か
可愛いか
格好いいか


ほんとにくだらない


彼はこれから大変だろう。

葵は…このバカは構うんだろうな。

俺の時もそうだった...。

あの時は小さいながらも俺は、鬱陶しい奴だと思った。
でも、いつの間にか一緒にいるのが当たり前になって....



葵は根が優しすぎる


葵が絡むなら、俺も必然的にそうなる。


楠木 榎緋

いい奴だと良いんだが。







「教科書忘れたわ、取ってこい楠木」


「あ〜ぁ、またやられてる」

恒例になりつつある南狩の榎緋弄りに葵が苦笑をもらす

「飽きないよなぁ南狩のヤツ」

「葵、面白がってるように見えるが」

周りに気付かれないように笑いを噛み殺している葵を隣に座る幸汰が横目で盗み見る


「…若干なw」

「大半、の間違いだろ」


幼なじみの楽しげな口振りに溜め息をつく幸汰だが、もちろん本気で面白がっているわけでは無いことを理解している。

葵も冷めた態度で傍観の姿勢をとる幸汰がそのままの感情を抱いているとは思っていない。


つまり、態度の裏では心配している事を互いに分かっているのだ


二人の目線がかち合う

「・・・・こけてないかなぁ」

「・・・・迷ってなければいいが」

心配する観点が二人して多少ずれていようとも榎緋を想う気持ちはどこもずれてはいない



楠木 榎緋は今、この2人と常一緒だ。
あの衝撃的とも言える転校初日から葵が構い倒し、口説き落とした結果だ。


幸汰はその時の事を一言でまとめると『ストーカー』と言うだろう。


榎緋にとって、それが有り難迷惑にならなかっただけ良かったのだが







カラーン...カラーン...


葵と幸汰は先に教室を出た。
すぐ後に、榎緋がうなだれて出てくる。


「お疲れ」
「頑張ったなぁ」

いつもの事なのだが、今日はほぼ榎緋だった。
なんでコイツはあれだけされて何も言わないんだろうと思う。



これまでで分かったことが1つ。


楠木 榎緋は決して、

“弱く”ない

何かが起こって分かった訳じゃない
でも、そう思った。そう感じた。








「ありがとうw」

髪が揺れてはにかむような笑顔が見えた。


思わずドキリと2つの心臓が跳ねる


黒い装飾物でほとんどわからないというのに…
未だ未知数な少年に自分達は翻弄されている


『…はは‥は』
『…』





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あきゅろす。
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