「シンジくん髪の毛乾かしたげる!」 僕が風呂からあがるなり渚はそう言った。片手にドライヤーとクシ。うん、と返事もしてないのにやる気満々だ。 「いやいいよ。自分で乾かすし」 「だめー!僕がやる!ほら、シンジくんの髪の毛も僕に乾かしてほしがってるよ!」 …なんじゃそりゃ。 あいつ1回言ったらきかないからな。仕方ない、今日は特別に乾かさせてやろう。 …別に乾かしてほしいわけじゃないぞ。断じて違う。渚がああ言ったからやらせてやってるだけだぞ。…うん。 心の中で自分自身にそう言い訳しながら、仕方ないな、と僕が返事をした。渚はわーい、とドライヤーのコンセントを差し、あぐらをかいている僕のうしろにちょこんと座った。右手にはドライヤー、左手にはクシ。 「おとなしくしててねー」 かち、とスイッチの音がしたとたん、ぶおっと生温かい風が僕の頭にかかる。 「おかゆいところはございませんかー」 「ばか、それシャンプーのときに言うセリフだろ」 くすくす笑いながらつっこんだら渚もそっか、とふにゃりと笑った。 不器用ながらも左手で僕の真っ黒な髪にクシを通していく。時々ひっかかって痛かったけど、渚の真剣な顔を見てたらしかるにもしかれなくなった。むしろなんだか心地いい。ドライヤーの熱風のせいで、頭が、温かい。 「はい完成っ」 5分くらいたったあとだろうか。スイッチが切れる音がした。だが、乾かし終わってもなお渚は僕の髪をとかすのをやめない。自分の頭からしゅ、しゅ、とクシの通る規則的な音がする。 「乾かし終わったんだろ?」 「うん」 「…とかすのやめろよ」 「やだー」 「なんで」 だって、シンジくんの髪の毛ふわふわでさらさらで僕だいすきなんだもん! さっき以上のふにゃりとした笑顔。 僕のすきな笑顔でそう言われた。 ふわふわのさらさら 20091220. |