7 人間失格!?
「Congratulations雪嶋。大不正解」
解いた問題が不正解で、こんな嬉しそうな顔されたの、人生で初めてです私。
act.7 人間失格!?
伊達君は私のほぼ何も解けていないまっさらなノートを見て、すぐに目を細めて笑った。そりゃもう、楽しそうに。
もしかしたら今まで見た、元々希少価値の高い伊達君の笑った顔の中でも、一番嬉しそうで楽しそうかも。
私はそれにやっぱり見惚れてしまったけど、まだ背中を伝っていた冷や汗の感じが拭えなくて、あんまり幸せな気分で見惚れられなかった。
結局私がシャーペン片手に3の二乗が3×2だったか、3×3だったかで迷っている内に、制限時間の1分はあっさりと過ぎていってしまった。
もちろん問題は解けているはずも無くて、正直未だにあの、こさいん?とかいうのが何だったのかすらわからない。
あ、あれ絶対私が解けるレベルの問題じゃない!と思って伊達君に抗議したかったけど、私にそんな勇気があるわけもなく(というか伊達君には、言っても「それがどうした?」とか言われそうな気がするよ…!)、とってもとっても嬉しそうな顔をしている伊達君の横顔をほとんど放心した状態で眺めるしか出来なかった。
……あ、でも。
伊達君が、私の事でこんなに喜んでくれるんだったら、悪くない、かなぁ、なんて。別に私じゃなくてもよくて、ただ単純に奴隷が欲しかっただけかも、しれないけど。
てか奴隷って何するんだろう。ぱしり、みたいなものかな。だといいなまさかとは思うけど、人間扱いされないみたいなのは、無いよね…?(いやいやいやまさかまさかまさか!!)
「じゃ、持ち物鞄に詰めな」
「…はい?」
「屋上に移動する。俺のlunchも買ってきてもらいてえしな」
伊達君が言ってすぐ、がたん、って大きな音を響かせて立ち上がった。それから私の教科書とノートを座ったままぽかんとしている私に押し付けて、「hurry up雪嶋」って言った。
(え、てか今授業中ですけど伊達君!)
突然立ち上がった伊達君に向けられていた視線(というか、関心?)が、彼が私の名前を呼んだことで、一気に私に集まったのがなんとなく分かった。
みんな、必死にこちらを見ないようにしてるけど、な、何ていうんだろう、すっごい注目されてる感じがするんですけど。
その中でかすがが私の方心配そうな顔で見ててくれたから、小さく手をふって合図を送る。これで大丈夫よ!って伝わるかなぁ。かすが意外と心配性だから、後でメールしたほうがいいかもしんない。
や、でも、かすがでさえあんなに心配そうな顔するんだから、ほんとに傍から見たら私が伊達君になんか失礼な事とか言って、今からリンチされます!みたいにしか、見えないんだなぁ。
…とりあえず授業を抜け出すカップルとかには、見えないだろう。と思ったら、かすがを見ていた目のはしっこで、前田君がすごく楽しそうなやけにキラキラした顔で私を見ているのが見えた。
人事だと思ってお前なに笑ってんだこら!とか恨みがましく睨んでいたら、側頭部をずびしっと小突かれた。
「荷物、それだけか?」
「えっ、あ、ッハイ!」
「じゃ、付いて来な」
スタスタと歩く伊達君の後を、どうにか早足で追う。
教室は静まり返って、みんなが私と伊達君を見ていたけど、誰も止めはしなかった。
(す、すごいな、教師さえ恐れる伊達君パワー…!さすが私立!?いいいやでも私だったら絶対生徒指導室へゴーだよ!)
教室から出た伊達君の背中に見とれながら、私もいつかの伊達君を真似して、開いていたドアをきちんと閉めた。
廊下の窓から見える天気は、まぶしいくらいの快晴だ。
つーか私授業抜け出すの初めてだよ!わーわー!とか思ってドキドキしてたら、私のずっと前を歩いていた伊達君が少し不機嫌そうな顔で振り返った。
そして、
「遅ぇぞ、織」
って言った。ギャアすいません!って思った次の瞬間、あれ?って思う。
(今、伊達君、織って…!!)
怒られたはずなのに、私の心は尋常じゃないほどにドキドキして。
浮き足立ちそうになるのをこらえて、また歩き出した伊達君の背中を追いかけた。
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