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6 吹き荒れる初夏の暴風




こんなの、普通にわからないって。いや私がバカだからとかそういうの除いても!





act.6 吹き荒れる初夏の暴風





授業が始まってもう21分。

伊達君と私の机がくっついてから15分。


伊達君はしばらく私の教科書をくるくる回して遊んでいたけど(ちょっと可愛い)、どうも飽きたらしくずっと窓の外を眺めてらっしゃった。勉強する気は皆無らしい(じゃあ何で教科書せがんだんだ!?)。

対する私はしばらく隣の伊達君が気になって気になって、何だかいい匂いがするような気さえして(てか実際してたよ!)、だけど、伊達君に「すいません受けますごめんなさい数学大好きですホント」とまで言ってしまった手前、全く授業を受けない訳にはいかない。ので、一応形だけは真面目に授業を受けていた。内容は、全然頭に入ってこないけども。



ただでさえ数学苦手なのに、こんな状況で集中できる訳無いよなぁ…。

これは中間と同じく、赤点を取ってしまうかもしれない、と溜息を吐いていたら、ふとこっちを見ていた伊達君と目があった、様な、気が、しないでもない。

…勘違いだったら恥ずかしい上何か自分がキモいので慌ててまたノートに視線を戻したら、こつん、と椅子の足を何かに蹴られた。



「…なぁ」



またいきなり…いや今回は少し前触れがあったけど、やっぱり驚くっていうかああもう驚くだろ普通!!(逆ギレ)

……えと、とりあえず声を掛けられて、物凄い勢いで私は思いっきりシャーペンの芯を折ってしまった。今の絶対芯だけじゃなくて本体も折れただろ!?ってぐらい大きな、バチィッ!!という音と共に。


伊達君が声をかけてくれたのだからどうにか返事をしたかったんだけど、声を出したら絶対裏返っていそうな気がしたので、とりあえず顔だけあげて伊達君の方を見る。


伊達君はどうやら授業が全然楽しくないようで、とてもつまらなそうな顔をしていた。

私がそのまま美人はどんな表情してても美人だなぁ、とか思いながら伊達君を見ていたら、伊達君が私の黒板を写しただけのノート(だって問題とか解いてる余裕ないもん)を覗き込んで、なんていうか……ニヤリ、って感じであやしく笑った。

…え、なに?怖いんですけど、私がちょっと怯んで、「あ、あの、伊達君?」と声掛けたら、伊達君がAh?、と短く返事した。



「何がんばってnoteてか取ってんだ?」

「え、だってさっき伊達君が授業受けないの?って言っ」

「俺が退屈だろ」

「……はい?」

「それ、ちょっと借せよ」



伊達君が私のノートを攫っていって、銀の細いシャーペンで何か書き出す。

教科書とノートを奪われた私の机の上には、もう筆箱とシャーペンと角の丸くなった消しゴムと芯の折れた部分しか残っていなくて、とても殺風景になっていた。(切ない)



一番前で何か難しい公式の話をしている、たまに不思議なとこで噛んで咳き込む北条先生の声と、黒板を叩く真っ白いチョークの音の方が絶対に大きいはずなのに、私の耳には伊達君の動かしているシャーペンの音しか聞こえない。



(…うわ、伊達君、指、長いなぁ。なんだか骨っぽくて私のとは違う気が、する)



一度自分の指とどう違うのか比べてみたかったけど、一瞬でも伊達君から目を逸らしたら勿体ない気がしたので、今一生懸命見て覚えて後で比べようと思った。(がんばれ私の脳みそ!)



ノートにすらすらと書かれていってるのは、何だろう?難しい記号と数字がいっぱいだ。

正直今さっきまで北条先生が話していた公式の話より難しいと思う。



(このcos120°ってなに?こすひゃくにじゅうど?単位?暗号?)



私がきょとんとしてノートのど真ん中に現れた細い字を見ていたら、すぐ傍の伊達君が楽しげな声で言った。



「これ、解いてみな」



伊達君がシャーペンの頭でこつこつとノートを叩く。…はい?



「伊達君これなんて読むの?」

「aの二乗イコール3の二乗プラス6の二乗マイナス2×3×6×コサイン120度」

「あのー日本語ですかそれ」

「2分以内に解けよ?俺ァそこまで気は長くねぇんだ」

「え、いや伊達君これはちょっと」

「Start」

「ままままま待ってホントこれまず読めな」

「十秒経過」

「ええええ心なしかカウントが早い」





「解けなかったら雪嶋、俺の奴隷決定な」





バチィッ!ってさっきも聞いたような音がして、私のシャーペンの芯がまた物凄い大胆な感じで折れた。正確に言うと伊達君の方目掛けて飛んでいった。(命知らずの芯だアハハー……ってまじかよ!?)

伊達君がそれを華麗にあの大きな手のひらで受け止めてそれから左目を細め、口の端を歪めて笑った。(邪悪だ!)





「制限時間、1分に変更な?」





軽くご立腹しているらしいお声が鼓膜に届く。

シャーペンを片手に、私はやっぱり動く事が出来ずにいる。



(あれ、この「動けない」って台詞、今日で何回言ったっけ?)



そんな事を薄れそうになる意識の中考えている私の背中には、もうすぐ夏が来るというのに冷たい汗が伝っていた。





……アレ?『3の二乗』は3×2でよかったっけ…? ふつうにわからん!!(半泣き)







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あきゅろす。
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