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3 落下する放課後




夢だったらいいなぁ、と思った。



夢じゃないけど、噂に聞いていた、一応は学校の指定である学ラン。の、裏地の物凄い豪華な、龍の刺繍(こっちは指定じゃないよ!)。

そして、茶色い髪の下の、右目の黒い眼帯。

呆然として声も出ない私を尻目に、つかつかとこちらに近づいてくる彼は間違いなく……本物の、伊達政宗君だった。





さーって血の気が引いていってるのが自分でもよくわかった。

最強不良のお席で超ご機嫌に夕日を眺めて、さらにたった一人で校歌をノリノリにハミングし、それを伊達君に見られた。


これは、確実に、ぼこられるだろう。色々な理由で。


まず席に近づいた事でぼこられ。
あとなんか気持ち悪いみたいな理由でぼこられ(だってなんか校歌歌いたい気分だったんだもん!婆沙羅高サイコーって気分だったんだもん!!)
アイスを外に落とした(あれでもこれは伊達君には無害だからいっか!)



ボコボコにされる事への恐怖で声も出ず窓枠にもたれたまま動けなくなっている私。

そしたら伊達君は、そんな私に少し首を傾げて、唯一見える左目を瞬いた。



「俺の事なら気にしなくていい。ただ忘れもん取りに来ただけだからな。続けていいぜ?」



と言った。

そして机の前に屈んでなにやらごそごそと中を弄る。

私はその間も動く事ができなくて、結局彼が机の中からiPod(…え、学校来ない間ずっと机に入れてたの?)を取り出して立ち上がるまで固まったままだった。



夕日で真っ赤にそまっていた伊達君と教室の色が、ゆっくりと濃紺に染まる。

その時の伊達君は、なんというか、こんな時にいうのもなんだけれど、とっても綺麗なひとだと思った。


茶色のサラサラな髪の毛。
切れ長の左目。
すって通った鼻筋。
きゅって結ばれた薄い唇はとっても形がいいし、…なんていうんだろう。

とにかく凄く、カッコイイ。

この人があの伊達政宗じゃなかったら、私は恋に落ちてしまっていたかもしれないなぁ、なんて事をぼんやり思った。(私は偏見に惑わされている!)



そんな事を考えていたら。



「なあ」



突然伊達君に声を掛けられた。

私は物凄く驚いて、せっかくいい感じにぼんやりしてこの状況から逃避できていたのにまた現実に戻されてしまった。


夕日が完全に沈んだせいで真っ暗になってしまった教室は次第におどろおどろしい空気に包まれ始めていた。
…イヤたぶん暗いせいだけじゃ、ないと思うんだけどね!?(例えば目の前にいらっしゃる伊達政宗君の意味不明な微笑とかそうゆうの…!!)



「俺が言った事、聞こえなかったか?気にすんなって」

「…へ?」

「続き、歌えよ。校歌」



せっかく楽しそうだったのに、邪魔したみてぇで悪かったな。

そう言った伊達君は、優しげで、普通の男の子の顔して笑ってた。



…噂で聞いてた、伊達君とは違うかも、って思った。本当は、この人、そんな怖い人じゃないのかも…なんて。



教室を出ようとする伊達君の背中は、とてもまっすぐに伸びていて、私はやっぱり綺麗だなぁと素直に思った。

教室の中は先程と変わらず真っ暗だけど、もうそんなに、おどろおどろしくない、気がする。


きちんとドアを閉めて出ようとする伊達君に何か言いたくて口を開いたけど、何て言っていいのか分からなくてまた閉じた。

心臓が、いつもよりちょっと大きな音でなってる。緊張が解けたからだろうか。

それと、も。



「……雪嶋?」

「っは、はい!?」

「See you tomorrow」



うわ、ぁ。



「う、うん!すぃーゆー!」



真似して英語(風)に言ったら、また伊達君は笑った。






伊達君の帰った教室は、とっても静かで、暗くて、外の星がよく見えた。



(伊達君…かぁ)




私は瞬きをして、さっきよりもずっと小さな音で、でも今度は声に出して校歌を歌ってみた。

さっきからどきどきしてるこの心臓は、恐怖でおかしくなってしまったのだろうか。


窓から身を乗り出してみたら、伊達君らしき人が見えた。ああああ、やっぱり、きれい、だ。



(あんなに、怖いって思ってたのに。出来たら授業も来てほしくないって思ってたのに。……ちょっと優しくしてもらえたからって、名前覚えててくれてたからって、そんな、)



私、絶対バカだ。







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