10 能力としてはレベル1
こんなに必死になって走ったのは、はじめてかも、しれない。
act.10 能力としてはレベル1
信号待ちの間に止まって、どきどき通り越してがんがんする胸を掴んで落ち着かせる。…いや、もちろんそんなのでは落ち着かないけど。
汗は全身から噴出してるし、息は荒いし、この状況で伊達君に会うのはちょっと(いやだいぶ)恥ずかしい。
でも、たくさん通り過ぎていく車の音なんか以上に私の耳に残る、伊達君の「待ってるぜ。織」って言葉が、そんなのどーでもいいや!って気分にさせていた。
あ、一応伊達君に会う時は、はぁはぁしないように気をつけるけどね!
信号が赤になって、歩き出す人波。それを掻き分けてまた走りだしたら、お腹の横の方が鈍く痛んだ。
空はくすんだ色から、淡い赤に染まって、端の方が紫になってきている。
何度も鳴る伊達君の携帯。きっと、色んな用事の電話とか、メールとかなんだろう。
…何回も、勝手に見たら失礼だよなぁ。と思ったので、そっとしておいてそのまま走った。
(早く、届け、なくちゃ!!)
奥州商店街に近くなると、学校帰りに遊びに来ている、うちの高校、婆沙羅高の生徒がめだった。他の学校の生徒の姿も、ちらほらとある。
奥州商店街、と書かれている看板の近くを目を凝らしてみたら、伊達君らしい人影が見えた。
(本当に待っててくれたんだ…!!)
もともとずっと走ってたせいで、速く動きすぎな心臓は、伊達君(っぽい人影)を見てますます高鳴る。
どうにか息を整えようと思って努力しながら、入り口にかけよる。
伊達君!って名前を呼ぼうと思って半分あけた口は、そのままの状態で固まって使えなくなった。
怖そうなお兄さんたち、が、3人、4人…え、8人?伊達君を取り囲んでいる。
(な、なに?これ…)
更に、固まっている私を尻目に、伊達君はその変な奴らに連れられて、裏道に入っていこうとしていた。
(え、こ、これ、伊達君、絡まれてる、の?喧嘩?て、てか、明らかに大人じゃないかあのお兄さんたち…!!)
伊達君が喧嘩強いっていうのは有名な話だけど、こんなに大人数、いくらなんでも難しいんじゃないか。怪我、とか、するんじゃないか。っていうか、このままじゃ伊達君が、危ない、よね?
あがっていた息は、あまりの事態に潜まっている。
足は震えて、流れていた汗は冷や汗に変わっていた。お腹の横の方より、頭が、痛い。
どうする?どうする。警察、呼んだほうがいいのか。でも、間に合うの?それまでに、伊達君が、叩かれ…殴られちゃったりしたら?
それは、だめ、だ。
「伊達君!!」
呼んでどうするつもりだったんだろう私は。
私なんかが現れたら、足手まといになるだけで、一層伊達君をピンチに陥らせるだけだろうに。
でも、呼ばずにはいられなかった。
震えてた足は走り出したら止まって、伊達君がこっちを見た気がしたけど、どんな顔していたかはわからなかった。
ただ、唇が私の名前の形に動いていたのが、ちらりと見えた。声は、聞こえなかったけど。
ほとんど倒れこむみたいに、伊達君の腕を掴んでいたお兄さんに突撃したら、お兄さんが倒れて私も倒れた。
転がったコンクリートが、私の体をひっかく。ぶつけた耳が、熱を持って痺れた。
胸ポケットに入れていた伊達君の真っ黒い携帯が、地面に落ちてきらりと光った。
あ、やばい、傷ついた、かも。携帯。(ごめんね、伊達君!)
うわぁ、転ぶのって意外と、痛い。
コンクリートはぬるくって、少し砂利が口に入った。
(あれ、状況は未だに大ピンチ?)
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