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9 私が望む進化




「伊達君!なにかお茶とかいれますか?」

「いや、いい」

「あ、そ、そだよね?ごめん…」

「………」

「………」

「…織、俺が頼んだ書類の束、signし終わったか?」

「!!(忘れてた!!)」



学校の責任者(手伝い)のお仕事は、なかなか上手くいきません。





act.9 私が望む進化




「はぁ…」



伊達君がどこかへ(何かリーゼントの人が呼びに来た)出かけてしまった後、私は一人例の洋風の部屋(伊達君の執務室なんだって)で伊達君に頼まれていたのにも関わらず忘れてしまっていた書類の束にサインしていた。

もちろん私の名前のサインじゃなくて、伊達政宗っていうサイン。一番最初に伊達君が「こんな感じでな」って言って見せてくれた細い、整った伊達君らしい字より、ずっと丸っこくて崩れている私の字。……いつも思うけど、こんなんで大丈夫なのかなぁ。一度心配して伊達君に聞いたら、



「まぁ、いいんじゃねえか?」



で流されちゃったし(軽っ!て思ったのは秘密)。また溜息が漏れて、それでますます鬱々とした気分に拍車が掛かる。

使い慣れてない万年筆は、何だか重たい気がして、伊達君が私用に用意してくれた机から見える窓の外の空も、心なしか普段よりくすんでいる気がした。



…伊達君の役に立ちたいけど、うまくいかない。

なぜか伊達君の部下の中で女子は私だけだった。更に、伊達君の側近だという片倉小十郎さん、推定20代後半(初めて見た時は本気でビビったけど、話すと意外と優しかった。伊達君ともよく喋ってるみたい)の話だと、伊達君が部下以外の人間を執務室に入れて、更に手伝いをさせたのは、何と私が初めてなんだって。

その話を聞いた時私はすごく嬉しかったけど、今は、申し訳なくて仕方ない。
だって、私全然、役に立ててないもん、なぁ…今日も、頼まれてた仕事、忘れちゃってるし。

普通ならもう慣れてもいいぐらい簡単な仕事でも、ありえない失敗かましちゃったりするし。まともに出来てるのは、掃除とか、伊達君の昼ごはんをついでに買ってくるとか、それくらいだ。


伊達君の隣の席になったのが私じゃなくて、かすがとかで、手伝いする事になるのもかすがだったら、もっと伊達君の役にたってたんだろうなぁ。

…かすがなら美人だし。頭も運動神経もいいし。



そんな風に考えたらまた溜息が出て、これ以上出て来ないように口を押さえる。


でも、伊達君のお手伝いする事になったのは、幸か不幸か私なんだから、役に立ってなくても、役に立たないなりに、頑張って伊達君の手伝いをしなくては!!思って、気合を入れなおしていたら、突然ブブー!というバイブの音が執務室の中に響いた。驚いて力をいれたら、万年筆のインクが零れてしまった(ギャー!!)


い、いや、それよりも!慌ててあたりを見回したら、伊達君の黒いでっかいデスクの上で、同じくらい黒い携帯が震えているのが見えた。

とっさに駆け寄って、思わず電話に出てしまった。ま、まさか。これ…!!



「も、もしもし!?」

『……Ah、織か?』

(だ、伊達君…!!)



どきんどきんどきんどきんどきん。

いつもみたく、いや、いつも以上に、心臓が早鐘を打つように脈打ちはじめる。
電話越しの声は、いつもより低い。こ、これ、伊達君、の。



『仕事、終わったか?』

「え!…もう少し、です」

『ok。じゃあそれ、俺のところまで届けてくれ。無いと不便でな』

「あ、じゃ、これ…」

『It's mine。…奥州商店街の入り口だ。You see?』

「うん、奥州商店街だね?わかりました!」



伊達君が、少し笑う。



『そんなに張り切らなくてもいいんだぜ?』



でも、張り切るでしょう!?やっと伊達君の役に立てる!

私は嬉しくて、にやにやしそうになる頬を必死で押さえながら、今すぐ、急ぐね!って言った。伊達君は短くああ、って言って、また私を張り切らせるような事を言った。





「…待ってるぜ。織」





キリンが高いところの草を食べたくて首が伸びたなら、ダチョウが早く走れるようになりたくて羽を畳んだなら、私もそのうち、伊達君の役にたてるように、何かに進化するかもしれない。


(とりあえず今は、早く走れる足を、足をください!!)




さあ、急げ!!






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