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腹黒王子と黒歴史(※少々下表現注意)



日がどっぷりと暮れた頃。
夕食には少し遅い時刻から、屯所の大広間で宴会が始まった。
三十万円分もの高級肉を仕入れた総悟には賛辞の嵐で、グラスを持った隊士たちがずっとわらわらと群がっている。
中には涙を流しながら喜んでいる隊士もいて、総悟の隣に座っていた零が話を聞いていると、普段は靴底のような肉しか食べていないので感動したんだとか。
ひどい言われようだが、確かにたまに何の肉だかわからないものが提供される時がある。
そういう時は大体大規模な討ち入りの後などの、財政難に陥っているときなので文句は言えないが。


「ありがとうございます沖田隊長〜〜〜!こんなうめー肉はじめて食いました!」
「歯がいらねえくらいやわらけーーー!」
「そうかい、そうかい、ウメーだろィ。オーイ、この肉食った奴は一生俺の奴隷として働けよーーー」


はい!と大きな返事が辺りから聞こえたことに、零が笑った。


「奴隷だらけじゃん」
「おめーも食ってるんだから同じだぜィ」
「へいへい。死ぬまでコキ使われるなら今腹いっぱい食べとこっと」
「あれ、ネギどこいった」
「溶けたんじゃね?豆腐の近くに入れたんだけど」
「ネギならさっき見たぞ」
「え、どの辺ですかィ旦那」
「そこ」
「ん〜?あ、ほんとだ!あった!総悟!皿貸せ!ありがとう銀さん!」
「おう、にしてもうめーなこのネギ」
「俺が育てたんだから当たり前だろ」
「へー!零くんが?やるじゃん。ちょっと土方くん、火弱めて」
「ああ……ってオイイイイイイイ!?なんでコイツがウチで飯食ってんだ!?おかしいだろうが!


真選組隊士の中に混ざり、何食わぬ顔で自然に鍋をつつく銀時。
取り皿には肉が山のように盛られているし、酒まで遠慮なく飲んでいる。
明らかにおかしい状況だというのに誰も気にしておらず、それどころか乾杯をしたり談笑も楽しんでいて、わけのわからない状況に土方がわなわなと肩を震わせながら机を叩いた。


「うるせェですぜィ土方さん。アンタこそなんで勝手に俺の肉を食ってんでィ、ぶっ飛ばしやすぜィ」
「そうだそうだ!何勝手に食ってんだテメーコノヤロー」
「おめーにだけは死んでも言われたかねえんだけど!?」
「銀さんは総悟が福引きで当てた重たい景品を全部運んでくれたんですよ。だからそのお礼に飯でもどうだってことで」
「だからって屯所の中に部外者を入れるな!!お前もくつろいでんじゃねえよ、帰れ!!」
「嫌で〜〜〜す!帰りませ〜〜〜〜ん!零くん、ビールちょうだい!」
「てんめェ……!」
「もー土方さん!いいじゃないですか別に!いちいちケンカしないでください」
「零!!こいつの肩をもつな!」
「はぁ!?総悟が買った肉なんだし、それを食わせたいなら別にいいでしょって言ってるんです!」
「そーだ、そーだー。土方さんはすっこんでろ〜ィ」
「あーもー!!どいつもこいつも最悪だ!俺ァ部屋で食う!!」
「だから食うなって言ってるでしょうがィ」
「おい、それは俺が許さねえぞ総ちゃん。土方さん、すぐに鍋セット持っていきますね!」
「いらねえよ、適当に何か食う」


怒りを露にしながら部屋を出て行った土方の背中を、零は黙って見送った。
銀時と総悟はひたすら肉を口に詰め込み、どうでもよさそうに口を動かしている。


「なにあいつ?100回くらい死なねえかな」
「素直に食わせてくださいと言やァ食わせてやるってのに、素直じゃねぇですねィ」
「零くんは偉いな、あんな奴の側近をずっとやってるなんてよ」
「旦那ァ、もう土方さんのことはいいじゃねぇですかィ。飲みやしょうや」
「おー、そうだな」


零の向かい側に座っている銀時が空のグラスを掲げると、零がすぐにビールを注ぐ。
まるで反射的に行われているその行動を横目で見ていた総悟と、空になったビール瓶を持って立ち上がる零の目が合う。


「なに?」
「“魔王”あけね?」
「え」
「土方さんもいねえしいいだろィ、な?」
「でもあれは土方さんが正月用に取っておくって……」
「正月まであと何日あると思ってんでィ、今日は旦那もいるんだしいいだろ。ねぇ旦那ァ」
「あ?なに?」
「日本酒飲みやせんかィ」
「飲む飲む!なーんでも飲む!」
「へへ、じゃああけやすぜィ。ほら、おめーも座れ。瓶なんかあとでまとめりゃいいだろィ。オーイ鉄〜ちょっと来いや」


困って眉を下げている零の手を握って無理やり座らせた総悟が、鉄之助を呼びつける。
そして食堂の戸棚にある酒を全部持って来いと言うと、にやりと笑った。

テーブルの上には既に空き瓶が散乱しており、各テーブルにある鍋からはどんどんと肉も野菜も消費されている。
総悟がグラスを空にするとどこからともなく酒を持った隊士があらわれ、今夜の宴の感謝を述べながら酒を注ぎに来る。
その為、かなりのハイペースで酒を消費する総悟に零は少し不安を感じていたが、普段はあまり飲酒をしないし、ハメを外すこともないので、今日くらいはいいかと目を瞑った。
そんな零はというと、ずっと食事をとるばかりで酒は一滴も口にしていない。
酒は好きだがとても酒癖が悪く、酔うと決まって誰かの世話になる上に記憶もなくしてしまうので自制しているのだ。

お待たせしましたという声と共に開けられた襖から鉄之助が姿を現すと、部屋は一気に盛りあがった。
三人の隊士が手分けをして戸棚から全ての酒を持ってきたらしく、安酒も高級酒も無造作にテーブルに並べられていく。

近藤はお妙のいる店に行き、土方は自室へ。
そうなると、ここは総悟の独擅場。

ほんのり顔を赤らめている総悟が、グラスを持って立ち上がった。


「野郎共〜〜〜!死ぬまで飲めやー!」


どうやら、もうすっかり出来上がっていたらしい。
総悟を称えて盛り上がる隊士たちが“乾杯”とグラスを掲げ、次々に瓶を手に取りグラスに流しこんでいく。

美味い料理と美味い酒。
成り行きで一緒に食事をとることになった銀時も大いに楽しんでいるようで、頬杖をついた零がにこにこと銀時を見る。


「なんだよ零くん。そんなに見られたら穴があきそうなんだけど」
「銀さんってうまそうに食うよな」
「そ?」
「うん。まだ肉残ってるけど食べる?」
「や、もういいわ。腹が爆発しそう」
「じゃあ酒は?」
「おう、入れてくれ。零くんも飲めよ」
「いや、俺は……酒癖悪いの知ってるだろ。前に銀さんとこで飲んで、記憶ぶっ飛ばしたし」
「……あ、あぁ!あったなそんなこと!はは……、え、覚えてないんだ?」
「……断片的に覚えてるような覚えてないような……」
「へ、へえ!」
「え!?なに!?」
「いやいやいやなんでもねーよ。まあでもここはお前んちだし、ちょっとくらいならいいだろ!沖田くんなんてあんなところで転がって寝てんぞ」


銀時が指を差した方向で、総悟が空になった瓶を大事に抱えて眠ってしまっている。
猫のように丸まった背中を見て零がやれやれとため息をはいて、一杯だけならと銀時に酒をついでもらった。

半数以上の隊士はすでに自室へ戻り、残っている隊士も酔いつぶれてほぼ全員が眠っている。
起きている者も相当酔っているので、畳に倒れるのは時間の問題といったところか。
食い散らかされた机の上の後始末や、誰のかわからない脱ぎ捨てられた隊服や靴下、これらの後始末は素面である自分がしなければいけないのかと思うと、一杯くらい飲んでも許されるだろうと思った。
飲んだのはそんな軽い気持ちからだ。
たった一杯だと思いながら飲んだはずだったのにペースが上がり、銀時に進められるがまま尋常ではないペースで酒を煽った。

これにはさすがの銀時もまずいと思い零を止めようとしたのだが、酔った零の相手は土方も嫌がるほど面倒くさい。
零の隣に移動してグラスを取り上げた銀時に、零がしがみついて赤い顔を近づける。


「まだ飲める」
「バカ、もう終わりだ。俺が怒られんだろうが」
「えー銀さんが飲んでるやつちょうだい!」
「あ!コラ!沖田くんタスケテー!!」


銀時の声に、寝転がっていた総悟の肩がぴくりと反応する。
ゆっくりと起き上がった総悟が零に襲われている銀時をじっと見つめているが、状況があまりよくわかっていないらしく、眉間に皺を寄せていた。


「……おいおい、そういうのは別室で頼んまさァ。旦那がネコたァ意外でしたぜィ」
「なに勘違いしてくれちゃってんの!?助けろ!めんどくせーよこいつ!!」


銀時が持っているグラスを奪い取ろうと、零が銀時と密着しながら腕をのばす。
取られてたまるかと銀時も腕を伸ばしながら、倒れないように片腕で自身と零の身体を支える腕がぷるぷると震える。
体勢のせいでずっと天井を見ていた銀時がふと視線を下ろすと、あまりにも近い距離に零の顔があったことに驚いてしまった。
その一瞬の動揺の際に腕が下がったらしく、隙を見逃さなかった零がグラスを奪い取ってゴクゴクと飲んだ。


「うめー!もう一杯!」
「アホか」


ばし、と零の後頭部をはたいた総悟が、呆れた面持ちで零の隣にどっかりと腰をおろす。
少し眠って酔いが醒めたのか、先ほどより顔や首の赤みが引いていた。


「総悟も飲もうぜ〜魔王なんて滅多に飲めねえよぉ!フフフ」
「旦那よく殴らずに耐えやしたねェ。うぜェったらねえや」
「素面ならブン殴ってたぞ」


ちびちびと酒を飲み続ける銀時が真顔でそう答えると、零は薄情だの酷いだの言いながら総悟に抱きついて、ずるずると胡坐の中に沈んでいった。
腹の辺りですりすりと動く零の顔をじっと見下ろす総悟が、再び零の頭をはたいた。


「オイ、寝るんじゃねえぞ」
「……」
「零」
「……」
「オイ」
「……静かにしろや、眠れないだろ……」
「寝るなって言ってんでィ」
「痛ーーッ!?さっきからなんだよ!銀さん〜〜!総ちゃんが俺をいじめる」


這いずりながら銀時の元へ移動していく零が銀時の腰にしがみついて、猫のように擦り寄る。
もうどうでもいいといったような態度の銀時が面倒くさそうに頭を撫でてると、その手が心地いいのか“もっと”と言うように零の腕が銀時に絡む。
その密着が嬉しかったのか、それとも気が変わったのか、零の顔を覗きこむように腰を曲げた銀時に零が顔を上げて応えた。

総悟のいる場所からは二人の表情がわからず、近づけられている顔の距離になんだかもやもやする。
胃がむかむかして、咽のあたりで何かがつかえているような気がするのは、きっと食べ過ぎたせいでも、アルコールのせいでもない。


「零」


気づいたら、総悟は零の手を握っていた。


「寝そうになってる。つーか寝てる?」
「……すいやせん、こいつ酔うといっつもこうなるんでさァ」
「部屋に連れてってやれや。運べっか?」
「引きずって行きやす。寝かせてくるんでちょいと待っててくだせェ」
「俺ァテキトーに帰るから気にすんな。厠借りるわ」
「部屋出て左ですぜィ」
「おう」


零を抱える総悟、そして脱力して目を瞑っている零に微笑んだ銀時が、部屋を出て行った。
もしかして、妬いてるように見えてしまっただろうか。
そうだとしたらとても恥ずかしいし情けないが、今日なら全てアルコールのせいにできる。


「おい」


先ほどまでうるさく絡んでいた零はすっかり大人しくなり、耳や首まで真っ赤にして総悟の腕の中に居た。
このまま部屋に転がして置いてもいいのだが、酔った零の行動は誰にも予測が出来ない。
ある時は接待の席で酔いつぶれ、突然服を脱ぎ出して全裸寸前のところで土方に殴られ謹慎処分。
屯所での宴会で泣き出したこともあるし、酔って転倒し大怪我をしたこともある。
極めつけは幕府高官の有名な男色家に、家まで連れて帰られそうになったことだってある。
どんな大事を起こしてもその全てを忘れているのだから、たまったもんじゃない。
巻き込まれる隊士たちの心労を考えて、局中法度に酒を飲ますなと書かれている始末で、酒癖の悪さだけは何をどうしても矯正することはできなかった。

だから、他の隊士も眠っているこの部屋で零を眠らせるのは危険すぎる。
途中で目覚めて暴れでもしたら、総悟まで叱られ責任を問われる。
それなら少し面倒でも、部屋まで連れて行った方がいい。


「そうちゃん……」
「ん」
「ねる……」
「部屋で寝ろ」


よっこいしょ、と色気もなく零を肩に担ぎ、足で器用に障子をあけて廊下に出た。


「うぅ……寒い、揺れっ……きもちわる……ッ!」
「吐いたら殺す」
「うっ、うぅっ、がんばる……!うぉぇ……」


顔の横でもぞもぞと動く零の尻を叩き、動くなと言っても素直に大人しくはならない。


「はー」


イライラしてもしょうがないのでさっさと部屋に向かう。
摺り足気味で廊下を歩き、総悟の部屋、そしてその隣の土方の部屋を通過し、角を曲がってすぐが零の部屋。
片腕で零の身体を支えながら障子を開けて、とりあえず暗闇の中に零の身体をおろしてやる。
その際に“痛い”だとか、言葉になっていないうめき声が聞こえたがどうでもいい。
とりあえず障子を閉めて外気を遮断し、明かりをつけようと蛍光灯の紐を手探りで探す。


「おわっ!?」


急に足元で零が動いたせいで、総悟の脚がもつれ零の上に覆いかぶさる形で倒れてしまった。
なんとか手をついてお互いの身体が強打されることは免れたが、勢いよく畳みについた掌がジンジンと熱をもって痛む。


「危ねェだろうが」
「ごめんごめん」
「ごめんで済んだらケーサツいらねェ……って、なんでィ、この脚は」


総悟の腰に、零の脚がしっかりと絡みつく。
密着を促すような力の入れ方に総悟が反発しようと身体を支える腕に力を込めるが、首には腕が絡んで離れることがかなわない。
さきほどまで脱力してたくせに、まだ元気は残っていたようだ。


「やめろや、近ェって」
「総ちゃんあったけぇ……」
「布団出してやるから離せ」
「布団より総ちゃんのがあったけえだろ」


ぎゅう、と、腕に込められた力で首が絞まる。
腰に絡まった脚のせいで、息が苦しい。
こんなに顔が近くにあっても拒絶せず、むしろ近づいてくる零の態度が本当に嫌だと思う。

暗闇に慣れてきたお互いの目に、顔がうつった。
二人とも浴びるほど酒を飲んで潤んだ瞳に、衣服も髪も乱れた互いの姿がゆらゆらと。
雰囲気にのまれ、先に手を動かしたのは総悟。
零の額にかかった前髪を払いのけ、その額に自分の額を合わせた。

瞬きもせずに見つめあう双眸には、多少なりとも色欲が混ざっているのを感じる。


「え……ちゅーする?」
「なんでそうなるんでィ」
「ふ、雰囲気……」
「はぁ……これだから童貞は」
「総悟もだろ」
「……」
「……は……?嘘!?なんか言えよ!!え!?」


うるさいな、と感じた総悟は零の言葉を無視し、首から解かれた腕に指を這わせて手を重ねた。
指を絡めて顔の横に留め、まるで恋人のように顔を寄せていく。


「やべえ総ちゃん」
「なに」
「勃ってきた」
「俺も勃ってら」


そう言う総悟が、腰をゆっくりと動かしてわざと零の尻にそれを押し付ける。
その動きで僅かにまた硬さが増してしまい、なんて素直な身体なんだとため息も出ない。


「くく……!ふふっ!ヤッバ。総ちゃんのガチガチなんだけど!?」
「うるせー、おめーもだろうが。あー、ヌきてェ〜〜!!」


わざと声を張り上げた総悟に、零が笑う。
ふざけながら腰を振る総悟とそれにあわせて腰を浮かせた零が、楽しそうに脚や指を絡め、キスの一つも落さずに猫のようにじゃれあう。
アルコールのにおいが充満する暗い部屋で行われている背徳的なこの遊びは、素面では決して出来ない。
腰を動かし続ける総悟の腹で、自らのものが擦れている零の足先がぷるぷると震えた。
それに気づいた総悟が首筋に埋めていた顔を上げて、零の様子を窺う。


「ぅ……っ、総ちゃん、きもちい」
「下帯がキツイ……、脱ぎてェ」
「俺もキッツイ……!暑いし脱ぐわ!」
「オイオイオイオイ、それは俺でもマズイことはわかんぜィ。やめろや」
「ええー暑いじゃん」
「おめーさっきまで寒い寒いって言ってただろうが」
「今は暑いんだって」


総悟が手を握っている為服を脱ぐことは出来ないが、もしこの手が自由だったら本当に脱いでいただろう。

服を脱いで抱き合って、情事に耽るだなんてどうかしてる。
おそらく今夜のことは寝たら忘れるのだろうが、万が一尾を引いてしまっては面倒だ。
唯一無二の親友という立場を自ら壊してしまうなんてことは、死よりも避けたい。


「零、今日どれくらい飲んだか覚えてっかィ」
「えっとなー……んー……いっぱい!!」
「おう、そうかィ。おめーがアホでよかったぜィ」
「は!?」
「何杯飲んだか覚えてねェなら、どうせ全部忘れんだろィ」
「あっはっは!そうだろうな!!酒を飲んだらいーーーっつも全部忘れちまうし!」
「じゃあ、今やってることも忘れろよ」


悪ふざけで、どうせ忘れるからといって、キスなんて出来ない。
代わりに、首筋に吸い付いた。
ちゅう、と音を立てて、痣が残るように、誰からの目がつく目立つ場所に。
一度唇を離して舌で舐め、更には噛み付いた。
がしがしと噛み付きながら舌で舐めると、零の腰がゆるりと動く。
それに気を良くした総悟が自らも腰を振って、何度も場所を変えて唇を這わせた。


「は、っ、むり、総ちゃん、っ、マジ……っ」
「ハァ、ッ、もう当分酒は飲まねェ……!」
「俺も誓うわーー!!あーっ!やばいやばいやばいっ、そうちゃん、やばい!」
「バカ、声がでけェ」
「だって、すっげ、気持ちいいっ……!俺も総悟の首っ、噛みたい……!」
「無理でーす」
「うおおおてめええ自分ばっかりやりたいことやりやがってえええ」
「気持ちイイなら文句言うんじゃねェやィ」


あぁ、服を脱いでしまいたい。
布越しじゃなく、直接刺激が欲しい。
そんなことを考えながら、握りこんでいた零の手を総悟が離した瞬間、廊下に気配を感じた。
反射的に零から身体を離した総悟は部屋の隅に転がり、棚の陰に身を隠す。


「零、さっきからうるせぇ。ドタバタ何やってやがる、部屋まで聞こえてきてるぞ」


土方が障子を開けて部屋の様子を窺いにきた。
よくも邪魔してくれたなという殺意と、もし土方が現われなかったらこの先どうなっていたのかと、血の気が引く。
総悟が陰でじっと気配を消していると、倒れたままの零がだるそうに起き上がり、乱れた襟を整えながら“ストレッチをしていました”と引きつった笑顔で土方に答えてみせた。


「明かりもつけずにか……?つーか部屋が酒くせェ、飲んだな?」
「あはは……はは……」
「俺がいない場所では飲むなと言ったはずだ。まぁいい、説教は明日だ。今日はもう寝ろ」
「は、はい〜……おやすみなさい……」
「あぁ、おやすみ」


障子がしめられ気配が消えると、零は明かりをつけて総悟に近寄った。
膝を抱えて縮こまっている総悟は明らかにふてくされていて、機嫌が悪くなっている。


「土方死ね土方死ね土方死ね」
「呪詛かけるのやめてくんない!?」
「クソ……萎えた」
「……よ、よかったんじゃね……?また黒歴史増えるところだったし……」
「……」
「総ちゃん?」


何が“俺のいない場所では飲むな”だ。
胸糞が悪い。
守っているつもりか。
誰のものでもない“北村零”を、己のもののように扱うことに心底腹がたつ。
独占されてたまるか。

目を合わせようとしない総悟を心配し、零が顔を覗きこんだ。
すると、総悟は目を合わせた。
至近距離で、唇が触れそうなくらい近くまで顔を寄せて。



「明日、俺とデートしろ」



なんで命令するんだとか、デートとはどういう意味なのかだとか、明日は休日じゃないだとか言いたいことはたくさんあった。
だけど酔った頭ではどの言葉を最優先にすべきかわからず、そして、総悟がさっさと部屋を出て行ってしまったので“は?”という一言しか発することができなかった。




やっぱり、酒は飲むべきではない。
零も総悟も悶々とした気持ちを抱えながら頭を抱えて、その夜はあまりよく眠れなかった。







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