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新八/きゅんって音がするらしい



真選組鬼の副長の犬。
そう言われている彼の名前は北村零。
僕より二つ年上だけど、正直言って中身は僕と変わらない。
くだらないことでケタケタと笑うし、銀さんの冗談にのっかってバカなことをやったりするし・・・あれ?もしかしてこの人僕より精神年齢低くないか?
今だって万事屋に遊びに来たかと思えばソファーでずっとジャンプを読んでるし、自由人というか掴みどころがないというか・・・。


「零さん、いつまでジャンプ読んでるんですか」
「んーーそうだねーーわかるわかるーー」
「・・・・・・お昼の買い物に行かないとな〜」
「あー・・・それなー・・・」


聞いてないよね、絶対聞いてないよね!!
視線がずっとジャンプだし、明らかに返事が適当だし!!


「・・・なあ新八くん」
「・・・はい?」
「つっこみ、口に出してよ」
「は!?」
「つっこんだだろ、今」
「は・・・はぁ、まぁ・・・そうですけど・・・」


にやっと笑うその顔が悪戯っ子のそれで、不覚にも僕は照れてしまった。
見透かしてるように僕を笑う零さんに少しムッとして俯くと、零さんの影が僕にかかって“行くぞ”なんて声が耳に届く。
わけがわからなくて顔を上げた僕を見下ろす零さんの両目。

本人は否定するけどとても端整な顔立ちをしているし、土方さんの指導の賜物か所作に品がある。
銀さんに影響を受けてる部分もあるんだけど、この人の根はとても真面目というか芯があるというか。
見た目に負けないくらいの美しい魂を持った人、それが・・・


「何見惚れてんだ、早く行こう」
「み、見惚れてなんかないです!!行くってどこにですか」
「昼飯の買い物行くんじゃないの?」
「っ・・・!?話聞いてたんですね!」
「あはは、怒るなよ〜。銀さんたちもうすぐ帰ってくるだろ?」


銀さんと神楽ちゃんは定春の散歩へ行った。
僕は溜まってた洗濯物や掃除をする為に残ってたんだけど、銀さんたちとすれ違いで零さんがやって来てかれこれ30分。
定春の散歩はいつも大体1時間ほどかかる。
朝食を食べずに出て行ったあの二人がそろそろお腹をすかして帰ってくる頃だろう。


「そうですね、だけどいいんですか?付き合ってもらって」
「丁度ジャンプ読み終わったし、外歩きたい気分だから」
「じゃあ・・・行きますか」


立ち上がる僕を確認した零さんがソファーの背にかけていた臙脂色の羽織に腕を通す。
ふわりと羽織られたそれから少し煙草の匂いがしたのは土方さんのせいかな?






「いい季節になってきたなー」
「そうですねー」
「そろそろ羽織着てちゃおかしいかな」
「あはは。随分暖かい日が続いてますもんねー」


にこにこしながら僕の隣を歩く零さん。
ここ最近ずっと着ているこの羽織は大層お気に入りのようで、彼にとても似合っていた。
目をひく臙脂色に咲く大輪の椿。
この羽織を銀さんと一緒に見たときにチラッと聞いた話だと、椿は零さんの花らしい。
男性に花?それも椿?なんて思ったけど・・・似合ってるんだよなあ。


「前から思ってたんですけど、とても綺麗な羽織ですね」
「!」
「?」
「あは・・・ウフッ・・・ふふ、ちょいと新八くん、これ誰に貰ったのか聞いて」
「あぁ、貰い物なんですか?誰から「土方さん」」


食い気味に返してきたよ!!
なんなんだよこの人!!


「あれ?聞こえなかった?ひ、じ、か、た、さんだよ。土方さんが俺の為にくれたんだよグフフ」
「そうですか、わかりました」
「興味もてよおおおぉおおおおーーー!!もっとこう、ないのか!?俺にもっと興味もとうよ新八くぅうううん」
「アンタ土方さんのこと喋りたいだけでしょうが!!わかってるんですよ、アナタがどんだけ土方さんに懐いてるかは!」
「じゃあ喋らせろよ!!土方さんと俺の馴れ初めから全部!!」
「はいはい!それはまた今度聞きますよ!早くしないとお昼に間に合いません」
「はぁ、つれないなぁ・・・おおおおおーーー!!見て!!アレ見て新八くん!!」
「なんですか?」
「焼きたてメロンパンって書いてんじゃん!!行くぞ!!」
「ええ!?」


零さんが興奮気味に僕の手を引いて走る。
待って待って、なんでメロンパン!?
僕達の目的は昼ごはんの買出しなんですけど!!
零さんの勢いに流されるまま走って、人の群がるパン屋さんの店頭まで来た。
ここのパンが美味しいっていうことは姉上から聞いていたけど、実際店まで来るのは始めてだ。
小さな机に並べられた焼き立てらしいメロンパンからは甘い香りがするし、その奥の店内からもパンの焼けるいいにおいがする。
あ、お腹減ってきた。


「ん〜〜〜いいにおい。知ってる?ここのパンすっげーうまいの」
「有名みたいですね。姉上がよくお店の差し入れに持って行ってるらしいです」
「俺さ、米派だけどここのパンは好きなんだよ。なあ、食べよう」
「えー、こんなの食べたら」
「お昼食えないって言うのか?だから貧弱なんだよ、男なら食え!すみません、メロンパン二つください」


僕の意見は無視か!
とことん零さんのペースにのまれてるなあ僕。
お金を払ってメロンパンのはいった袋を受け取った零さんに再び手をとられ、人混みを離れた。

袋から自分の分を取り出した零さんが袋ごと僕に手渡しきて、暖かいうちに食べろという零さんに従いパンを抜き取る。
・・・うん、いいにおい。


「いっただきまーっす」
「いただきます」
「んまぁーーーい!どう?!うまいだろ!?」
「おいしい・・・!!おいしいです零さん!」
「あはは、だろー?銀さんには内緒だぞ〜。奢れってうるせーんだもん。あ、神楽ちゃんにはいいよ」
「あははは!確かにそうですね!銀さんには悪いけど内緒にしときます」
「・・・」
「どうしました?」



「はは。いっぱい粉つけてるよ。っし、とれた。粉までウマッ」



え。




「おーい」



え。




「しんぱ「ウワアアアアアアアアアア!!!???アンタさらっと何してんですか!!?」」
「はぁ?何って口に粉が・・・」
「その粉指で拭って!!!な、舐め・・・!!」
「舐めたけど」
「うわああああーー!!ちょっと・・・!!ちょっ・・・!!零さん!!からかわないでくださいよ!」
「あァ!?なにが?からかってないけど!?ていうかとってやったんだから感謝しろよ!」


おかしいだろおおおがああああーーー!!
なんでこの人が怒ってるの!!??
怒るの僕のほうじゃないの!?
ていうかなんで涼しい顔できるの!?
周りの視線とか気にならないの!?
え!?僕がおかしいの!?


「零さん・・・ありえないと思いますけど・・・普段からそういうのやってます・・・?」
「?やってるよ?土方さんしょっちゅうマヨネーズつけてるし」


あんのニコチン中毒野郎絶対わざとだろおおおォオオー!!!
アンタの教育のせいで大事な補佐がとんだビ○チになりかけてるぞォオオー!!


「やめたほうがいいですよ・・・僕だからなんともないですけど、そういうの他の人にやったら土方さんに叱られると思います」
「なんともないならいいじゃん。」
「よくな・・・」
「・・・つい、っていうか・・・俺、家族いないし、年下の友達とかもいないからさ。新八くんならなんでも許してくれそうで」


零さん・・・


「俺、嫌いな奴にはこんなことしないし。新八くんだからだよ」
「・・・・・・」
「なんで顔赤くなんだよ。なに、俺に気あるの?付き合ってくれんの?付き合う?なあ」
「う、うるさいですよ!!もう!!」


「おお〜〜〜い新八〜〜〜!!」
「零ち〜〜〜ん!」


「うげぇ!銀さんだ!!新八くん!逃げるぞ!!走りながら食え!!」
「ええ!?ちょっ!」


「逃げんなコラアアアァァーーー!!」
「銀チャアアァァン!!!何ヨこれ!メロンパンヨこれ!!買ってヨ!!」
「アアァァ!?目の前に金持ってる公務員がいンだろォが!!アイツにたかるぞ!!走れ神楽!定春!」
「ラジャー!」
「ワン!」


「うわあああ!!追ってきましたよ零さああーーーーん!」
「アッハッハ!逃げろ〜〜!」


僕の手をぎゅっと握って、眩しい笑顔を振りまきながら走る零さん。
不思議だしちょっとヌけてるしワケわかんないこと平気でするけど、全部ひっくるめてこの人の魅力なんだと思う。
えーっと・・・椿の花言葉・・・なんだったけな・・・。


あ!思い出した。


「どうしたー?ニヤニヤしてるぞー」
「いいえ!なんでも!早く逃げ切りましょう!」



“気取らない優美”を纏う彼の手から僕の鼓動が伝わりませんように!




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あきゅろす。
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