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土方/暁



「お前はいつも身勝手に動きすぎだって言ってるだろうが!!」
「いつまでも子供扱いしないでくれますか!!?あれぐらい俺1人で大丈夫でした!!」
「ハッ、よく言うぜ!後ろガラ空きだったのはどこのどいつだ」
「背後に敵がいるのはわかっていました、あえて隙を作っていたんです!貴方が乱入してくるから事態がこじれたんですよ。あんなことしなければ土方さんは無駄な怪我をせずに済みました。」
「・・・・・・無駄?」
「無駄ですよ」
「・・・・・・フン、悪かったな。もういい、始末書書いて糞して寝ろ」
「はぁ!?なに拗ねてるんですか、知らんわもう。土方さんこそマヨしてさっさと寝ろ」
「マヨするってなんだよ」


それは些細な喧嘩だった。

普段なら喧嘩したことなんてすぐに忘れてお互い元に戻るのだが、今回はそうはいかなかった。
口を利かなくなって二日。
零は土方の身の回りの世話を全て鉄に任せ、土方は土方で零へ用のある場合は鉄之助に言伝を頼み仕事を行う。

そんな二人の様子に気づいていた近藤と総悟がおかしそうに零の部屋へとやってきた。


「そんなに腐るならとっとと仲直りしろってんでィ」


部屋の真ん中でだんご虫のように丸く蹲っている零を蹴り飛ばす総悟。
ゴロンと転がった零の表情はひきつっていた。


「へ・・・へへ・・・総悟先生の言う通りです・・・」
「お前達の喧嘩が長引くなんて珍しいなあ。なんかあったのか?」
「・・・ワカリマセン・・・このままじゃ生きた心地がしません・・・土方さんまだ怒ってるから謝りたいけど・・・顔見るのこわいし・・・でも土方さんに謝りたい・・・でも「ジメジメうぜぇ・・・近藤さん、土方さん呼んで来やしょうや。とっとと話しつけさせやしょう」」
「んー・・・無理やりそうしてもなぁ。ちゃんと何が原因か知らないと・・・この前の斬りあいの時からだよな?」
「ええ・・・俺が相手してて・・・囲まれてる俺に加勢に入って来てくれたんですがそのせいで土方さんが怪我を・・・」
「あぁ!その時の怪我だったのか!利き手だから不便そうでなあ」
「・・・あんな乱入しなければ“無駄な怪我”せず済んだんです。そう言ったら逆ギレされて」

「「・・・」」


総悟と近藤はお互い顔を見合わせ、やれやれと同時にため息をついた。
なんてわかりやすい二人なんだろうと思うが、当の本人らは鈍感なのか馬鹿なのか複雑らしい。


「零。いけないな、それは。無駄な怪我なんていうもんじゃない」
「はぁ〜〜。土方の性格わかっててよく言えたなァおめぇよォ。そんなん言われたら怒るに決まってるだろィ。どれだけお前を溺愛してると思ってるんでィ」
「そうだぞ。」
「え・・・」
「心配だったんだろう。お前のこととなると身体が勝手に動くんだよアイツは。」


畳に転がったままだった零がむくりと身体を起こした。
俯いたままぼさぼさになった髪を手で直し、ばつが悪そうに髪を弄る。
自分で気づかなければいけないことをこうもまともに突かれてしまうと恥でしかない。


「・・・俺が・・・悪いです」
「ならさっさと謝りに行くんだな。お前等のせいで空気が最悪なんでィ。」
「悪かったよ・・・行ってくる」
「オイオイ、トシならいねーぞ!」
「え?」
「警察庁に行ってる。その後はとっつぁんと飲みに行くだろうから帰ってくるのはいつになるやら。今日は外泊かもな」


松平との顔合わせの場にはいつも補佐として着いていくのだが、土方はわざと零を置いていったらしい。
それを知らなかった近藤は一瞬しまったと顔を歪ませたがどうやら時既に遅し。
わなわなと震える零の肩に手を置いて、彼の反応を窺う。


「お、おーい・・・聞いてるかー」
「あああああああああああーーーーーーーーーー!!!!!嫌だああああーーーー!!!!こここ近藤さん!!!とっつぁんと飲みに行くって事は破廉恥なお店ですよね!?男と女が乱れる酒場ですよね!?おおおおっおっぉ、俺を置いてそんな淫らな場所に土方さんが!!?しかも外泊!!?」
「落ち着け落ち着け!外泊つっても警察庁の休憩室「嫌アアアアアアアアァアーーーーーー!!!!ウワアアアーーーーー!!!!総悟、暗殺道具一式貸してくれ・・・暗殺してくる・・・」」
「暗殺って誰を!?キャバ嬢をか!?落ち着け零!!大丈夫だから!な!」
「誕生日祝いにこじつけて飲みたいだけだろうよ。気にするこたァねぇぜ」
「あーそっか、誕生日だもんな土方さん。・・・・・・・・・・・・は?」

「「ん?」」

「誕生日じゃねええカアアアァァァアアアーーーー!!!!!」
「いちいち叫ばないと喋れねーのかィ」
「今日誕生日じゃん!!!??今日土方さんお生まれになってるじゃないですか!!??え!!?ハアアァァアア!?俺なにしてんの!?そんな大事な日に一日中畳の目数えてたのか!?信じらんねーよ・・・」
「俺はお前が信じられないよ、仕事もせず畳の目なんて数えてたのか・・・」
「今から警察庁に行って来ます!!土方さんをお守りするのがこの補佐めの役目!!誕生日を全力でお祝いするのもこの犬の仕事です!!」
「一番の目的を忘れてるんじゃねぇよィ、謝れってんだ」
「わかってるよ!!それは第一!!そして土方さんの棒を護るのも大事な任務だ」
「近藤さん、コイツほんっっと気持ち悪いんで切腹させやしょう」
「まあまあ、塞ぎこんでるよりいいじゃないか!ちゃんとトシと仲直りして戻って来るんだぞ!」
「御意!いってきまーーーす!」


土方のことであんなに生気をなくしていたのにも関わらず、土方のことで再び生気を取り戻すという彼の心理が理解できぬ総悟が心底気味が悪いといった様子で零を見送った。
開け放たれた障子を閉めるため近藤が立ち上がり、バタバタと慌しく正門を駆け抜けていった“忠犬”の姿を見て近藤は言う。
アイツらは二人でひとつなんだ、と。


全速力で警察庁までやって来た零は、受付で足止めを食らっていた。
土方がいなければどうもまだ顔が浸透していないらしく、隊服を纏っているにも関わらず呼び止められてしまったのだ。
警察手帳を見せて土方の行方を知りたいと嬢に話したところ、残念そうな面持ちで既に退勤したことを告げられた。


「・・・・・・あ、あの・・・なにか聞いてませんか。飲みに行くとか・・・」
「いえ、特に・・・」


とっくに会議は終わったらしく、既にネオンの灯る夜の街へと消えたらしい。

まずい。

零の背筋にツー、と汗が伝う。
懐から取り出した携帯電話のディスプレイを見るが、やはり土方からはなにも連絡がない。
一瞬戸惑ったが慣れた手つきで電話帳から土方の番号を呼び出しコールする。
いつもなら大体3度目で電話をとる彼だが今日は違った。
長い呼び出し音の後聞こえたのは留守番電話サービスを告げる声。
ため息をついて携帯電話を折りたたみ、他にあてがないか考えてみる。
これまで何軒か同行したことがあるが、松平のお気に入りはお妙も働くあの店だ。


(・・・すまいる・・・行ってみるか)


一日中縮こまっていたため体力が有り余っているのか、それとも土方を想うが故か。
再び全速力で街を駆けていく。
その様はまさに飼い主を追う犬そのものだった。


そして、すまいるの前。
こちらから声をかけるより先にボーイに反応され、零はどうしていいかわからず愛想笑いを浮かべた。

「おや!真選組のお方!本日は一名様ですか?」
「ちがっ!!今日は客じゃないです!あの、松平のとっつぁんは来てますか・・・。」
「松平様ですか?本日はいらっしゃってませんよ。ご予約も承っておりません」
「えええーーー!?」


(すまいるにもいない・・・電話にも出ない・・・・・・・・・・・とっつぁんと夜の街・・・)


考え得る最悪な状況が脳に浮かぶ。

上着を脱ぎ捨て薄いシャツも脱ぎ、息を荒げながらベルトを緩める。
土方の骨ばった指が女の――


「ウギャアアアアアーーーー!!!」


まるで発作が起きたように頭を抱えながら立ち去った零に、ボーイが口をポカンとあけて固まった。
周囲にいた者達も奇声を上げながら走り出した真選組隊士に首をかしげていると、店の扉が開きお妙が顔を覗かせる。


「?おかしいわねぇ、零くんの声がしたと思ったんだけど」


とっくに彼の姿はネオン街へと消えていた。
人混みに構わず出しうる限りの速度で走りぬけ、辺りの店や路地に愛しい主人の姿がないか目を配らせる。
しかし彼の姿はどこにもない。


「土方さあああーーーーん!!ひどいですよ嫌ですよそんなのオオオォオー!!!」

(絶対アレだ!!マットの上でヌルヌルになってるんだ今頃!!!ボインのお姉ちゃんとあんなことやそんなことしてるんだーーーッ!!破廉恥だぞ十四郎ォオオオオォオーー!!!)

「ッ、はぁ・・・はぁ・・・!!ぜぇ・・・どこだァ・・・ヌルヌルの城はァ・・・!!討ち入りじゃあァ・・・!!」


息が苦しくて死にそうだ、足が千切れそうだと思うが土方のことが気になって気になって仕方がない。
もう喧嘩をしていたことなんて忘れているし、そんなことより彼の貞操が心配だった。
不純異性交際は許すわけにはいかない・・・というよりも、ただ単に彼への独占欲。
それが零の原動力となり再び一歩踏み出そうとしたその時。


「あっちだ!いそげ!」
「でかしたな!」

「・・・・・・?(なんだ・・・?)」


脇に続く道からなにやら嫌な気配を感じる。
その中に混じった一際目立つニオイに零が反応して走りだした。



「1人で夜の街をお散歩かい副長サァン?」
「オイオイ犬はどうしたよ、いつも連れてるだろ。アホ犬をよ」
「お前らにアホなんて言われちゃァ奴もかわいそうだ。俺が犬に代わり裁いてやる」


土方が数人の浪人に囲まれていた。
屈強な男共が次々に抜刀し、涼しげな表情で佇む土方へ苛立ちをあらわにさせる。
全員が抜刀したのを確認した土方がするりと刀を抜き、にやりと笑ったところで男達は動き出した。


「鬼の副長だろうが数で畳みかかればこっちのモンよオオォオー!!」
「死ねェエエ!!」


開きがちな瞳孔が更に開く。
醜く斬りかかってくる男たちの肉を裂こうと刃を振るうが、その刃先が当たる前に目の前の男は倒れた。


「ッダアアアアーーー!!!テメエが死ねエエエエェーーー!!!」
「零!?」


倒れる男の後ろから現われたのは零だった。
息を荒げながら次々に男達を斬り倒していき、華麗に攻撃を避けながら土方と背中を合わせる。


「土方さん!!棒は無事ですか!?ヌルヌルになってませんか!!??」
「はぁ!?何の話してんだ!」

「クッソ!!!やっぱりハナから犬ッコロもいたんじゃねーか!!」
「いねーわ!この人のこと探してたんだっつの!!もう!!こんなところでたった1人で何してたんですか!!え、もしかして1人でナニしてたんですか!?」
「零!さっきからなんなんだよ!話がよめねーんだけど!?」
「こっちのセリフですよ!!てっきりとっつぁんといるもんだと・・・十四郎!!危ねェッ!!」
「!?」

「ベラベラ喋ってんじゃねええ!!!」


二人は次々に降りかかる攻撃を華麗にかわしつつ敵と刀を交えていたのだが、攻撃の力はともかく数で推されてしまい一瞬の隙が出来た。
その隙につけこんだ男が土方に斬りかかろうとし、それを防ごうと伸びた零の腕に傷がついた。


「いってェ…ッ!」


思わず傷ついた腕を押さえ、土方の後ろへ隠れた零。
土方は零をちらりと視界にいれ、怪我の程度を確認した。
血が出ているが、本人の様子から察するに傷は浅いようだ。
しかし、傷の具合が問題ではない。
零に傷をつけたというこの罪は万死に値する。


「ウチの番犬によくも傷をつけてくれたなァ・・・テメェらの首を全部並べようが、この罪は滅ぼせねェぜ」


それからの土方の動きは目で追えぬほどだった。
次々に現われた増援もほぼ1人で制圧し、全て生け捕りにした上で警察庁本部に応援を依頼。
1人も殺さずとして捕縛を成功させたのはさすがの手腕か。
自分ならば殺していた、と零は思った。

5分ほどですぐに到着した応援に事の次第を伝え、浪人達の身柄を受け渡して一件落着。
とんだ厄介ごとに巻き込まれたが今日はまだマシな方だと思った。
怪我も大したことないし、男達も大した腕ではなかった。

警察庁と真選組への報告を終えた零が土方に駆け寄り、自然と二人は大通りへと歩き出した。


「アイツら高杉派の過激攘夷志士だったみたいですよ。お手柄でしたねー」
「おう、それより怪我大丈夫か?見せてみろ」
「大丈夫ですよ、かすり傷です。」
「・・・・・・はぁ・・・」


大きな怪我でなくてよかった。
零が怪我をするたびにそう思う。


「・・・あの・・・土方さん。」
「あん?」
「・・・・・・この前のこと・・・ごめんなさい。」
「・・・・・・んなことまだ気にしてたのか」
「は?土方さんだって気にしてたんでしょ?・・・じゃなくて・・・すみません、本当に。無駄な怪我とか・・・偉そうに・・・あなたの力を欲してないみたいな言い方・・・」
「・・・・・・」
「頼りたくないわけじゃないんです。ただ、俺は・・・その・・・俺なんかのために怪我してほしくなくって・・・それであんなこと・・・」
「・・・お前が自分の身も護れぬほどヤワな奴だと思っちゃいねえ。でもな、俺の身体に染み付いてんだ。“零を護る”ってな。だからあの時も動いちまった」
「!」
「お前がさっき飛び込んできたのもそうだろう?本能っつーか・・・頭で考えて来たんじゃない。身体が勝手に、だろ?」
「はい!!ニオイがしたんです!土方さんの!!」
「はっ、まーたニオイか。ほんと犬だな、お前は。よしよし、よくやったぞ」


歩きながら零の頭を撫でてやると、それはもう嬉しそうに腕にしがみつく。
そしてもっと撫でろとせがんいるのか、土方の目をじっと見つめるが彼は撫でる手を止めて立ち止まった。


「零・・・もう“俺なんか”なんて言うな。俺は“お前だから”いくらでも怪我できんだよ」
「・・・・・・」


目を丸くした零の頭を再び撫でてやると、彼は笑った。


「・・・実はな、飯まだなんだ・・・なにか食って帰ろう」
「え?じゃあ今まで何してたんですか?」
「とっつぁんと飲みにいくつもりだったんだが、あのオッサンが選ぶ店とんでもなくてよォ・・・店前で別れて屯所に戻ろうとしたらあのザマだ。」
「じゃ、じゃあヌルヌルもなし・・・?おっぱいぱふぱふもなし・・・?」
「あ?」
「ちんこも無事!!」
「あァ!?」
「はーーーーよかったーーーー・・・土方さん、おいしいご飯食べましょう!今日はお誕生日ですもんね!」
「・・・・・・・・・・・」
「土方さん?」
「・・・・・・あー・・・今日5日か・・・」
「えええええええーーー!?アンタもしかして気づいてなかったんですか!!??自分の誕生日忘れるって・・・ジジイじゃあるましい・・・」
「悪かったな!この歳になったら誕生日なんてどーでもよくなんだよ」
「そうなんですか?俺自分の誕生日とか正月より土方さんの誕生日が大事ですけどね」
「・・・・・・」
「寿司でも行きますー?ほら、なんか気になってる店あるって言ってたじゃないですか」


もうじき大通りへ出るというところでまた土方の足が止まった。
今度はなんだ、と零も止まって言葉を待つ。


「零」
「はい」
「プレゼント、は。」
「・・・え。」
「去年はライター、その前は着流し。その前は筆だったか。今年はなにをくれるんだ」
「な、なんですか・・・日付は忘れるくせにそんなのは覚えてるんですね・・・っ」
「アホの零が一所懸命頭悩ませてくれるモン、忘れるワケあるかよ」
「アホは余計です・・・・・って言いたいけどアホかも。今年はまだ用意できてないんです・・・必ずお渡しするんでその時は」
「なぁ。」
「はい」
「煙草を忘れたんだ。なにか持ってねーか。口が寂しくてしょうがねぇ・・・」


ヘビースモーカーである土方が煙草を忘れるなんて珍しことだなと思った。
飴やガムがないかあらゆるポケットを探るが、こういう時に限ってひとつも持っていない。


「えぇっと・・・あ、ティッシュ出てきた・・・これ口にいれときます?」
「どういうつもりなんだよテメー。ヤギでも断るわ」
「だってほかにないし。我慢してくださいよ、これだから喫煙厨は」
「あん?よく考えろよ、あんだろここに」
「なにが」


少女マンガかよ、と零が心で叫んだ。

こんな場面、今時少女マンガでも描かれないんじゃないだろうか。
顎を持ち上げられて顔が近づいてきたかと思えば唇が合わさった。
うわ、土方さんの顔近いなぁだとか、色素が薄い瞳だなぁとか、鼻筋通ってるなぁとか・・・そんなくだらないことを考えてるこの間にも唇は合わさっていて。


「こいつァとびっきりの嗜好品だ」


ようやくはなれた唇。
至近距離には未だ土方の顔。
唇に残るは熱。


全身の血が、熱が顔に集まってくるようだ。


「ぁ・・・うっ・・・うぁ・・・」
「・・・おい・・・零・・・?大丈「ウアアアァァッ・・・!?あ!?え・・・!えぇっ・・・!?」」
「顔!ははっ、真っ赤だぞ!ククッ!ハハッ・・・!」
「ッ!!からかってるんですか・・・ッ!!」
「んなわけあるか!」
「ここここ、こんなことあっていいんですか!!“俺なんか”に土方さんが「コラ。また言った。」」
「!!」
「零だから、だ。わかってくれ、お前以外にゃありえねえ」
「・・・・・・それは・・・その・・・俺・・・勘違いしますよ・・・」
「勘違い?」
「・・・・・・ひ、土方さんと・・・その・・・」


顔を真っ赤にして俯いた零を見た土方がくすりと笑う。
俯いた頭を優しく撫でて肩をさすると、恐る恐る彼の顔が上がった。


「零・・・いい子だ。ずっとそうでいてくれ。俺を真っ直ぐに見つめて、ずっと変わらず笑っててくれ・・・。」
「は、はい・・・!!」
「それでいい。おめえが1年そうしてくれてりゃ俺はなんにもいらねーよ」
「えええーーー!?」
「不満か?」
「そりゃそうですよ!もっとないんですか!欲しいもんとか!行きたいところとか!」
「・・・・・・言ったら叶うのか」
「言ってみてくださいよ」



「・・・・・・今晩、一緒に“寝よう”」



わざとなのか、照れ隠しなのか。
背を向けてせかせかと歩き出した土方の後を追いかけて再び腕にしがみつく。


「土方さん!いいですよ!俺も“同じ気持ち”でしたから!」


若干高潮した顔が満面の笑みをつくったことに、土方はどくんと心臓を鳴らした。
もしかしてとんでもないことを言ったんじゃなかろうか、そう思うが今日はいいだろう。
なんていったって誕生日なんだからな、と自分を納得させそれ以上ごちゃごちゃ考えるのはよした。
緩みそうになる頬に力を入れて早く屯所へ帰りたいなんて思っていると、突然腕から零が離れて前を走っていき空を仰いだ。


「誕生日おめでとう十四郎ーーーーーー!!!」
「馬鹿!!うるせェ!」
「あはは!」


逃げる零を追って走り出す土方。




その夜から二人の関係が変わったとか変わらなかったとか――。



20150505

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