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銀時/恋の味を教えよう


<今日はバレンタインデーです!大江戸デパートはチョコを購入する女性達で大変な賑わいをみせています!ご覧ください、あちらでは有名パティシエの……>

応接間の椅子にどっかりと腰かけて、ジャンプをだらだら読んでいた銀時が“バレンタインデー”という言葉に反応して顔をあげた。

テレビの向こう側にいる花野アナが息を荒くして伝えているとおり、今日は2月14日…バレンタインデーである。
意中の異性にチョコと共に想いを伝えるもよし、家族や友人に感謝を伝えるもよし、自分への褒美にチョコを食べるもよし。

バレンタインデーとはもっとドキドキと胸が高鳴る日だったと思うが、貰えるあてがなければ心底どうでもいい日だ。
再びジャンプに視線を落とすと呼び鈴が鳴った。
家賃の催促かと思い玄関まで行くか迷ったが、どこか期待している気持ちが勝ってしまい玄関をあけにいく。

「よっ、銀さん」

期待どおりといえば期待どおりだが、そうじゃないといえばそうじゃない。
もこもこの防寒着に身を包んだ零がにこにこと立っていたのだ。
もしかして女が来たか?と期待していたが、正直言って女が来るより100倍は嬉しい。

私服を着ているということは非番なのだろう。
たまにしかない非番なのに、わざわざ訪ねてきた彼…しかも今日はバレンタインデー…期待しないなんて男じゃない。
最近では同性同士でもチョコを贈りあうとさっきのテレビで言っていた。
可能性はゼロじゃない。

「たまたま前を通ったから寄ってみたんだ」
「ふーん…………で?」
「!!…え…!!えっと…ひ、ひま!?ご飯でもどう!?」
「飯か〜〜いいぜ、行くか。財布とってくっから待っててくれー」

零は返事をして先に下まで降りていった。

しばらくして上着を羽織った銀時が現れて二人はゆっくり町を歩き始める。

繁華街へ出ると、どこを見ても幸せそうに歩く男女しかいなかった。
これでもかとくっついて歩くカップルに銀時と零が心底いらいらしている。

「うぜえ、カップルだらけじゃん…」
「そりゃおめェ…今日はバレンタインだぞ?」
「浮かれてんなあ」
「零くんはもらったか?チョコ」
「あー…まあ…。銀さんは?」
「ちょっと待てコラ。貰ったのかよ!」
「義理だよ義理!」
「俺は義理すらもらえてねーっつーの」
「神楽ちゃんやお妙さんからは?」
「色気のねえあいつらがバレンタインなんて気にすると思うか?」
「わからないぞ、もしかしたら準備してるかも」
「ないない」


「きゃーっ!ちょっとあそこ見て!」
「あの人もしかして…!」


「銀さん、あの女の子たちこっち見て騒いでる…って、なにしてんの」
「ちょっと見てくれ、どう?目と眉近づいてる?かっこいい?やべえ、あの袋絶対にチョコ入ってるって!!」
「お、こっち来た」

派手な見た目の女達がきゃいきゃい騒ぎながら零たちに近寄ってきた。
二人は思わず身構える。

「あ、あの…!真選組の方ですよね!」
「は…!?俺!?」

まさか声をかけられるとは思っていなかった零は驚いて、彼女たちをまん丸な目で見つめた。

「私たちずっとファンだったんです!あの…これ…」

(こんなにかわいい女の子たちが俺に…!?)

期待に胸をおどらせる零と、その隣で嫉妬を燃やしまくる銀時。
どうして俺じゃないのかと銀時の表情は醜く歪んでいる。

案外もてるのかも、と彼女たちが差し出した袋を受け取ろうと零が手を出した瞬間。
彼女たちは顔を真っ赤にしながらこう言った。


「「土方様へ渡してください!!」」


「…………土方さんへね…はい…わかりました…」
「ブフッ!!」

渡しちゃった〜などと騒ぎながらその場を後にしていく彼女たちの姿を見ながら、無の表情で固まる零を指をさして銀時が笑っている。

「がっかりすんなよ零くん…!グフフッ…期待してたよね、一瞬期待してたよね!」

(なにが土方様じゃアアア!!土方さんにチョコを渡すなんて100万年早いわ、チャラチャラしやがってチクショウ!マヨネーズで顔洗って出直してこいやクッソオオオォォー!!)

「期待とかしてないし」
「うおっめっちゃ苛々してる!」
「銀さんはやくご飯食べよ!!イライラするわバレンタインがなんだっつーの。菓子業界の策略にまんまとハマりやがって」
「はいはい、苛々すんなって」


「これ君がつくってくれたのお〜??」
「そうよ〜ダーリンのためにがんばっちゃったあ〜!」


「バレンタインぶち殺す…」
「銀さん、苛々すんなって」




10件近くまわったのにも関わらずどこの飲食店も満席だった。
仕方なく立ち寄ったパン屋で焼きたてのパンを買い、寒空の下公園のベンチで食すことにした。
途中であたたかいコーヒーも買って二人は肩を並べパンを頬張る。

「あーあ、どこもいっぱいだったなー」
「こういうのもいいんじゃね。零くんとなら新鮮でいいわ」

銀時が買ったのは甘い菓子パンばかり。
店主にすすめられたクリームたっぷりのパンを満足げに咀嚼していた。

「雪でも降りそうだなー」

零が灰色の空を仰ぎながらコーヒーをすする。

「雪好き?」
「あんまりかな…寒いの苦手だし……ぷっ。銀さん、クリームついてる」
「とって」
「はい、とれた」

指で口元についたクリームを拭い、その指を口にふくんだ。
銀時はその動きをぼうっと眺めため息をつく。

「サラッとなにしてんだよ。そういうのは彼女にやってやりな」
「どこでつくれんの」
「しるか。落ちてんの拾え」
「落ちてんの!?」
「落ちてる落ちてる。空気が抜けてくったりしてるけど」
「それってダッチワイ「零くん、雪だ」」
「おお〜」
「あんまり…っていうわりに目がキラキラしてるけど」
「え!」
「かわいい奴。零くんみたいなのが側近だったら毎日楽しいな」
「そうかー?土方さんはそんな感じに見えないけど」
「態度に出すような奴じゃないだろ」
「はは、確かに」
「移動すっか…ウチ来る?」

最後の一口をもぐもぐと食べながら、パンの包みをゴミ箱へ投げ入れた。
さっさと立ち上がった銀時の上着の裾を控えめに掴み、もじもじとして座ったままの零に銀時が気づく。

「どした」
「ぎっ、銀さん…」
「ん、………え?」
「こ、これ…!!!俺から!!!……です」

バレンタインなんて、と散々口にしていた零が懐から小さな小箱を取りだして銀時に差し出した。
突然のことで何がどうなってるのか混乱している銀時。
頭をフル回転させた結果導きだされた答えは

「ど…どっきり…?」
「は!?違う!…その……手づくりじゃないし、よくわかんなかったから…口に合わないかもしれないけど……、なんか有名パティシエ?が作ったとかなんとかで…っ……銀さん?」

(やばいやばいやばいやばいやばいやばいマジで!?マジなのか!?零くんが俺に…!?な、なんで顔赤いんだよ…なんでもじもじしてんの…なんで目をあわせないんだよ…!)

「銀さんにはたくさん世話になってるし!それに……っ」
「それに…?」
「……き…だから…」
「…なんて?」
「うっ…!なんでもない!!ほら、早く行こ!寒いって」
「零くん」
「ん?………!?」

耳まで真っ赤にして俯いてる零をそっと抱き寄せて、顎を持ち上げ軽くキスを落とした。
すぐにはなされた唇には互いの熱が残ったままで、思考が追い付いていないであろう零を見ながら銀時が微笑んだ。

「これは俺から」
「ぎ…!」
「チョコぐらい甘いと思うんだけど…どう?」

心なしか銀時の目と眉が近い。
零はまるで目眩が起きてるような感覚に見舞われ、頭を抱えた。

「……甘すぎるって…」

聞こえているのか聞こえていないのか、前を歩く銀時の足どりはどこか楽しげだ。
その背中に走って追い付いて銀時の腕へとしがみつくと、彼は愛しげに零の髪にキスをした。



「菓子業界の策略にまんまとハマってくれてありがとよ」



雪の降る中、二人はふざけながら万事屋へと帰っていった。




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