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高杉/麝香と蜘蛛の糸※

血の赤。
蜜の味。
嬌声と痣。

身体を重ねる度に溺れていくのがわかった。
息苦しくてたまらない。
酸素を欲して水面を目指すが、雁字搦めに絡みつく棘がそれを許さない。

お互いの心臓をつかみ、殺意を抱きながら酔う夜。
決して甘いとはいえない行為に、二人はいつも笑っていた。

「いい眺めだ、零」
「綺麗だろ」

血と精液に塗れた零の身体。
首には縄が食い込んでいる。
何度も締め上げられたそこは赤黒く痣になっており、似た痣が身体のあちこちに存在していた。

夜の闇を背負って窓の縁に腰を掛ける零。
爪先を高杉の顔へと伸ばし口づけを欲求する。

「自惚れるな」

高杉はフッと笑い、零の欲求に応える。
爪先に唇を這わせ、はだけた着流しからスッと伸びた脚に舌を這わしていくと零は喜んだ。
恍惚とした表情で高杉を見下ろす零を見て高杉もまた喜ぶ。

だらりと垂れた縄の先をおもいっきり引っ張り、落ちてきた零を受け止める。
そのまま貪るように唇を奪い、首の縄を締め上げた。

死んでしまう。
殺してしまう。

そう思うのに退廃的なこの行為がやめられない。
零の身体がビクンと大きく跳ねたところで高杉は手を緩めた。

「はぁ……はぁ、はあ…っしぬ……っ」
「そいつぁ困る」
「ははっ…はぁ…こんな馬鹿みてぇなことできんの…はぁ…俺だけだもんな…っ」
「ああ」
「高杉」

まだ息の整っていない零が高杉を押し倒し馬乗りになる。
高杉は零にされるがまま着流しを脱がされ、上半身を露にさせた。

「前の…残ってる」

自分が噛みついてつけた痣が胸に残ったままなのを見つけ、零は微笑む。
その痣をなぞるように猫のように舐めあげると高杉は優しく零の頭を撫でた。

「心臓を食らう勢いで噛みつきゃァそりゃ痣になるだろう」
「痛かった?」
「痛いと言えばやめるか?」
「やめないな」

高杉はコツン、と零の額を指で弾く。
零は可笑しそうに微笑んで高杉にしがみつくようにして抱きついた。

「…生も死も…過去も未来も身体も心も…高杉に全部握られたい…どうすれば高杉と生きていけるかな……」

痛みも快楽も共有し、こんなにも満たされて充実しているはずなのに…やはり完璧ではなかった。

散乱した零の私物の中にある手帳に記された“特別武装警察真選組”の文字。
北村零の居場所。
北村零の生きる場所。
土方に仕えると決めた幼き日、永遠を誓った。


(命すら捧げる覚悟だった……)


ふらつく足元を支えたのは敵である高杉晋助だった。
逢い引きを繰返し身を重ねても、別れ際にはいつも悲しみだけが残る。
身体中の熱も痣もまるで夢のように冷めてしまって、現実を生きていく。
あがいてももがいても底無しの闇だ。

確かな証が欲しい。

「殺してくれ…」

零の言葉に、それまで柔らかな表情を見せていた高杉は豹変した。
股がったままだった零をどかし、床に散らばっていた縄で乱暴に身体を締め上げた。
身体を床に転がし、抵抗をしない零に死ねと吐き捨てる。

「阿呆が」

高杉が零の首筋に噛みつく。
官能的な痛み、甘い言葉など一片もない。

「っ……いっ」

タラタラと流れる血を丁寧に舐め、そこから全身の血を吸ってやるというような力で吸い付く高杉。
零の首筋はみるみる赤く変色していく。

「……高杉」
「ん」
「俺が死んだら泣いてくれるか」

高杉は返事を返す代わりに唇をあわせる。
柔らかな感触を楽しむかのように何度も、何度も。

「お前のことなんか忘れてやる」
「……ああ、いいよ。俺もお前なんか忘れてやる…いつまでも覚えてると悲しいからな」

生と死も愛と拒絶も表裏一体。

「高杉、もっと」
「…言葉にしろ」
「もっと痛みをくれ」

高杉はにこやかに零の首を絞める。

「いくらでもくれてやる」

零は抵抗をせずただ黙って高杉を受け入れる。
首を絞めていた高杉の両手は零の身体をまさぐり、右手が陰茎へとのびた。

「若いってのはいいな。何度目だ」
「っ、高杉だって人のこと言えないだろ」
「……あァそうだな。口あけろ」

高杉の言うとおりに口をあけると、零の期待通りに高杉のいきり立ったソレが口内を犯し始めた。
零の口には大きすぎるそれを懸命に頬張り高杉が喜ぶように舌で刺激を与えると、高杉は意地悪く腰を打ち付けて零に余裕を与えなかった。
苦しさで涙を流している姿を見た高杉はそれはもう喜んだ。
零の髪を掴んで喉の奥を何度も掠めるうちに何度目かわからない絶頂が近づく。

「溢すなよ」

その言葉とほぼ同時に高杉の精液が零の咽をつたい体内へと流れていく。
零にとって死と愛の両方を感じられる至福の瞬間だ。
ぬるり、と引き抜かれた陰茎を綺麗に舐めあげていると優しく頭を撫でられた。

「犬じゃないぞ」
「ほう、それは悪かった」

二人にとって糖分過多な言葉や行為は不要。

「高杉、縄ほどいて」

未来はわからない。
明日のことすらわからない。
もしかしたら明日は無いかもしれない。
消えてしまいそうな“彼”に必死に縋るしかない。

「好きだ、好きだ高杉…好き………っ」

高杉は零の顔を両手で優しく包み、涙を流す彼の額にそっと自分の額を合わせた。



背徳の夜にかさなる影。
終末の足音が近づき、運命が嗤う。




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