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高杉/LOTUS/現パロ(麝香と蜘蛛の糸と繋がってます)




「はぁ……っ、零……ッ!」
「く……ッ!」


汗や涎を垂らし、強く抱きしめあいながら、今晩二度目の絶頂を二人で迎えた。
ぜえ、ぜえ、と、肩で息をする零へ覆い被さるように、高杉は力を無くしてぐったりと倒れこみ、身を委ねる。
乱れる呼吸を整えようとしている高杉の頭を零が撫でると、顔を上げ、零を見つめる高杉の口元は、満足げに弧を描いていた。


「やべえ、マジ、すごかった……股が裂けるかと思った…」
「……ふふ……ッ、もう何も出ねェってのに、まだ抱けそうだ……、おめえ、ケツにシャブでも入れてんのか」
「入れてるわけねえだろ、入れてんのはお前のちんこだけだ」
「そうかい。そいつァ、良かった」
「……っ」
「どうした」
「照れてるんだよ……」


自らの発言であるのに、羞恥で悶える零の様子が、面白い。
両手で顔を隠しているが、赤くなっている耳は隠せておらず、「馬鹿」と笑う高杉が、その耳にキスを落とすと、気だるそうにゆっくりと身体を起こした。
下着よりも先に、ベッドの下に転がしていたミネラルウォーターのボトルを手に取り、渇いた喉を潤す。
ボトルの半分近くまで飲んだところで、いまだに顔を隠している零へ、ボトルをちらつかせた。


「零、飲むか」
「飲む」


手の指の隙間から、零の瞳が覗く。
目が合った高杉はボトルを布団の上に置き、手を差し出してやる。
すると、大人しくその手を握った零は、高杉の力を借りて、重たい身体を起こした。
ボトルを手にした零は、相当喉が渇いていたのか水を一気に飲みほして、再び身体を布団に沈めた。
ぐったりと倒れた身体を眺める高杉が、小さなため息を吐く。


(あれだけ喘いだら喉も渇くし、疲れるか……)


これを声にすると再びおもしろい反応をするんだろうなと思ったが、高杉はぐっと言葉を呑み込んだ。


「暑い……、風呂入ったのに汗だく……」
「あぁ。シャワー浴びてくる」
「おう、俺も後で入る」
「寝るなよ」
「汗と精液まみれで眠れるかっての。ツムツムして待ってるから早くして」


横になっていた零が勢いよく起き上がると、枕元に置いていたティッシュで簡単に身体の汚れを拭き取り、事が始まると同時に高杉に投げられた下着をとりに、部屋のすみまで移動する。
そのついでに、ソファに置きざりにされていたスマホを拾うと、再びベッドへ転がり、ゲームアプリを起動させた。
ベッドの端に腰掛けている高杉が、そんな零をぼうっと眺めていると、その視線に気づいた零が首をかしげる。


「……暇さえあれば、ソレをやってるな。ゲームばかりやってっと馬鹿になんぞ……あァ、悪い。もう馬鹿だったか」
「晋助くぅ〜ん、俺にランキング抜かれて悔しいのかなぁ〜?」
「俺ァ暇つぶしにやってるだけだ、順位なんてどうでもいい。タマタマでもチンチンでも、一生やってろ」
「ツムツムだっつの」



*




高杉がシャワーを浴びて戻ってくると、零は枕に突っ伏して眠っていた。
しっかり握られていたはずのスマホは下へ落ちてるし、身体にかけられていたシーツは乱れ、尻が丸見えという大変間抜けな姿で。
ため息をついた高杉が、タオルで髪をふきながら、零のそばに腰をおろす。
そして、少し悪戯をしてやろう、と、尻へ手を伸ばした。
ゆるく揉んでも反応はなく、うんともすんとも言いやしない。
すやすや寝息をたてる姿に不安をおぼえつつ、高杉は呆れ果てた。


「いつもそうやって眠って、次の日大騒ぎするんだろうが。知らないからな」


サイドテーブルに置かれた煙草を手に取り口にくわえ、火をつけながらそう言うと、ようやく、零がもぞもぞと反応を示し、座っている高杉の腰へしがみつく。


「………ねむい」
「シャワー浴びてこい」
「動けねえ……タオルでふいて……」
「……はぁ。俺に甘えすぎじゃァねぇか?最近は、特に酷い……」
「え……、ご、ごめん。冗談のつもりで……」


不安げに眉を下げた零の髪をさわり、細く、長く紫煙を吐き出した高杉。
ふ、と笑ったかと思うと、彼は煙草をくわえながらおもむろに立ち上がった。


「いや、嬉しいんだ。待ってろ」


予想もしていなかった言葉を投げかけられ、気絶しそうだ、と、零は思った。
沸騰しそうな血液が身体中をめぐり、指先まで火照る。
微笑みかけられ、優しい声色で名前を呼ばれ、髪に触れてもらうこと、何もかも全てが幸福に繋がっていて、一挙一動に心が揺れ動く。
これが惚れた弱みなのか、と、どうしようもない羞恥は、枕を叩き殴ることで発散させた。
零が一人で暴れているなんて知らず、呑気に部屋へ戻って来た高杉が、ぬるま湯で湿ったタオルを零の身体へ投げる。
布団の上に落ちたタオルを拾い上げた零が、近づいてくる高杉を、だらしない締まりのない顔で見つめていると、さすがに様子のおかしいことに気づいた高杉は、怪訝な表情で煙草を灰皿へ捨てていた。


「あ?」
「なんでもない」


すとん、と、高杉が零のそばで腰をおろすと、零がそっとタオルを差し出した。
さぁ、拭いてくれ、と言わんばかりに、幼児のように両腕を上げれば、高杉は素直に身体へタオルをこすりつけてやる。


「あーーーきもちいいー」
「動くな」
「ごめんごめん」


零の腕が、高杉の首に絡む。
なんとなく、その密着を嬉しいと思う高杉は、くすりと笑った。


「お前は……、何も変わらないな。“あの時”と違うのは、傷がないことだけだ」


向き合って座っている二人が、同時に見つめあい、口を閉ざす。
身体を拭いていた高杉の手は止まり、高杉の首に腕を絡めていた零は、更に力をこめて顔を近づけた。


「高杉……、どれくらい思い出した」
「……さあな」
「少しくらい教えてくれよ。俺は……、ダメなんだからさ……」
「俺の思い出話で、お前の記憶が戻るとは思わん。それに、口にしたくないことだってある、察しろ」
「口にしたくないって……俺たち何があったんだよ。ていうか、高杉に殺されかけた気がするんだけど、どう?合ってる?」
「ほう、どうでもいいことは思い出してるんだな」
「どうでもいい!?殺されかけたのに!?」
「俺も殺られかけたから、おあいこだ」


どこか切なげに微笑んだ高杉が、再び零の身体を拭くことに専念する。


「……すごいよな。そんな相手とさっきまでセックスしてたんだぞ……」
「燃えるじゃねーか」
「高杉」
「ん」
「左目、見せてくれ」


物心がついたときから、見たこともない景色になぜか懐かしさを感じ、出会ったことがない人々に会いたいと思う自分がいた。
生まれも育ちも違うというのに、どうしてか人が溢れる大都会の、汚い路地で、高杉と零が出会ったのは数年前。
徐々に仲を深める間、様々な出来事があった。
一つずつ思い出して語るには時間が足りないが、今は“恋人”という関係でお互い落ち着いている。

とある夏の日に、二人は蛍を見た。
二人で見るのは初めてであるのに、高杉はその時、ごくごく自然に“また見れたな”、と、口にした。
その日から日常の中で妙な感覚に陥ることが増え、それら全てが“前世”の記憶によるものだと、先に気づいたのは高杉のほう。
どこの誰だったのか、どんな生き方をしていたのか、細かいことはまだ思い出せておらず、そして中々言葉にはしないが、零よりもうんと過去を思い出し、執着していることに間違いはない。
一方、零の方は、ただひとつ。
紫色の着物を纏い、今とは違う妖しい雰囲気を全身に漂わせながら鋭い眼光を放ち、左目を閉ざした高杉の姿だけは思い出していた。
高杉のことを思い出せたことは素直に嬉しく思うが、それ以上の記憶は、何も残っておらず、もどかしい時間が続く。



「零?」


今でも、左目を隠す高杉の前髪に、零が触れる。
傷ひとつもない、美しい深緑の瞳をどうして隠してしまうのか、零にはわからない。
濡れた髪が、やけに冷たく感じる。


「髪で隠すのやめたらいいのに……」
「別にいいだろう……拭けた」
「ありがとう、すっきりした。よーっし、寝るかー。明日は朝から映画だもんな!たっのしみ〜!」


布団に倒れこみ、寝る準備を始める零に高杉が覆いかぶさり、彼の身体をくすぐるようにまさぐる。
くすぐったさに身をよじる零だったが、高杉がこれをするときは“もっと構ってくれ”という意味なので、ならば構ってやろう、と、零も同じく高杉の脇や腹へ手を伸ばした。


「ばっ、やめろ!」
「仕掛けてきたのはそっちだろ!」
「むきになるな、馬鹿野郎」
「そのまま返す!」
「テメェッ」
「高杉」
「あァ!?」
「俺、お前の言う通り馬鹿だからなんにも思い出せてないけどさ……、“今”が当たり前だなんて思ってないからな」
「……突然、なんだ。そんなに思いつめてるように見えたか?」
「そうじゃないけど、言葉にするのは必要だろ。今は思い出せないけど、いつか昔を思い出した時……もっともっと高杉と一緒にいたいって思うんだろうなぁ」


零を見下ろす高杉の双眸が、揺れる。


「思い出したいな。俺とお前が、どんな風に生きてたのか」



(どんな風に……、生きてきたか……)



かつて、真選組とよばれる警察組織で、自らの生に悩み、苦しめられ、運命に抗おうと、必死に生きていたことを、知っている。
間違いなく、二人は“敵”だった。
けれども、きっと、“同志”でもあった。
惹かれあい、憎みあい、殺しあい、誰にも渡してたまるかと、地獄めぐりの約束までくれてやった。
朝を恨み、夜に溺れ、一日たりとも抱きしめあった温もりを忘れたことなんてなかった。



―――俺が死んだら泣いてくれるか



儚く、美しく、月を背に、艶かしく、問われた夜。
椿のように凛と、控えめに微笑む、悪鬼羅刹と呼ばれた十八の少年。
この腕で、確かに抱いた。
この耳は、確かに声を聞いた。
あの時の答えは、確か、“忘れてやる”という、弱い自分のついた嘘だった。
四百年も忘れられず、そして、死んでも尚、椿の微香に誘われたことを、一体誰が笑えるというのか。



「……高杉?」
「……思い出さなくてもいい。俺が、お前のことを覚えてる」


力なく、呟くようにして言葉を吐いた高杉が、零の身体を抱きしめる。
首筋に顔を埋める高杉の身体が僅かに震えたことに気づいた零は、背中を優しく撫でてやった。


「……苦しそうにされると辛いんだ。俺もわかってやれたらいいのにって、すごく思う」



―――お前なんか忘れてやる。いつまでも、覚えていると悲しいからな



「零……お前は、昔から信念を貫く男だ。言葉の責任は必ずとるし、くだらねえ嘘も吐かねえ。過去に縛られるな」
「ん……?そうは言っても、断片的に思い出してるんだけどな」
「何も思い出すな、とは言わないさ。徐々に思い出してくれりゃ、俺だって嬉しい」
「嬉しい?」
「……ああ。イイ思い出ばかりじゃないと思うがな」
「そっか。まあ、覚悟はしてる。“土方先輩”も似たようなこと言ってたし、時間に任せるよ」


零から身体を離した高杉が、ごろん、と身体を転がして、天井を仰ぐ。
その横顔を零が見つめていると、ふ、と、高杉は目蓋を閉じた。


「……土方、ねェ。さぞ、良い奴なんだとお見受けすらァ」
「……なんだよ、トゲがあるな。先輩のことは高杉も知ってるだろ?この前一緒に飲んだんだし」
「俺も奴も楽しそうに見えたか?場の空気壊さなかっただけでもありがたく思ってほしいんだが」


うっすらと唇を開いた零だったが、言葉は出てこなかった。
身体を起こして、高杉の身体の上に跨ると、先ほどの高杉と同じように首筋に顔を埋めて、頭を優しく何度も撫でていく。
すると、ゆっくりと、高杉の目蓋は開かれ、零の背中へ腕がまわされた。


「土方先輩のことになると、急にキツくなるよな……」
「……血の海に浮かんでいた落椿を掬い上げたのも、地獄で零の腕を掴んで、“ここ”まで這い上がってきたのも、俺だ。それなのに、いつまでも、いつまでも、お前の手足には茨が絡んでやがる」
「いばら……?」
「ブッ壊してやりてェと思う。引きちぎってやりてえと思う。けれど、俺にその力はない。お前が俺の名前を当たり前に呼んでくれる日々だけが、俺にとっての今生の幸福だ。それを守る為に、何を壊しちゃいけねえかは、わかってる」


渦巻く憎悪、溢れる恐怖、甦る感情に振り回され、理性をなくすのはただの獣だ。
もう一度生を受けた意味は、きっと目の前の命に再び触れる為であったと思うと、たまらない愛しさがこみ上げる。


「零……、俺の名前を、嫌というくらい、飽きるまで、呼んでくれ。今まで紡いだどの名前よりも……」
「うん……、俺が誰より名前を呼ぶよ。だから、悲しい顔をしないでくれ」


きっと高杉は、今までもこうして、一人で例えようのない痛みと戦ってきたのだろうと思うと、零の心が痛む。
助けてやりたいと思うのにどうすることも出来なくて、毎日ひたすら手を握り、目を見て、彼の話を聞くことしかできない。
今まで起きた出来事を話したがらない高杉から察するに、ただならぬ関係であったことは窺えるが、今を生きる自分達にとって、さほど重要なことではないはずだ。
零が知りたいのは、高杉の“恐れ”。
何度も目にかかる髪を払う零の手が、高杉の左頬に添えられる。


「……見せて……」
「……左目で……、この世を見るのが恐ろしい……」
「俺がいるのに?その左目で俺を見たくなかったのか?」
「……」
「俺は、ずっと左の瞳を見たかった……だから、高杉の腕を掴んだんだ」


深い深い闇の底に埋もれた、断片的な記憶。
霧に覆われ、共に堕ちた夜がある。


「……くだらないことを……、訊いていいか……」
「あぁ」


曇りのない零の双眸は、確かに今、高杉晋助という男を、見つめている。



「“俺が死んだら泣いてくれるか”」



―――忘れてやる
そんな言葉をかつて、言ったような気がする。
ただただ溶けるだけの愛の言葉や、何も生み出さず、孤独すら埋められない、退廃的行為。
これまでも、今も、欲望のまま身体を重ねてきたわけではない。
出会ってしまったこと、刃をつきたてたこと、なにもかもが罪過であるのなら、今も尚、その罪過を背負い、悲しいほど互いを愛してしまっている。


「……当たり前だ……っ」


長い年月をかけてようやく吐き出すことを許された言葉の重みは、この世ではまだ、高杉にしかわからない。
涙を流すことすら赦されなかったことは、誰もみな、忘れたままでいいと願う。

零の手が高杉の首を絞めるように伸ばされると、高杉はうっとりと零を見上げた。







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あきゅろす。
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