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高杉/武州で過ごした夏の話し【後編】




野菜や魚を山盛り持ち帰った二人を見て、たまたま出迎えた宿の主人は笑っていた。

薪割りを手伝うので炊事場を貸してほしいという零の願いを、ほかに宿泊客もいないということで聞き入れてくれ、二人は食材を置きに炊事場へと向かった。
大きな作業台の上に食材を並べ終えると、零は“よし”、と、たすきで袖を縛りあげ己に気合を入れる。
高杉はやれやれと椅子に座り、てきぱきと食材を手に取る零を眺めていた。


「おい、二日酔い。部屋で寝てろよ」
「目を離した隙に毒でも盛られたらかなわん」
「バレてたかー。酒預かってもらってるんだろ?ここでもう飲むかー?」
「いや、まだいい。水をくれ」


はいはい、と、食器棚から適当に湯飲みを取り、井戸から水を汲んで高杉に手渡すと、咽が渇いていたのか一気にそれを飲み干す。
気を利かせてもう一杯入れてやると、それにもすぐに口をつけていた。
別になんともない動作なのだが、“高杉晋助”が行っていると思うと、ささいなことでもなんだか可笑しい。


「なににやついてやがる」
「ごめんごめん。ところで高杉。魚は捌ける?居るならなにか手伝えよ」
「魚……?捌けるわけがねえ。それに、鮎なら塩焼きがいい。腸ごと焼いてくれ」
「へえ、てっきり“腸は全部とれ、殺すぞ。腸引きずり出されてえのか”って言うのかと思った」
「もう少し俺を人間扱いできねえのか」
「俺も鮎なら塩焼きがいいし、このまま串に刺して焼くかー。腸は酒によく合うはずだし」


再び湯飲みを空にした高杉が、ふう、とため息をはく。


「おめぇ、料理なんてどこで覚えた。侍は刀だけ握ってりゃいいだろう、親の方針か」
「別に。勝手に覚えた」
「勝手に覚えるなら俺だって覚えてる筈なんだが」
「うるさいなァ……、いいだろ別に。今時料理がで
きる男なんて珍しくないし、凝ったもの作れるわけじゃないし……」


それまで振り向きながら会話をしていた零が、顔を伏せて魚を洗い出した。
機嫌を損ねたか、と、高杉は野菜のカゴをもって流し台へと向かう。
零と同じようにたすきで袖を捲り、洗うくらいなら手伝えると、広い流し台で野菜を洗い出した。


「……もし鬼兵隊に見られたら、“総督になにやらせてるんだ!”て殺されるな……」
「それなら俺も同じだろう、土方の若衆に飯を作らせるなんて」


ザク、と、零が鮎に竹串を刺す。
淡々と繰り返されるその作業には怒りがこめられているようで、少々荒々しい。
最初からからかうつもりだった高杉は、自分の手元から視線を外さず、きゅうりやトマトを丁寧に水で洗い流していた。


「高杉」
「なんだ」
「俺が、土方さんとそういう関係だと本気で思ってるか?」
「ああ」
「……どうして」
「どうしても何も、お前の目がそう言っている。小姓の首を狙ったのはそういう事情もあるからだと思ったが、違うか?豚を殺す理由なんてそれしかあるめえ」
「……」
(無視か)


三匹の鮎に串を刺し終えた零が塩を揉みこんで、竹ザルに移して作業台へと置いた。
再び流し台に戻って来た零は、高杉が洗い終えたかぼちゃを取り、まな板にのせて勢いよく包丁を振り下ろす。
バコン、ととてつもない大きな音が隣からしたものだから、高杉は反射的に零の手元と顔を交互に見た。


「俺だと思って切りやがったな……」
「……俺」
「あ?」
「誰とも、若契の関係になったことないぞ」
「嘘はよせ。俺ァ別に男色を否定しない」
「あー!もおおおーーー!なんでお前は、俺を男色に仕立て上げたいんだよ!?」
「真選組……いや、お前にゃ世話になったからな。せめてもの情けで、もし若契を結んでいるのなら一緒に葬ってやるべきかと考えてるだけだ」
「ご配慮痛み入ります〜。残念だけどそういうことだから、もう俺のことを“ネコ”ってからかうのやめろ、呪詛かけて殺すぞ」
「おいおい、どうせ殺すなら斬ってくれや」
「もーうるさいうるさいうるさい!早く洗ってくんねェかな!?ナス使うんですけど!!」
「人使いが荒ェ。もっと労われ」
「元気だろうが」


零は一口大に切ったかぼちゃを皿によけ、戸棚から大きな鍋と醤油やみりん、酒などが入った壷を取り出した。
かまどに鍋を置くと、何も言わず勝手口から外へ出て行く。
ぽつん、と炊事場に一人残されてしまった高杉は言われたとおり野菜を洗い終え、その後どうしたらいいかわからず、とりあえず椅子に腰をおろし零の帰りを待った。
するとすぐに、両腕いっぱいに薪を持った零が戻ってきて、手際よくかまどに投げ入れる。
火が必要だと思い、懐にいれた喫煙具の入った巾着からマッチの箱を取り出すと、零の肩を叩いて差し出した。


「ありがとう」
「煮るのか?」
「うん」
「南瓜は苦手だ……菓子を食ってるみたいでな」
「ほんっと好き嫌い多いよな。そんなこともあろうかと、ちゃんと考えてる。出汁で煮て、あんかけ風にするから食べろ」


味の想像がついていないのか、高杉はぴたりと固まる。


「はは、美味いから安心しろって。あっさり食べられるぞ」
「手馴れすぎてる……、屯所で飯炊きもやらされてんのか」
「やらされてるっていうか、屯所の飯は当番制。俺は冷蔵庫の整理も兼ねて、毎週金曜日にごった煮カレーを作ってる。普段の料理なんてそんなもんだよ。それに土方さんの好物しか作れな……」


軽快に喋っていた零が突然口を噤んだ。
やらかした。
墓穴を掘った。


「ほう。献身的な嫁じゃねえかい」


高杉のひやかしに、零の耳も首も真っ赤に染まる。
ぐらぐらと沸いた出汁から昆布を取り出し、かぼちゃと調味料を入れ雑に蓋をしめた。

次の作業に移るため零は流し台へと移動して、野菜を順に手をとると一瞬眉を動かした。
それを見ていた高杉が何か気に入らなかったのかとそばに寄り、手元を見る。
するとトマトを握りこんだ手が震えていて、今にも潰してしまいそうな力が込められていた。


「……なんで土方さんは、若契を断ったんだと思う……?」


流し台から視線を変えぬまま、零は呟いた。


「……話がわからん」
「断られたんだよ!十四の時に……!!」
「待て、それ以上何も話すんじゃねえよ。おめーの色事情なんざ知りたくもない」
「は!?なんだよ気になるくせに!聞けよ!!散々からかっただろ!?」
「デケェ声出して喚くな、頭に響く。断られたのはそういうところじゃねえのか。ガサツなんだか繊細なんだかわからん奴め」
「……」
「手を動かしてくれ、腹が減った」


腑に落ちないといった表情の零が、渋々手元に視線を戻した。
トマトをまな板に置いて、食べやすい大きさに切り分けてゆく。


「……トマトは少しだけ塩をまぶして食べよう。茄子は焼いて、……天ぷらは?」
「ああ、頼む」
「きゅうりは浅漬けかな……」
「味噌はねえのか」
「味噌?あるよ。あ、梅は好きだったっけ?」
「あまり酸いのは好かねえが、嫌いじゃねえよ」
「じゃあ、梅味噌で食べよう。女将さんの作ってる梅干すごく美味しいし、分けてもらってさ」
「……いちいち俺の口に合わせてたらキリがねえぞ。好きにすりゃいい、なんでも食う」
「なんでも食うって言ったって、かなり偏食だろ?何回一緒に飯食べたと思ってるんだよ。バレバレ」
「ガキ共とおめーの手が入ったもんなら食う」
「は!?急に優しいところを見せるなってば、気色悪ィ……」


くすくすと小さく笑う高杉が、勝手口から外へと出て行った。
煙を吸いに吸いに行ったのだろうと思った零は特に気にする様子もなく、淡々と作業を続ける。


外は、蒸すように暑い。
木陰にいても、じんわりと汗がにじむほどに暑い。
それなのに、煙管に火を落とす高杉の指は僅かに震えていた。
自嘲するように笑えばその震えはすぐに治まったが、ああ、これは重症だと頭が痛む。

動揺を悟られないよう、もう少し外にいる必要がありそうだ。



*



「もー!遅いって!冷めるだろー。早く座れよ」


部屋まで運ばれた整然と並ぶ食事を前に、高杉は素直に感嘆の声を漏らした。
女将が出してくれる料理と変わらない家庭的な盛り付けと、食欲をそそるにおいで力が抜ける。
後ろ手に部屋の襖をしめて敷かれている座布団に腰をおろすと、向かいに座っている零が早く褒めろと言わんばかりの満面の笑みでいた。


「くく、褒美は骨がいいか?それともビーフジャーキーか?」
「だから犬じゃねええええぇー!お前このやりとり気にいってんの!?」
「挨拶みてえなもんだろ。一人でここまで作れるたァたいしたもんだ。正直、ナメてたが謝る必要があるな」
「それじゃあ謝れよオイ、頭下げろ。畳に額をこすりつけながら“零くん今までごめんなさい”って一万回言えよ早く」
「飯が冷めんだろ。侘びの印に、こいつを買ってきた。今日は飲め」
「こ、これは……!高級料亭でしかお目にかかれない酒だよな!?こんな廃れた村のどこにこんな酒が……」
「零“くん”、すまねえが俺と飲んでくれねえかい」


まるで友人のようにじゃれあうことに対し、違和感は拭えない。
親密になればなるほど息苦しくて、もどかしくてたまらない。
突き放したいと思うのに、それ以上にくだらないやりとりで笑う時間が心地よくて、嫌になる。


「……はは……、仕方ないなぁ。許してやるよ。さ、食べよう」


零が微笑むと、高杉の表情もつられて緩む。

高杉はいつも酒から口をつけるのだが、今日は珍しく箸を持ちおかずをつついていて、零は気を良くしていた。
朝、子供達と一緒に取った野菜を次々に口へ運ぶ高杉の目は優しい。
不意に目が合った零は慌てて視線を外し、2人分の猪口に酒をついだ。


(……見すぎた……)


「零」
「ん?」
「お前が、俺に初めて酌をした夜を覚えてるか」
「……まだ根に持ってるのかよ」
「酒の肴に、思い出話をしたいだけさ」


数ヶ月前、まだ高杉と零が“敵”とお互いを認識していた頃の話だ。
今となれば偶然だったのか仕組まれた必然だったのかはわからないが、ひょんなことから高杉と零は今のように机を挟んでむかいあった夜があった。
その時にも高級な酒が用意され、机の上にはありあまる量の料理が並べられていたのを鮮明に思い出せる。
瓶を手にしてお互い酒をかけあって、しまいには取っ組み合いにまで発展したそれを、高杉は笑いながら“酌”だと言う。


「あのさぁ、先に俺に酒をぶっかけて来たのは高杉だからな」
「そうだったか?」
「そうだよ!頭からぶっかけられて、あの後屯所で誤魔化すの大変だったんだぞ……」
「ほう、にわか雨に打たれたとでも言ったのか?」
「なんて言ったっけな……確か銀さんのせいにしたような……」


それまで時折笑顔を見せながら零の話を聞いていた高杉が、目を伏せた。


(やべ、なんか地雷踏んだ……)


「あ……これ!天ぷら!天ぷらは食べたか!?うまいぞ!」
「……貰おう」


攘夷四天王と呼ばれ、かの戦争を生き残った四人の侍。
その四人を同志と呼ぶことはあまりにも思慮に欠ける。
中でも幼年期を共に過ごした“三人”は特に因縁があるらしいことを、零は自分の故郷である武州で知った。


「えっと、白飯もあるけど食べる?」
「いや、酒を飲む」
「そ、そっか……!」
「……どうした」
「ん!?」
「妙な気をつかわれている気がするんだが」
「んん!?そんなことないって!俺がお前に気をつかうわけないだろ!」
「あぁ、確かにな」
「別にいいけどなんか腹立つわ」


お互いに、触れられたくないものがある。
見せたくない顔だって、聞いてほしくない叫びもある。
必要以上に干渉せず、けれど歩み寄り、寄り添い、笑いあう日々の罪過。
いつかきっと互いの深淵を覗き見たいと思うだろう。
笑い声も、癖も、眼差しも、歩き方や帯の締め方も、なにも知ることがなければ、もっともっとと求めることはなかったのに。

高杉も零も、互いを知りすぎてしまった。
ただの攘夷志士と真選組隊士にはもう戻れぬほど。


「うめェ」


食事をとることがあまり好きではないという高杉が、口いっぱいに料理をつめこむ姿も見たくなかった光景のひとつだ。


「あはは!ハムスターみたいだ!!そんなっ、あは!あははっ!誰もとらねーよ!はは!おかしい!」
「あのガキ共、肥料に非合法の何か混ぜてやがるぞ。こんなにうめえ南瓜は食ったことがねえ」
「混ぜてるわけねーだろ。料理した俺の腕もいいんだよ」
「魚もうめえ」
「うん、美味しいよな。飯が進む」
「お前、鬼兵隊で飯炊きしねえか」
「真選組クビになったら考える」
「ほう、言ったな」
「クビになる前に鬼兵隊壊滅させて全員粛清する」
「ひでェこと言いやがって」


いつもより会話の多い遅めの昼食は、日が暮れかける時刻までだらだらと続いた。
苦手だと言った南瓜までぺろりと食べて、いらないと断った米も少し食べ、酒に至っては一人でほぼ一升空けた高杉は、ちびちびと酒を飲む零を頬杖をついて眺めている。
もう、かれこれ五分は動いていない。


「おーい、目開けたまま寝てんのかー?」
「……起きてらァ」
「いっぱい食べたな。珍しくてびっくりしたよ。いつも小鉢と刺身くらいしか食べないし」
「口に合ったんだ。三日分は食った」
「子供たちにお礼を言わなきゃな!好き嫌いなおったよって」
「うるせえな……。酒、うまいか?」
「おいしいよ」


そうかい、と、高杉が唇に弧を描きながら優しく微笑む。
酔っているせいか眼差しも温かく、不覚にもいい男だと思ってしまった零の顔が引きつった。



(ギャップありすぎ……)


「はぁ…………、零……」


吐息を漏らしながら名前を呼んだかと思えば、机に突っ伏して高杉は動かなくなった。
今まで酒に潰れた姿なんて見たことがなかったが、今日は珍しいことが続く日のようだ。
面白い状況に零が笑いをこらえながら、高杉の隣まで移動して背中をさすってやる。

「潰れるなんて珍しい」
「……潰れてねェ……、まだ飲めるが残りはおめーの分だ……、飲め……」
「一杯だけでいいよ。置いておくから、夜飲みな」
「ん」


高杉が顔を横に振り、顔を覗きこんでいた零の目をじっと見つめる。


「……なに?」
「……」
「……え、なに!?」
「……零」
「ん?」
「零」
「うん」
「俺に名前を呼ばれるのは今も嫌か」
「……もう嫌じゃないよ」
「……」
「えぇ……黙るなよ」


このまま眠りそうな高杉を心配しつつ、零は猪口に残っていた酒を飲もうと口をつける。
そして口に酒を全て含んだその瞬間、高杉は突然顔を上げた。


「俺と、若契を結ぶか」
「ブホッ!!ゴホッ、ゲホッゲホ!!」
「汚ェな」
「ばっ……!ばかやろッ、誰のせいで!げほっ!酔いすぎだぞ!?」
「そう思うなら酔っ払いの戯言だと聞き流せばいいだろう」
「あのなあ!」
「若契は、女と男じゃ結べねえ血と骨、魂の契約だ。心も身体も呪い、死んでも別つことは出来ない」
「呪い……」
「……齢十四のガキがそこまでの覚悟を出来ると思わなかったから、奴は……、土方は断ったんだろうよ。奴の肩を持つわけじゃァねえが、俺はそれを悪い判断だとは思わない」
「……」
「なんだその顔は。腑に落ちないか?」
「……落ちた。その話はもう終わったと思ってたから、びっくりしたんだよ……。いや、ていうか終わらせたの高杉の方だけどな!?なんだよ、結局気になってるんじゃねえーか!」
「興味ねえ」


高杉の身体が仰向けに倒れた。
そのまま寝るのかと顔を覗きこんできた零の頭を撫で、髪をいじる。
下から見上げる光景は悪いもんじゃないなと、高杉は静かに零と見つめあった。


「高杉」
「……ん」
「このまま寝るか?」
「……わからん」
「最初は警戒して俺より後に寝てたよなー」
「たまたまだ」


目蓋を閉じた高杉が、ふ、と微笑んだ。

零の手が、無意識に高杉の髪に触れる。


「……高杉も俺も、結局は“独り”がいいんだろうな……。死期を悟ったら、猫みたいにふらふらどこかに消えたりしてさ」
「おいおい、俺もか?」
「あれ、お前まさかイイ相手がいるのか?」
「吉原にな」
「床の話しじゃねーよ」


高杉の手が再び零の髪へとのびる。
指先に髪を絡めながら、吐息を一つ吐いた。


「明日は、何をするんだ」
「え」
「休戦中の俺たちなら、明日の約束くらいできるだろう。大層な誓いだてなんざしなくてもな」
「あの……だからさ」
「あ?」
「優しくすんなよ気持ち悪ィ……」
「ほう、それじゃあ“優しくしてくれ”と目で訴えかけるのをやめてくれねえか?」
「は!?してないし!!」
「……へえ」
「なんだよ!」
「いっ、てェ!はなせクソガキ!」
「うるせえ!禿げろ!」


明らかに悪酔いしている。
視界がゆらゆらと揺れて、身体が熱い。
目頭に勝手に涙が溜まって、指先だけが冷たくて、どうしようもなく目の前の男が愛しい。
高杉の上に馬乗りになった零が、鼻先が擦れるほどの距離でにっこりと笑った。


「子供と笑ってる高杉のことは、好きだなって思った。飯をたくさん食べる高杉のことも好きだ。明日も、美味しいご飯を食べよう」
「俺ァ、ガキも飯も嫌いなんだがな……不思議な話だ」
「はは、そうかもな」


脱力した零が高杉の上に倒れこむと、零の背に高杉の腕がまわされた。
衆道の話しをした後で意識をするなと言うほうが無理で、あわよくば口吸いのひとつでもしてやろうかと思ったが、信用問題に関わる。
まだまだ零と過ごす必要のある高杉が、揺れる理性と戦っているなんて、零はきっと永遠に知ることはないだろう。


「零……、良い名だ……」


眠ってしまった零の背をさすりながら、高杉もまた、いつのまにか眠りについた。


次に目覚めるのは数時間後、日が落ちて夜も更けた頃。
寺で花火をしようと子供たちが二人を誘いにくるまでだ。

長い夏のほんの数日、この数日は二人にとって一生忘れることのできない夏になる。
ささやかな約束をいつまでもいつまでも忘れられない呪いを、二人は確かにかけあった。




密かに起きている零が、高杉の独り言に微笑んだこともまた、誰も知ることは無い。
燻る想いは、夏を過ぎても燃え続ける。







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