土方/キスしないと出られない部屋
土方十四郎と北村零は『キスしないと出られない部屋』に入ってしまいました。
120分以内に実行してください。
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「ウッ……」
横たわった零が身じろぎながら小さく唸る。
隣で胡坐をかいている俺が頬を軽く抓れば、零の目蓋はうっすらと開かれた。
すやすや寝てる場合じゃねーぞ。
「……寝てました……?」
「ああ」
「……頭いてぇ……なんですか、この状況は……」
「さあな。気づいたらこのザマだ。おそらく、監禁されている」
「え!?背後から突然暴漢に襲われた俺を助けるために、偶然近くにいたオフの土方さんまでその男たちに敗れて連れ去られ、二人仲良く町外れの倉庫のようなところで監禁されてるっていうんですか?!」
「合ってるが誰に説明してんだよ」
「そんな……俺はともかく土方さんまで何やってんですか、かっこ悪……」
「てめえふざけんなよ。頭ブン殴られて鼻血垂らして倒れてたお前の方がかっこ悪いわ」
「いやぁ、いい天気だったもんでついぼーっと……あと、土方さん一人でどこで何してんのかなって気になって。オフの日までこうやって一緒にいられるなんて幸せです俺!」
「なんでこの状況でそんなポジティブ!?チッ、頭殴られて馬鹿が大馬鹿になりやがったか……。とにかく、ココから出る方法を考えるぞ」
「出るっつっても……暗くて周りがよく見えません。声の反響から考えるとそう広くはなさそうですけど」
零の言う通り、思ったより広くはない。
というか、かなり狭い。
こいつが眠っている間部屋を歩き回り脱出が出来ないか試みたが、窓はないし大きな鉄の扉はびくとも動かなかった。
天井に排気口なようなものはあるが、猫一匹通れるかどうか……とにかく、そこから脱出するなど到底無理な話だ。
コンクリートの壁に囲われて明かりもなく、得物も奪われ成す術はない。
一体何が目的でこんなところに閉じ込められているのかもわからず、ただただ苛々してしょうがねえ。
「煙草もねえし……くそ」
「開けろーーーー!!今なら半殺しで許してやるって土方副長が言ってるぞーーー!!!」
零が扉をガタガタと揺らしながら声をあげるが、そんなことでこの扉が開くならとっくの昔に開いている。
お前が寝ている間に俺はあらゆる手を尽くしたんだっての。
「……喚いても仕方ねえ。零、お前は怪我もしてるしじっと座ってろ。また鼻血出すぞ」
「でも土方さん……俺閉所と暗所が苦手なのでとっとと出たいです」
「わかってる。でもどうにもなんねーよ。ほら、手握っとけ」
お前の苦手なことを俺が知らないとでも思ったか。
だからなるべくお前が眠っている間になんとかしたかったんだ。
結果は、まあ、この通りだが。
俺の手をぎゅっと握る零の手は少し汗ばんでいて、俺の気持ちは焦る。
「こわいですね」
「こわかねえよ」
「こわいですよ」
「こわいと思うからだ」
「暗いなあ」
「暗いな」
「こわい」
「こわくない」
壁にもたれ座り込んだ俺たちの目には何も映らない。
連れ去られてどれくらい時間が経ったのかもわからない。
屯所の連中は俺たちを探してるだろうか?
探していたとして、ここが見つかるのはいつになるだろうか?
《ブワハハハ!ご機嫌如何かな、幕府の犬たち。ようやく二人揃ってお目覚めだな》
「「!?」」
ボイスチェンジャーを使っているような不気味な声が部屋に響き、反射的に俺は零の手を握りながら立ち上がった。
暗くてわからないが、部屋のどこかに監視カメラでも仕込んでやがったのか。
悪趣味なことをしやがって。
「オイ!俺たちが見えてるんだな!?ココから出せ!」
「あの土方さん手が痛いです」
「俺たちをここに閉じ込める理由はなんだ!」
「土方さんの手びちゃびちゃなんですけどびびってるんですか」
「うるっせェ!」
《ギャーギャーギャーギャーやかましいんだよ、発情期ですか犬ッコロ。出さねーなんて言ってねーだろーが殺すぞ》
「ちょっと土方さん!出してくれるみたいですよ!」
「チッ、どうせタダで出す気なんてねーよ。何が目的だ」
《いや〜話が早くていいね〜。条件はただ一つ》
ふん。
どうせ真選組を誘拐するなんて攘夷派のやること。
真選組の解散や近藤さんの首……それとも、俺の首でもお望みか。
《お前らキスしろ》
「キスですって、土方さん」
「ああ、キスしろってよ」
「……キス?」
「……は?」
「……えっ!?」
「……ん!?」
「「何言ってんだコノヤロー!!!!!」」
《だからキスしろって言ってんの。ブチューっと!さっさとしろやボケ。出たいんだろ?あァ?!》
「いやいやいやどーいう趣味の方!?俺とひっ、ひじ、ひひひひひっ、土方さんがキス!!??」
「ふざけんのもいい加減にしやがれ!!お前の目的は真選組を潰すことだろうが!」
《こっちはふざけてないしふざけてんのお前らだよね。真選組潰すって何の話?出してやるって言ってるのになんなの?するの?しないの?しないなら殺すけど》
「土方さん、こいつきっとサイコパスですよ。殺される前にさくっとキスしましょう」
「なんで鼻血出してんだよ」
「!?これはさっきの後遺症で決していやらしい気持ちで垂らしてるわけじゃないです!!信じて下さい!!本当に違いますからね!!頼みますよほんと」
《キース!キース!》
煽るんじゃねえええええーーー!!!
こいつまじでサイコパスだろ!
鬼の副長とも呼ばれる俺と、その補佐を捕まえてキスしろだあ!?
ご丁寧に所持品全てを奪い、こんな狭っくるしい所に監禁しておいてそりゃねーだろ。
よりにもよって異常性癖者に捕まっちまったのかよ俺たちは……!
《はい、じゃあ後3分以内にキスしないと毒ガス噴出させて殺しまーす!》
「毒ガス……!?」
「落ち着け零、はったりかもしれん」
「えぇ……!?」
《あと2分30秒だぞー》
「ど、どうしましょう」
ふざけたことしやがって。
キスしてココから脱出?
そんなもん今時ドラマでも見ねークサイ展開だ。
いや、そのクサイ展開を見たい愉快犯なのか?
こいつとキス……?零と……、いやいやいやいや!
してたまるかっての!
ダメだダメだ!
「うおおおぉおお開けーー!!!」
扉を蹴りまくる零もきっとどうしていいのかわからないんだと思う。
そりゃそうだ、こんな状況理解に苦しむ。
「土方さんんん俺こんなところで死にたくないですよおおおおお暖かい陽だまりの中で死にたいです!!!」
「俺だってこんなとこで死ぬなんて御免だ!」
「じゃあキスしましょうよ!!」
「だからハッタリだって言ってんだ!!」
「はったりじゃなかったら俺もあなたも死ぬかもしれないんですよ!こんなジメジメしたところで!まぬけに!無様に!」
「うっ……」
《はいあと1分でーす》
「だが俺はお前と、そんな……」
「お、俺だって……こんな愉快犯のおもちゃにされるくらいなら死んだほうがマシですけど……」
おい。
おいおいおいおいおい、なんだその反応は。
やめろその顔!
やめろその態度!
お前が俺を好いてくれているのはよーっくわかってんだよ。
だから!だからこそだ!
こんなふざけた場面で!お前に……!お前と……!!
「土方さん……」
キスなんかできるわけねえだろうがアアアァァァアアアッ!!!!!
「俺とキスすることが屈辱的ならば!俺が無理やりあなたにキスしたことにしましょう!それならあなたに傷はつきません!ね!時間がもうありません、早く覚悟して下さい土方さん……!」
「ま、待て零!はやまるな!別にそんなくだらねーことを気にしてるわけじゃ……!!」
《残念、時間切れ〜〜〜!じゃ、天国でも仲良くね。お二人サン》
「なっ……!?零!!伏せろ!!」
排気口から妙な匂いの煙が送り込まれ、すかさず頭を低くし床を這う。
こんなの少しの時間稼ぎにしかならない。
クソ、本当に俺たちを殺す気か!?
「ど、どうしよう、土方さんっ、どうしよう!!」
「くっ……」
《今からはボーナスタイムだぞー生きてるうちにキスすりゃ、助けてやるぞー》
心底むかつくヤローだぜ……。
どこで俺たちを見ているのか知らねーが、悪趣味にも程がある。
「気分悪くなってきた……」
「俺もだ、どうやら本気らしいな」
「うぅ……っ……」
「零ッ」
脱力していく零を抱えながら蹲り、出来るだけこいつが怪しい煙を吸わないように抱え込む。
無駄な抵抗かもしれないが、零を守るにはこれくらいしか……。
違う。
違うだろう。
手段はある。
「……まじでかよ……」
腕の中にいる零を見れば、眉間にシワを寄せながら目を瞑っている。
端整な顔を歪ませて苦痛に耐えているこいつを守れるのは、どこの誰でもなくこの俺だ。
ぐっと顔を近づければ、無意識に身体を抱く手に力がこもる。
「よく見ておけよボンクラアアアァアアアーーーーーーーー!!!!」
いや、ボンクラは俺か?
零とは十年近く連れ添ってきたが、こんな近い距離でこいつの顔を見るのは初めてだ。
といっても、暗闇でぼんやりとしかわからないが。
お前はいつか好いた女に、この柔らかい唇で甘ったるいセリフを囁くのか?
俺に吸い付かれた唇で、お前は、お前は、お前は、
「ッ……!!零!!!オイ!!しっかりしろ!零!!」
クッソ!!余計なことを考えるな!
零、頼む、なんだっていい、何か言え!
悪態をつけ!怒れ!泣いたっていい!なんでもいいから起きろ!
「零……!」
額ににじんでいる汗をすっと拭ったとき。
背後から重い扉の動く音がした。
零を抱えながらすぐに振り向けば、街頭に照らされ逆光になっている人物の陰が二つ目に入る。
体格からしてどちらも男か。
なるほど、お前らが俺たちを弄んでいたんだな……。
新鮮な空気を吸わせてやろうと零を両腕に抱えながらゆっくり出口に近づけば、男達も一歩こちらへ近づいた。
ん?
「いや〜アツアツですな〜」
「どーせキスするくせにモタモタしやがって。アンタもしかして童貞ですかィ」
「プププ。まあ言ってやんなよ総一郎くん。案外奥手なんじゃないの〜?」
「総悟ですぜィ旦那」
ふてぶてしい天然パーマと黒い笑みを浮かべた栗毛。
俺はこいつらをよーーーーーーーーーーっく知っている。
「……なんでお前らがここにいる……」
「土方さん誕生日でしょィ。だからサプライズをと思いやしてねィ」
「俺の誕生日はとっくに終わってるぞ」
「あれ?そうでしたっけ。まーどーでもいいや。で、どーでした?アンタ、零とのことで悩んでる様子でしたけど、キスできたじゃねーですかィ」
「てめぇ……俺と零をなんだと思ってやがる!」
「俺はいつだって零の味方ですぜィ。変に避けてやるのはやめてくれや、今ので気づいたでしょィ。あんたがどれだけ零を大事にしてるか。その気持ち、ちゃんと零に態度で示して欲しいんでさァ」
「そうだぞ土方くん。俺も総二郎くんの意見に賛成だ。お前が幸せにできねーなら俺が零くんを万事屋に永久就職させる。な、総二郎くん」
「総悟ですぜィ」
何を馬鹿なことを……。
ん?じゃあこいつらはなんだ?俺と零を思ってこんなことをしたってのか!?
つーか零と俺をぶん殴ったのはお前ら!?
それなのにお互いを大事にしろとか説教垂れてんのか!?
お前らは俺たちを大事にしろよ畜生、なんだよこのドSコンビ……SはサイコパスのSだろ。
「……う」
「零!大丈夫か?」
「……きもちわる……」
「お前ら、一体何を嗅がせやがった」
「え、聞く?生ゴミと猫のウン「わかったもういい黙れ」」
「さ、土方さん。とっとと屯所に戻って交際宣言してくれや」
「ちゃんと俺たちが恋のキューピッドだって言えよ。あと、謝礼はこの口座に三日以内に振り込め、いいな」
「……」
「ずりーや旦那。俺にも半分わけてくだせェ」
「あ?渡すわけねーだろボケ」
「……お前ら……」
「なんだよ」
「なんですかィ土方さん」
「ここで頭冷やしてろ!!!!!」
馬鹿二人を倉庫へ蹴り飛ばし、扉を閉めてやった。
ちったァそこで頭冷やせ。
おうおう、扉を叩いてる叩いてる。
安心しろ。
俺はお前らにキスをしろだの馬鹿なことは言わねーよ、1時間もしたら山崎に開けさせらァ。
さて、腕の中で意識が戻りつつある零になんて説明しようか。
「……土方さんの唇ってめっちゃ柔らかいんですね」
「起きてたのかよ……」
あーあ。
煩わしくてしょうがねえ。
愛だの、恋だの。
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