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総悟/人の話はちゃんと聞け



「ふぇっ……!!ふぁ、っくしょい!!」
「オイオイ、うつすなよォ」
「五月蝿いな……お前は俺より馬鹿だから風邪なんてひかねーよ」
「こんな病原菌と一緒にいるってだけで気分がワリィや」
「テメェ……ってオイ!その資料はこっちの棚!間違えるなよ」
「チクショー。めんどくせぇなァ」


真選組屯所の最奥にある分厚い壁に囲まれた特別資料室。
そこでぶつくさと文句を垂れながら作業をするのは北村零と沖田総悟だった。

この部屋で保管されている資料は様々だ。
真選組に所属している隊士達の個人情報や戦果報告書、武器についての資料など、この部屋には真選組の機密が集まる。
その為、この部屋に入室できる人間は限られていて、そうなると必然的に作業が出来る人間も限られてくるわけで。
今日は一番隊隊長である総悟と、彼一人では不安だと感じた土方の意向により零が手伝うことになった。


「よし、総悟。この山で終わりだ」
「よっしゃ、後は頼んまさァ」
「ゴホゴホ!!ゲホ!!うぉぇッ」
「てンめ!!わざとこっちに向かって咳きしてんだろィ」
「ゴッフォ!!ゲフォ!!うるせェ!!風邪なんだよ!!ゲホ!!死ぬッ!!ゴホ、ゲホッ」
「……オイ、手に持ってるの全部こっちに渡せ。あっちの棚に行ってくらァ」
「総ちゃん……大好き……ゴフッ……」
「おう、感謝しろ。もっと感謝しろ。一生感謝し続けろ」


およそ一時間程地味な書類整理を行っているが、ようやく終りが見えてきた。
風邪をひいたせいでずっと眉間に皺をよせて苛々していた零だったが、やっと部屋で休めると思うと自然と表情も和らぐ。

最後の資料を片付け終えた総悟が零の背中を小突くと、反射的に零も総悟を小突いてじゃれる。


「出るかィ」
「うん、そろそろ飯の時間だしこのまま食堂に……あれ?」
「さっさと開けろィ」
「ん……あれ?は?あれ!?」
「オイオイ、ドアの開け方もわかんねェのかィ」
「そんなわけないだろ!ドアくらい開けられ……開け……」



ドアが、開かない。



ガチャガチャとドアノブを回して押しても引いても扉がビクともしないのだ。
コチラ側から鍵がかかっているわけではないし、入室時、向こう側になにか障害物があったわけでもない。
悪戦苦闘する零に代わって総悟が同じように扉と戦うが、やはり開く気配はない。


「……総悟……どうだ……?」
「お前、俺と一緒にいたくて何か小細工したんか」
「土方さんならともかく、なんでお前なんかの為にそんなことしないとダメなんだよ。1秒でもはやくここから出たいんですけど」
「土方土方ってうるせェなァ。扉が開かねーって土方に連絡しろ」
「お、そうだな。電話してみるよ」


そうそう、その手があった。
何も慌てる必要はない。

ポケットから携帯電話を取り出して、着信履歴の一番上にいる『土方さん』を選択して発信……できない。
画面の左上に表示されている“圏外”という表示に零がわなわなと震える。

そうだ、ここが『特別資料室』ということを忘れていた。
真選組の核とも言えるこの場所の作りは特殊で、情報漏洩防止の為あらゆる電子機器の電波は遮断されている。
防火対策の為壁の厚さや頑丈さは他の部屋と比べ3倍はあり、もちろん扉も分厚く頑丈の為蹴破ることは不可能だ。

察した総悟が汗を流す零を無表情で見つめる。


「ついてねェ」
「なんだその目!?ゴミを見るような目をやめろ!」
「コノヤロー、なんだこの扉!開けってんだ、憎たらしい。俺ァ今日の晩飯のカレイの煮つけを楽しみにしてたんでィ。こんな病原菌とクセー空気吸ってられっか」
「はっ、くしゅん!!お前に俺の苦しみが全部うつればいいのに……」


ドアノブを回しながら扉に殴る蹴るを繰り返す総悟の後ろでは、零がくしゃみや咳きを繰り返しながら見守っていた。
総悟はここぞというときには本気を出す男だ、もしかしたらこの分厚い扉もこじ開けてしまうかもしれない。



「悪い、とれた」



「お前なにしてくれてんのオォ!?とれた、じゃねーよ!なんでとったんだよ!!直せ!今すぐそのドアノブ直せよ!」
「馬鹿を言うんじゃねーよィ零ちゃん。俺ァドアノブ外せても付け方なんてわかんねーよ」
「もうお前はなにも触るな!!クソ!どーすんだよコレ。ドアノブは外れたし、大声を出したところで外には聞こえない……」
「こりゃ誰かが来るのを待つしかねーな」
「誰かって……こんな時間に誰が来るんだよ」
「此処へ来て一時間。夕食までに片付けろって言ったのは土方のクソ野郎だ。食堂に俺達が顔を出してなきゃ様子ぐらい見に来るだろィ。俺だけならともかく、オメーまでいるんだからよォ」
「それもそうか。じゃあ土方さんを……待てよ?土方さんは松平のとっつぁんと飲みだ……」



「「……」」



「誰か助けてエエエエ!!!オオオオーーーイ!!ゴホ!ゴホゴホ!」
「オイオイ、暴れんなよ。ゲロでも吐かれちゃかなわねーぜィ」
「ウルッセエエーーー!!お前、このままじゃずっと気づかれないぞ!!」
「まぁまぁ、寝て待ってろや」
「あのなあ……!」


床にごろんと寝転がった総悟は、呑気に目を閉じて本当に眠るような体勢に移行している。
そりゃお前はいいだろうと零は思った。
一番隊は主に現場での活動を主にしている為、屯所で行う仕事は他の隊より少ない。
しかし、副長補佐として働く零はその逆だ。
現場にいく隊士たちに代わって書類を作成したり、もちろん副長の補佐全般を行う為なにかと仕事が多い。
しかも最近風邪をひいてずっと体調が悪く、思うように仕事が捗っていないし一分一秒でも此処から脱出したいのだ。


「うう、寒い……」


まずい、熱が上がってる。
眩暈もしてきて立ってるのが辛い。

零が蹲って壁にもたれていると、総悟が自分の上着を脱いでコレを羽織れと肩にかけてやった。
その行動が総悟以外のものなら素直に受け取ることが出来たが、総悟からとなるとなにか企みを感じてしょうがない。


「この恩は100倍にして返せよ」


ほら、やっぱり。と零は思ったが、上着を貸してもらえるのはありがたい。
総悟が零の隣に座りなおすと、零は総悟の肩に頭を預けた。


「200倍な」
「はいはい……あぁーー……頭いてェ……」
「どーっすっかねィ」
「さあ、どうしたらいいかねぇ……ゴホ……」


だるそうに身体を預けてきた零へ、総悟がそっと視線を配らせる。


総悟と零は、真選組以前からの長い付き合いだ。
家が近所で寺子屋も一緒。
同じ道場で稽古を受け、今では互いの背中をまもることさえある。
友であり、好敵手であり、多分、家族でもあって、なんというか、今の状況が互いにくすぐったい。


「総ちゃんってさ」
「あァん?」
「俺には優しいよな」
「無駄口叩く元気があんならあの扉なんとかしやがれ」
「ハハハ……そりゃァ……、きっついわ……」


総悟の肩にもたれていた零が、ズルズルと総悟の胡坐の中へ倒れた。
思わず総悟が零の額に手をやると、冷たい手が気持ちよかったのか猫のように擦り寄ってくる。


「オイオイ、大丈夫かィ」
「救急車呼んでくれ……」
「こっから出んのが先でィ」


零の言う通り、確かに総悟は彼に対して周囲と違う態度をとる。

数少ない友人の一人だから。
北村零の境遇に同情しているから。
姉が彼を大切に見守り続けていたから。
理由はたくさんあるが、どれも正解のようで正解ではない気がする。

というか、どうしてかなんて忘れてしまった。

零を床に寝かせ、立ち上がった総悟は扉へむかう。
開かずの扉を前にして総悟は抜刀して、大きく振り上げたその時、扉が開いた。



「なにやってんだおめーら」



扉の向こうには呆れ顔の土方がいて、総悟が刀を振り上げたまま眉をピクリと動かす。
嫌な予感がした土方は瞬時に一歩後ろへ下がると間一髪で総悟が振り下ろした刃を避けた。


「ッぶねーーー!!!なにしやがる!!」
「チッ……すいやせん、急に現われたから反射的に」
「お前が常々俺を殺そうとしてることは改めてわかったぜ。……はぁ、お前らもとっつぁんの所に連れて行こうと思って待ってたのによ、いつまでも来ねーから様子を見にきたら……何してやがった?」
「あ?俺らはちゃんと真面目にやってやしたよ。終わったから外に出ようとしたら扉が壊れて出れなくなってたんでさァ」
「扉……?ああああーーーー!?ドアノブがねーじゃねーか!!壊したのか!?」
「取れやした」
「取れやした、じゃねーよクソバカ!いいか、ここの扉は内側からだと開けづれーんだ。コツは時計回りに半周回して、ゆっくり引く。零には言った筈だぞ」
「……零に?」
「あぁ。というか、零はどこだ」
「……熱がありやしてねェ……横にして寝かせてやったんだが残念だ……今から永遠の眠りについてもらいやす」


呑気にすやすやと眠ろうとしている零に総悟の影がかかる。
それに気づいた零がパチリと目を開けると、明らかに怒っている総悟が目の前にいた。


「零ちゃんよォ……土方に扉をあけるコツを教えてもらってたらしいじゃねェかィ」
「……コツ…………はっ……時計回りに……」
「今思い出しても遅ェ」
「ギャー!!人殺し!!土方さん助けてエエェ!!ゴホゴホ!げほごほ」



「はぁ……勝手にやってろ……」



薄情だの助けてだの、お前のせいだだの、聞こえてくる総悟と零の声にただただ呆れ、土方はすたすたと去っていった。




*



「は……っ!ふぁっ、ハーーーックショイ!!土方死ねコノヤローーー!!」
「おい、物騒なくしゃみすんな」
「なんで土方さんが此処にいるんですかィ、凶悪な風邪菌をうつしやすぜィ」
「お前が溜め込んでやがった始末書をとりに来ただけだ。大人しく寝てろ」



土方が机や畳に散乱している紙を拾い集めていると、盆に小さな鍋と小皿や蓮華を乗せた零が足で障子を開けて入室してきた。
まさか総悟の部屋にいると思わなかった土方に笑顔で挨拶をし、総悟の横に腰を下ろし盆を置く。



「よぉ、総悟。大丈夫か」
「誰のせいだと思ってんでィ……俺に移してピンピンしくさりやがって……むかつく野郎だな……」
「ごめんってば……あの日は本当にいっぱいいっぱいで……ほら、おかゆ作ってきてやったぞ」
「たまごは……」
「入ってる入ってる。ミツバさんに教わったおかゆだぞ、食ったら絶対に良くなる。ほら、起きろって」



なんとなく、土方が二人のやりとりをぼうっと眺めていた。
この二人だけはずっと武州から変わっていないと安心するが、少し妬いてしまうというか。



「総ちゃん、ほら、あーーんっ」
「あーーん」
「お前らめちゃくちゃ仲良いじゃねーか」


零の手からおかゆを貰い、もぐもぐと租借する総悟が零と視線をかよわせる。
そして同時に口を開いた。




「「 どこが 」」






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