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超短編
暗黒の君主と従者
「やめて、やめてよぉっ!!」

私は逃げることが出来ず、膝を屈めて頭を守ろうとする。


「此処は人間の村だ!化け物が住むような場所じゃねーんだよ!」

「化け物は死んじまえー!」

私を取り囲む同年齢くらいの子供達は私の声にむしろ愉快そうな表情を作り、石を更に投げ続けた。


痛い
痛い
痛い


どうして私はこんな奴等に、身を守ろうとするのだろう。
この手足に巻き付く鎖がなければ、簡単に殺せるのに。


ドウシテ私ガ傷ツカナイトイケナイノ?


子供達は相も変わらず次々と石を拾っては私にそれを投げつけようとする。
が、



ドドォーン



「うわぁっ!」

その地響きで、何人かの子供が倒れた。

「な、何だよ……あれ………」

姿勢を崩したが、何とか座り込まずに踏ん張った子供は東の方角を指差して、ただ茫然としている。
私はその子供が示す先を目で追った。


そこでは黒い煙と共に、黒い炎が村を焼き付くしていた。


「あ、あっちは軍隊達がいるんだろ!?」

「じゃあ……やられたのか!?」

すると、子供達が一斉に私を睨み付けてきた。
やめて、その目にこの醜い私を映さないで―――

その子供の黒い瞳に、無防備に伸びた髪の毛から片目だけを覗かせる自分が映った。
とても、汚らわしい。

「私……は………」

額に石がぶつかり、そこから血が流れ出す。

「お前のせいだ!化け物がいるから、こんなことになったんだ!」

「化け物は死ねよ!俺達の村を返せ―――ッ!!」

さっきから石が何度も顔にぶつかっている。
でも痛みは感じない。
だって自分はもう、こんなにも醜いのだから。

救いなんかいらない、もう幾等絶望を見ようが構わない。

だってこの姿は、そうなるにふさわしい姿なのだから。


「あはは……あははははは!!!」




―――――


「……いつまでそうして笑うつもりだ?」


私はその声で我に返った。
そして辺りを見渡すと、さっき……いやさっきなのだろうか。私に怒り狂った顔で石を投げた子供が全員死んでいる。
でもその体は黒ずんでいて、死体であるとは分かりにくく酷い有り様だった。

「……私も、殺してくれますか?」

とっさに、私は目の前に立つ青年に訊いた。とはいっても、外見からすればまだ大人とはいえないものである。
青年は柘榴(ザクロ)のような紅い両目で私を見下すようにしながら静かに口を開いた。

「俺は自殺志願者の望みを叶えてやる『悪魔』じゃねェよ」

『悪魔』という言葉に、私は魅力を覚えた。
微妙に紅色の混じる黒い前髪が目元まで伸びていて、それに少し遮られたその目が何か畏怖させる大きなものを秘めているように思えた。

私は正座をすると両手を地面に付け、彼に向かって頭を下げた。
私はこの人に、完全に心を奪われていた。
この村を側にある軍隊の基地ごと呆気なく焼失させ、植物や動物―――あらゆる生き物を死に絶えさせた、まさに『悪魔』という言葉が似合う細身の青年に。

「私を、貴方に従わせて下さい」

彼がどんな表情をしたのかは分からない。もしかしたら特に表情は変わらなかったのかもしれない。
だが彼の足が動き、私に背を向けて歩き始めたのは分かった。

「俺の役に立つ『駒』になれるなら付いてこい」




――――

見返りは求めない。
求めるものがあるとすれば、それは貴方様の心ぐらいだろうか。


「王(マスター)、命令通りにこの国を滅ぼしてきました」

「………………」

「………王?」

「………奴が現れた。次は精神を打ち砕いてから全て、跡形もなく消す……」

だが今となって私が絶対的な存在であると思ったこの方に、立ち塞がる奴が現れた。
この方の野望はただ一度、奴によって阻まれた。

ウチも奴に、一度右目を使えなくさせられた。
あの方と似たような威圧感、しかし彼に悪魔という言葉は似合わない。
かといって、天使でもない―――ただ悪魔を狩る、即ち浄化させる者であった。

浄化はさせてはいけない、愛する人が消えてしまうから。
いつしかウチは、この方を拒絶するヒカリが嫌いになっていた。
完全に暗黒に身を投じた者こそ、魅力的で見えぬ所に美しい刺(トゲ)を潜ませているのだ。

「全てを……この闇に、跡形もなく消しましょう」

そう、この愛する何処までも深く、真っ暗な闇―――ウチのただ一人の君主様に。


『暗黒の君主と従者』

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