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はるなLong
22
 
 
あの日から今日で1週間が経つ。その間、相澤がオレのことをチラチラと気にかけているのにはなんとなく気付いていたが、それが今のオレには果てしなく虚しい。
フった罪悪感から気にかけているのか、はたまたそれ以外の何かなのか。一瞬、頭の中に都合のいい考えが浮かんだけれどそれはすぐにかき消される。1週間前にハッキリと「友だちとしか思えない」と、目の前で言われたのだから、有り得ない。
そんなことを教科書に並ぶ数字を無視して考えていると、あっという間に時は過ぎ、辺りに休み時間を告げるチャイムが鳴り響いた。とにかく教室を出ようと席を立った瞬間、相澤の名前が呼ばれるのが聞こえて反射的に声がした方を見てしまった。そこには、いつぞやも同じように彼女の名前を呼んでいた男の姿。相澤は軽く返事をしてソイツに近寄って行き、大量のプリントを受け取ったあとに、ニッコリ笑って何かを話し始めた。久しぶりに彼女の笑顔を見て、オレは今度こそどうしようもなく虚しくなって逃げるように教室を後にした。





いつも通りエナメルを肩に担いで部室に向かう途中の廊下で、背後から声を掛けられた。いつもでは起こり得ないことに少々の面倒臭さを感じつつ振り返ると、そこにはやたら怖い顔をした飯沼が廊下のど真ん中に立っていた。


「ンだよ。」

「今日ね、優が昼休み話してた人、ただの文化委員の先輩だから。」

「は、」

「ああ、でも向こうは結構その気あると思うんだ。」


何が言いたいんだよ。
十分、凄んで言ったハズなのに飯沼は全く怯む様子もなく勝手に話を進めて行く。


「もう一人の文化委員は役に立たないしさ。」

「………。」

「あの子があの先輩と付き合っちゃうのも時間の問題かもね。」

「………。」

「あ、でももう一人の委員のヤツがそれをバッチリ阻止してくれたらなんの問題もないんだけど。」


そう言って軽く笑った飯沼の顔を見て、オレの凄みが全く効いていないことを悟る。この女、本当に苦手なタイプだ。このまま、無視してクラブに行ってしまおうか。
しかし、さっきから何遍もコイツの口から出て来る『もう1人の文化委員』の存在がオレの足を止める。そう、実はオレも気になっていたのだ。委員はクラスから2人ずつ、と決まっているから相澤の他にもう1人いるハズだ。なのに、今までソイツの姿を見たことが1度もない。


「まだ、分かんないの。」

「は?」

「もう一人が、誰か。」

「ちょっと待てよ、今の文脈で分かるヤツがいるわけ」


ないだろ。
そう続くハズだったオレの言葉は飯沼の吃驚するぐらいの大きな声に阻まれた。


「榛名だよ!もう一人の文化委員は!」


予想外な名前が挙がったからか、はたまた予想外な大声を飯沼が出したからか。一瞬頭の中が真っ白になった。もう一人、文化委員、オレ…?朧気な記憶の引き出しをこじ開ける。ああ、そういえば委員を決める時、オレ寝てた気がする。だから、何も覚えてないのか。


「アンタが大会で忙しいからってあの子ずっと一人で委員してたのよ。」


今までずっと任せっきりだったんだから、ちょっとは委員の仕事手伝ってやんなさい。
普段のことなかれ主義の飯沼からは全く想像できない声量と剣幕で怒鳴られた。


「今、委員の仕事で優は教室に残ってるから。早く行きなさいよ。」


眼下からものすごい剣幕で睨まれたが、オレの足は動かない。オレがアイツの元に行ったって気を使わせてしまうだけなんじゃないのか、そんな思いがオレの足を止める。一向に教室に向かう気配がないのを見兼ねてか、飯沼は深くため息をついてオレの横を通り過ぎて行った。


「アンタ、バカだバカだとは思ってたけど本当にバカなんじゃない。」


あの子が榛名のことを友だちとしてしか思ってないわけないでしょ、この鈍チン!


そう背後から言葉を投げ付けて飯沼は玄関の方へと走って行ってしまった。カンカンカン、背後から飯沼の足音が遠ざかって行くのが聞こえる。それが全く聞こえなくなったのと、ほぼ同時にオレは全速力で走り出した。




Commediadell'Arte22




目指すは君のいる、いつもの教室。



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(0817) 友人カッコ良過ぎ
 
 



あきゅろす。
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