栄口Long 05 「はよ」 「もうおはようって時間じゃないよ」 「はは、確かに」 いつもとなんら変わりない挨拶。ただ、いつもと違うのは今が昼休みであるということと、栄口が制服みたいな格好をしているということ。 「午前の分のノート見る?」 「うん、写させて」 4限分のノートをごっそり手渡すと、栄口は「ありがとう」の言葉にいつもどおりの笑顔を添えてそれを受け取った。本当にいつもとなんら変わらない。 カリカリカリ。まわりは昼休みの喧騒に包まれて騒がしいはずなのに、ノートとシャーペンの芯がこすれる音が嫌に鼓膜を揺らした。 「今日、さ」 「うん?」 「なんで、遅れてきたの?」 カリカリ、カタン。音が止まった。 さっきまで下を向いていた栄口の顔がゆっくりと起き上がって、互いの視線が絡み合う。 「母さんの、」 「………。」 「母さんの命日だったんだ」 わたしは卑怯だ。彼の口から次に出てくる言葉を知っていたのに。 20080920 |