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攘夷
05
まだあまり覚醒してない意識のまま食堂の方へ向かうと何やら騒がしかった。まあこの男所帯が騒がしいのはいつものことなので、あまり気にせず食堂の入り口にかかっている暖簾をくぐると視界に入ってきた光景に絶句した。


「…何やってんの」
「おお、やっと来ゆうがか!遅いぞ、銀時!」
「いや、じゃなくて。あれ、何やってんの」


食堂の中央では刀を携えた高杉と女が睨み合っていた。…と、いうより高杉が一方的に睨んでいる、という表現の方が正しいかもしれない。辺りには倒された机が散乱していた。


「高杉が奈津につっかかって行きよったんじゃ」
「ヅラは?アイツがいたら止めるだろ」
「知らんがまだ見ちょらんな」


面白そうなことになってきたわ〜、と隣で笑っているバカから再び視線を中央に戻す。奈津。それが女の名前らしい。初めて知った。


「で?高杉は何が気に入らねぇって?」
「さあ?ヤツの考えることはよく分からんきに」


おめーは何も考えてねーのが丸分かりだ。と、内心思ったが口には出さずに胸の内にしまっといた。
高杉の気に入らなかったことはなんとなく想像がつく。元より仲間意識の強いヤツのことだ。大方、新米が入ってきたことが(加えてそれが女であることが)気に食わなかったんだろう。
気に食わない、まではいかないがオレだってあまり手放しに賛成は出来ない。オレたちがいるのは明日の命さえも保障出来ない、戦場の真っ直中なのだ。そんな中に、虫も殺したことのなさそうな少女が入るのを喜ぶヤツがいたらお目にかかりたい。間違なく変態だ。


「お望みでしたらお相手しますけど」
「あ?」
「あたし、強いですよ?」


そう言って女は自身が持っていた刀の柄に手をかけた。チャキ、と独特な金属音がなる。「…おもしれぇ」高杉も笑いながら刀の柄に手をかけた。騒がしかった食堂が静まり返り、異様な空気が包んだ。


「ハーイ、そこまでぇー」


パンパンと手を叩く渇いた音とともにもう1人のバカが現れた。なんだよ、その登場の仕方。ていうか来んのおせェーよ。


「仲間にケンカ売るなんてどういう了見だ、高杉」
「オレぁこいつなんざ仲間と認めちゃいねぇよ」
「桂さん、こいつシメちゃっていいですか」
「奈津、お前もお前だ。高杉の安い挑発にのるんじゃない」
「んだと、誰が安い挑発だコルァ。オメェの方が安い長髪してんじゃねぇかアアン?」
「全然うまくないですから。桂さん、マジでこいつシメましょうか」
「こらこら、女の子がそんな言葉使っちゃいけません!」


バカ(パートU)が入ってきたことによって場の緊張は解けたものの、余計面倒臭いことになった。隣に座るバカ(パートT)は頭に手を置いて笑ってるし、周りのヤツらも野次を飛ばしつつ楽しんでいるらしい。なんだ、ここはバカばっかりか。


「とにかく、オレァお前なんざ認めねーからな」
「あたしもあなた嫌いです」


舌打ちを残して食堂を去った高杉に向かって、べーっと頬を引っ張りながら舌を出す女は、そこらにいる年ごろの娘となんら変わりはなかった。だから、余計に彼女が戦場に足を踏み入れることがオレには想像もつかなかったんだ、・・・その時は。



090707






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