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恋に気付かない彼
 
 
クラブが始まって、数分。さっきまで、オレに向かってボールを投げていた榛名が急に投げるのをやめて近寄ってきた。なに、オレなんかしたっけ?それとも、どこか痛めた?そんなオレの心配をよそに彼は口を開いた。


「秋丸、アイツは?」

「へ?」

「山田。今日、来てねーじゃん。お前、クラス一緒なんだろ?」

「ああ、山田さんなら風邪で休みだって。」


そう告げるとふーん、と興味なさそうな返事が返ってきた。榛名が他人のことを気にするなんて珍しい。それから、再び彼は何事もなかったかの様に、数m先に離れていってボールを投げ始めた。





そんなことがあってから2日経った今日。山田さんはまだ学校に来ない。


「おい、秋丸。」

「なに。」

「………なんでもねぇ。」


なぜだか分からないけど、榛名の機嫌はすこぶる悪い。なにか訊こうとしては止め、また訊こうとしての繰り返しだ。なにか言いたいことがあるんならはっきりと訊けばいいのに、変なところで意地っ張りなのが榛名の悪いところだと思う。そのせいなのか、そうでないのか、今日の榛名の出来はひどかった。


帰り道、あいかわらず榛名の機嫌はまだ悪い。一緒にいるオレがなにか悪いことした気になってくるからやめてほしい、そう彼に伝えようとした瞬間、前方に見知った人影が。向こうもこちらに気付いたのか小走りで寄ってきて、よ、と言って手を挙げた。


「山田さん、出歩いてて大丈夫なの?」

「うんー、今病院いったついでに買い物してきたところー。」


今日の晩ご飯はカレーなんだよー、そう言って右手に持ったスーパーの袋を見せてきた。なるほどなかなか重たそうな袋を持っている(そういえば、大家族だって言ってたな。)。オレが言うよりも早く、さっきまで一言も話さなかった榛名がソレ持ってやるよ、と言って手を差し出していた。別にいいよ、と拒否した彼女の言葉を無視して榛名はムリヤリ袋をひったくった。


「お前、明日は来れんの?」

「うん、明日は行けると思うよ。」

「ならいい。」

「? なにが?」

「なんか分かんねーけど、お前がいねーと調子でねー。」


そう言って榛名は右手に持った大きなスーパーの袋を揺らしながら、一人ズンズン歩き出した。呆然としたオレに山田さんは、今榛名なんて言ったの?と訊いてきたから、もはやため息しか出ない。




恋に気付かない彼(榛名元希)




(アイツがいねーと調子でねーとか、俺どっかおかしいのかな。)
(榛名、早口でなんて言ったのかよく分かんなかったな。)



この2人がくっつくのは当分先のことになりそうだ。



080417 稲葉

一度はやってみたかった第三者視点^^
 
 


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