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月光少年
 
公園のブランコに座りながら、空を見上げると、雲に覆われた月の光ががぼうと浮かび上がっていた。これが“朧月夜”なんていうのかなあ、と古典の授業で教師がやたら強調していた言葉を思い浮かべる。


「お前、何してんの。」


頭上から聞き覚えのある声がしたので、顔をあげてみると、私の視線の先には自転車を片手で支えて立っている泉がいた。


「別に。」
「もう10時前だぞ。」


早く帰らないと親が心配すんじゃねぇの、と言われたのにそうかもね、と軽い調子で返すと彼は黙って自転車のスタンドを立てて、私の隣りのブランコに腰掛けた。辺りにはギイギイと、錆びた鉄の擦れ合う音が響く。まるで、私と泉の重さに堪えきれなくて悲鳴をあげているみたいだ。


「ね、泉。」
「なに、」
「本気で人を好きになったことある?」
「………。」


あたし、今度の人はホントに本気で好きだったのになあ。少し自嘲気味にそう呟くと「そっか、」とだけ泉は言って、その後はお互い何も語ることはなかった。私があの人のことを好きで、あの人も私のことを好きになる。そんな簡単なことなのに、なんでこんなに難しいんだろう。そんな誰に宛てたわけでもない私の独り言を泉は律義にもひろって言葉を返してくれた。


「人間どうしだからだろ。」
「………。」
「人間だから、思いが通じ合わなかったり、それが悲しいって思ったりするんだろ」


それに、人間だから悲しい時に泣いたりもするんだぞ。そう言ってジッと私を見てきた彼の背後では、大きくて真ん丸な月が世界を柔らかく照らしていた。気付けば私の眼からは涙がこぼれ落ちていて、それはスカートに小さな染みを作っていく。ああ、今日は満月だったんだなあ。



月光少年


(彼の優しさはまるで月の光みたいに柔らかくて、心地いい。)



TITLE by LUNKHEAD


(0606) 稲葉





あきゅろす。
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