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真夏日 (ミスブチャ)
おかしい。こんなのは、絶対におかしい。
ある暑い日、俺は体の中の熱に悩まされていた。
それは夏の暑さのせいでも風邪を引いているわけでも、ましてや新手のスタンド攻撃でもない。
生物が元々持つ本能的な熱ではあるが、でもなぜ、こんな時に、と俺は考え込んでいた。
体が妙な熱を持つせいで、目の前の仕事には集中できない。
じっとしていることができなくて、妙にそわそわと落ち着きがない。
そんな俺の姿に気付いたフーゴは、自分の仕事の手を止め、俺に近づいた。
「どうかしたんですか、ブチャラティ?」
「っ!?・・・・いや、なんでもない」
俺はフーゴが近づいてくることに気付かず、突然声をかけられて驚いたが、すぐにいつものように笑ってみせた。
フーゴはどこか腑に落ちないような顔をしながら、
「・・・そうですか。・・なら、いいんですけど」
と言って自分の仕事に戻ろうとした。
その時、ドアノブがガチャと回った。
「悪ぃフーゴ。お前に頼まれてた本、見つからなかった」
結構探したんだけどよぉ、と言いながら扉から姿を見せたのは、皆に買い物を頼まれてでかけていたミスタ。
片手で大きな紙袋を持ちながら、「あっちー」と言って服の胸元をパタパタとさせているが、首まである服にはあまり効果がなさそうだ。
「お帰りなさいミスタ。わかりました、ありがとうございます」
フーゴは特に残念がる素振りもなく、自分の仕事に戻って行った。
ミスタは部屋の奥まで入ってくると、紙袋を漁って買ってきたものをそれぞれに渡し始めた。
「ほらよ、アバッキオ」
「ああ」
スポーツドリンクのペットボトルを投げる。
アバッキオは右手でそれを受け取ると、キャップを開けてごくごくと勢いよく飲んだ。
「ナランチャのプリンとチョコは、冷蔵庫に入れとくぞ。多分温まって、チョコは溶けかけてると思うからな」
そう言ってミスタは、紙袋からプリンとチョコを取り出して冷蔵庫に無造作にしまう。
そして今度は、俺に近づいてきた。
心臓がばくばくと鳴って、体を支配する熱が更に高まった気がした。
「あんたに頼まれてたトイレットペーパー。もっと食いもんとか頼まなくてよかったのかよ」
ミスタが少し呆れたような表情で言ってくる。
そんな何でもない表情、ミスタの仕草ひとつひとつに、心臓が高鳴る。
まずい。
「・・?大丈夫か?なんか顔赤」
「ミスタ」
ミスタの言葉を遮って、名前を呼ぶ。
ミスタはきょとんとした顔で、不思議そうに俺を見ている。
「・・・買い物、悪かったな。ありがとう」
「あ?ああ。別にいいって」
「じゃあ、置きに行くか」
「え?いやいいよ。俺置いてくるし」
「場所があるんだ。・・・いいから、来い」
俺は立ち上がると、ミスタの手を引いて部屋の入口に向かって足早に歩きだした。
他のみんなは、少し不思議そうに俺たちを見ていた。
でも一番不思議そうな顔をしていたのは手を引かれているミスタで、「え、おいブチャラティ・・っ」と焦った声を出している。
勢いよくドアを開け、
「ああそうだ。ついでに用事も済ませてくるから、遅くなる」
なんてあっさり嘘をついて、部屋を出た。
「・・・おい、何かあったのか?ブチャラ・・・ッ!?」
ブチャラティに無理矢理連れだされてから暫く経って、廊下の隅まで連れてこられた。
歩いている間ブチャラティは終始無言で、俺の方を見ようともせずただ手を引っ張っていた。
そして滅多に人の来ない廊下の端まで来たとき、ブチャラティは漸く俺の方を振り返った。
熱に浮かされたように、目が潤んで頬を赤く染めたブチャラティが、俺をまっすぐに見つめていて。
思わず息をのんだ。
「・・・お、い。どうしたんだよ、ブチャラティ・・?」
「・・・・ミスタ」
やけに熱の籠った声で、俺の名前を呼ぶ。
「したい」
「・・・・・は、あッ!?し、したいって」
いつも俺をからかうときみたいな、冗談を含んだ声色じゃなかった。
本気の、余裕のないときの声。
だからこそ、俺はみっともないくらい焦った。
「・・ミスタ」
俺の名前を呼びながら、ブチャラティは少しずつ顔を近づけてくる。
「ちょ、ほら、ここ廊下だし、みんないるし!・・・あ、後で部屋行くから!なっ!」
「いやだ。我慢できない」
「が、まんしてください・・」
「したくない。俺は今したい」
そう言って、ブチャラティは俺の頭を力任せに引き寄せ、歯があたるかと思うほど勢いよく口付けた。むしろあたった。
「む、・・・ん、ブ、チャラ・・ティ・・っ」
「・・・ふ、んん・・・・・・は、ぁ」
息継ぎのために一度口を離すと、ブチャラティはまた深く口付けてきた。
ブチャラティは必死で、キスをするのに夢中になっている。
その姿は、俺の熱までも妙に煽ってくれた。
「・・・ん、はっ・・・あ、・・」
ブチャラティの口の中は、いつもより熱い気がした。
口内を舌でくすぐっていると、ブチャラティが舌を絡めてくる。
「・・・っ、は、ふ・・・・」
本当に余裕の感じられないその顔は、普段とのギャップが相まって、ここが廊下で声が響くだとか、アバッキオ達に見つかるだとか、
そういう心配事を俺の頭からすっ飛ばす程度には効果があった。
ついでに言うと、さっきまでは驚きの方が勝っていて全く反応を見せなかった俺自身(隠語)が、大分反応を見せる程度には。
「・・・ん、ぁ・・み、・・・ミス、・・タ」
薄らと、潤んだ瞳を開かせて、焦点の合っていない目で俺を見る。
それでも目が合うと、心臓は大きく跳ねた。
もう一度、苦しくなって口を離すと、ブチャラティが俺にもたれかかり肩に顔をうずめた。
「・・・あ、れ?」
今俺はブチャラティを抱きしめていて、ブチャラティは俺に抱きついている。
そうなればつまり、体は密着するわけで。
密着すれば、当然お互いの異常に気付くわけで。
「・・・勃ってる?」
「・・・っ」
事実を指摘すると、ブチャラティはいきなり、べろ、と俺の耳を舐めた。
「・・・っ、!?」
「・・うるさい」
ブチャラティ真っ赤な顔で俺を睨む。赤い理由は羞恥じゃなくて、キスのせい。
ブチャラティはまた俺の耳を舐める。俺がくすぐったさに少し身じろぎすると、
「・・・なんだミスタ、お前、耳弱いのか?」
と、ブチャラティがにやにやして聞いてきた。
「や、そうじゃねぇけど」
まあそれなりにくすぐったいのと、突然やられたからびっくりしただけだ。
「・・、くすぐったいって」
俺が文句を言っても、一向にブチャラティは俺の耳を舐めるのをやめない。
俺がどうしたものかと考えていると、すぐ横にブチャラティの耳があった。
髪に隠れて僅かにしか見えないそれに、髪をどかそうと触ったら、
「ぎゃっ、あ」
と何とも色気のない叫び声が上がった。
それと同時に、ブチャラティが俺から離れた。
触られた方の耳を押さえて、真っ赤な顔で呆然と俺を見ている。
つい、口の端が緩んだ。それを見て、ブチャラティはまた俺を睨む。
「・・・へぇ〜」
自分でも、随分楽しそうな声が出たと思った。
それはブチャラティも思ったらしく、眉間に皺が寄り、苦虫を潰したようなバツの悪い顔になる。
にやにやしながら押さえられているのと逆の耳に触ろうとしたら、ブチャラティの右手に掴まれた。
ぎゅう、と力を込められる。ちょっと痛い。
今度は右手で開いている耳に触ろうとしたら、押さえている手を離して俺の右手を捕まえられた。
どうやら、余程耳には触られたくないらしい。
俺は更に笑みを深くして、握られたままの腕を引っ張り、ブチャラティを引き寄せた。
「っ!?・・・ひっ」
耳を舐めると、ブチャラティから悲鳴染みた声が上がった。
目をぎゅっと固く瞑って、何かを堪えているようなブチャラティが妙にかわいい。
「・・・ほんとに耳、弱いんだなあんた」
耳に口をつけたまま喋ると、ブチャラティから「んあっ」と声があがった。
「・・ふ、あっ・・しゃべ、ん・・な・・っ」
びくびくと震えているのがまたかわいい。
ブチャラティの反応に気を良くして耳を舐めていると、握られたままだった腕が持ち上げられた。
「・・?」
「・・・」
べろ。
「ちょっ・・・」
指を舐められた。
「・・・しょっぱい」
「あ、汗、かいたし・・・しょうがねぇだろ」
そう言いながら、ブチャラティは俺の指を舐める。
手は神経がたくさん通っているというのは知っていたが、まさかここまで舐められる感触が鮮明だとは思わなかった。
べろ、と舐められるたびに肌が粟立つのがわかる。
何だか負けてるような気分になって、ブチャラティの耳を甘く噛む。
「んっ・・・ひ、・・」
ブチャラティの舌が少し止まった。
俺は調子に乗って、耳の中に舌を入れたら、
「んんっ」
ガリ、と指を噛まれた。
ブチャラティも驚いて加減をしてないから、多分血が出た。それくらい痛い。
ブチャラティは俺の指から口を離した。
「・・・わるい、ミスタ」
「・・・や、平気だけどよ」
むしろ、自業自得だと自分でも思うし。
でもブチャラティは、少し気まずそうに俺の指を見ている。
「・・・っ」
そして、ぺろ、と、自分が噛んだ傷を舐めた。
それはさっきみたいな性感を煽る舐め方じゃなくて、動物が傷を舐めるような、優しい舐め方。
でもむしろ、その遠慮がちなやり方の方が、今の俺にはいろいろとまずかった。
「ブ、チャラティッ!いいからっ、気にすんな!なっ!」
焦りまくっている俺に、ブチャラティはきょとんと不思議そうな顔を向ける。
この人、無意識の方が危険だ。改めて敵わないと認識する。
とりあえず何とか誤魔化したくて、俺はブチャラティにキスをした。
軽く合わせただけのそれはすぐに離れる。と、ブチャラティがふふっと笑った。
「・・・なんだよ」
「・・・いや?なんでも?」
最初に比べて、なぜか少し余裕が出てきたらしいブチャラティは、俺の唇をぶにぶにと押しながら
「お前、唇うまそう」
と言った。よくわからない。
「結構厚くて触り心地いいし、この唇にキスすんの、好き」
ブチャラティがにっと笑う。心臓うるせぇ。
「唇が厚いと、情もあついらしいぞ。・・・そういうとこも好きだぜ、ミスタ」
そう言ってブチャラティが、俺に軽く口付ける。けど、これはやばい。
何がやばいかって、ブチャラティがかわいすぎる。
心臓は本当に、破裂するんじゃないかって程速く動いているし、顔は熱すぎて鉄板にでもなった気分だ。
おちつけ、俺。
忘れていたけど、ここは廊下で、すぐ近くにはみんながいる。
人が来にくいとはいえ、万が一通りがかったら、まずいなんてもんじゃない。
「・・・はぁ」
とりあえず、ゆっくり息を吐いた。
そしてブチャラティを見ると、余裕が出てきたのは態度だけで、まだまだ元気なようだ。
仕方なく、俺は渋々ブチャラティに告げる。
「・・・ここまできて言うのも、何か今更っつーか、流された俺が悪ぃんだけどよ。流石にここ廊下だし、その・・」
「・・・なんだ」
ブチャラティが、続く俺の言葉を察して俺を睨む。
不満を隠しもしない顔に、俺は少し「うっ・・」とひるんだ。何てったって、今回は俺が悪い。
「・・さすがに、廊下で、こんな人がいつ来るかもわかんねーとこで、できねぇ」
ブチャラティの目つきが、更に鋭くなる。
本当に、今更だってのはよくわかってる。でも、流石にここでするわけにはいかない。
だから、
「・・でも、このまま仕事に戻れねぇってのもわかるから、その・・手で、触ってやるからさ。多分、一回出せば落ち着くだろうからよ」
最大限の譲歩案。
だけど、ブチャラティの気には召さないようで。
「・・・・・・」
無言で、俺を睨む。
けど、本当にここで最後までやるわけにはいかないので、俺は問答無用でブチャラティに触り始める。
「・・・っ、ん・・」
ぴく、と反応を見せるブチャラティ。
再び呼吸が荒くなる。
「・・・ん、ぁ・・・っ」
直接的な刺激に、ブチャラティの足元がふらつく。
開いている手で腰を支えて、崩れそうになるのを防ぐ。
「は、・・・んん・・」
「・・・」
「あ、ミスタ・・・んっ」
「・・ブ、チャラ・・・ッ!?」
キスをしようと、顔を近づけたとき。
ブチャラティが、俺に触ってきた。
「・・お、い・・・ブチャラティ・・っ」
「・・っは、おまえ、も・・・げんか、い、じゃねーの・・か・・?」
荒い呼吸で途切れさせながら、苦しそうに笑ってブチャラティが言った。
正直にいうと、確かにそうだった。
大分反応してしまった自身は自然と治まるには時間がかかりそうだから、トイレでなんとかしようと思っていた。
なのに、ブチャラティは遠慮なく俺に触ってくる。ほんともう、勘弁してください。
「・・な、まじで・・・止まんなく、なるって・・っ」
「・・・いいじゃねー、か・・別に、・・」
そう言うと、ブチャラティはにやりと笑って、俺に口付けた。
そしてぷつりと、俺の中で何かが切れた。
「・・・まさかあんた、最初からこのつもりで頼んだんじゃねーだろうな」
俺がブチャラティを怪訝な顔で見つめながら言い放ったのは、後始末にブチャラティに頼まれたトイレットペーパーが大活躍しているときだった。
「・・・そんなわけねーだろ」
ブチャラティはだるそうに目の上に腕を乗せて、ぐったりしながら言った。
こっちを見ようともせず、「立ったままは、もうしない」と呟いている。余程足腰にきているらしい。
俺は色々と役に立ったトイレットペーパーを、空になった紙袋に入れながら言った。
「前半は俺に非があるけどよ、後半はあんたのせいなんだから、おあいこだぜ?」
俺が呆れたように言うと、ブチャラティは手をどかして起き上がり、むっとした顔で俺を見た。
「本当に元をただせば、全部お前のせいだろ。ミスタ」
「はぁ!?何でそーなるんだよっ」
納得のいかない文句に俺が憤慨すると、ブチャラティは少し拗ねたような顔で俯いて、
「・・・急に、すごいしたくなって・・それで・・・」
ごにょごにょと小さな声で言っているが、それはやっぱり、
「・・俺のせいじゃなくね?」
と言うと、ブチャラティはバッと顔をあげた。
「・・っ、だからっ」
そう勢いよく言うと、また少し項垂れた。
耳まで真っ赤になっているのが見えて、ちょっと悪戯してやろうと思って耳に手を伸ばした。
そしたら、また顔をばっとあげて、真っ赤な顔で、にやりと笑った。
「・・・お前の顔を見たら、我慢できなくなった」
++++
やっぱりというべきか、ネタはこふじ。
しかし、「○○なミスブチャが見たい」と言われたときははげもえたのに、
私が文章にするともえなくなる不思議。
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