しろの小説(短編倉庫)
【土銀】ゆく年くる年
年の瀬。
外を見れば皆、忙しそうにバタバタと冬支度をしていて、TVはどのチャンネルも特番ばかりだ。
今年ももう終わりを迎えようとしていた。
俺はというと何をするというわけでもなく、一人家でコタツに入り蜜柑を食いながらただぼんやりとTVを見ていた。
え?神楽達はって?あいつらはお妙のところで正月過ごすんだとよ。俺にも一緒に来ればいいのにと声は掛かったんだが…まぁ、アレだ。察してくれ。
それに…いや、会えねぇヤローのことなんざ考えたってしょうがねぇっての。
食べかけの蜜柑を口に放りこみ食べきると俺は視線をTVにホールドしたままコタツに突っ伏した。
「あー、今年も幸子すげーなー」
そんなどーでもいいことを呟きながら俺は睡魔で重くなってきた瞼を閉じた。
それからどれくらいの時間が経ったんだろうか。
あったけぇなぁ。
それに頭を、頬をふわりと撫でられるような感覚がすごく気持ちいい。
夢の中だけでもアイツに会えたら…なんてらしくねぇことを思ってしまったからだろうか。
アイツにはぜってー言えねぇけどな。
TVから聞こえる除夜の鐘を聞いて俺はようやく目を覚ました。
「んん…」
いつの間にか紅と白が争う歌合戦と言う名の一部ネタ合戦と衣装合戦だろ的な番組が終わっていたのに気付き、もぞりと起き上がると聞き慣れた声が俺にかけられた。
「こんなトコで寝てたら風邪引くぞ」
「ひ…じか…た?お前なんで…」
いつだったかは覚えてねぇけど、年末年始も見回りとかあって忙しいと言ってたから大晦日に来るなんて思ってもいなかったのに。
期待なんてしない方が気分的にも楽だし虚しい気持ちに苛まれることもないから。
「仕事が早く終わったからな。あと、あいつらからも頼まれた」
…新八と神楽か。ったく、余計な気ぃ使いやがって。
「別に来なくても良かったのに」
「相変わらず可愛くねーこと言う口だな」
「可愛くてたまるか。『可愛い』って言われて喜ぶのは女か綺麗なお姉さんに言われて舞い上がってるケツの青いガキぐらいだっての。可愛いのが好みなら他あたれや。俺のことはほっと―――」
反論する俺の言葉にあいつの顔がムッとしたのも束の間。土方は手に持っていたタバコを灰皿に押し付け消すと、その言葉を遮った。
「んっ、ちょっ…、何いきなり…んん…」
離れようとする俺の意思を土方は無視して片手を頭へと回すと強く引き寄せ唇を奪い、すかさず舌を絡め取ると的確に俺の弱いところばかりを攻めてきやがるから、何も考えらなくなる―――。
そんな中、ぱさりと耳の端で何かが落ちる音が聞こえたような気がした。
「んぅ…ふっ……はぁっ…はぁ……」
思わず土方に縋るようにしがみつきしばらくすると、くちゅりと音を立ててようやく解放された。
いきなり何しやがんだと睨みつけて文句を言おうとしたんだけどよ、アイツがやけに真剣な顔をして俺を見つめてきやがるから気後れして不発に終わる。
つけられたままのTVからは、リモコンが手に当たったのかいつの間にかチャンネルが変わっていて、バカ騒ぎする奴等の声が年明けを告げていた。
「その…なんだ…、今年も俺のモンでいろよ。銀時」
「へ?あ、あぁ………って、いやいや。人がちょーっとびっくりしてる隙にどさくさにまぎれて何言ってんの」
「どさまぎで言ってるつもりはねーよ。……嫌か?」
「バッカじゃねーの。銀サンは皆の銀サンなの。……けど」
「!!」
そこまで言い、土方の胸ぐらを掴むと今度は俺からアイツにキスをやりかえしてやった。
「もし嫌だったらとっくにテメーをぶっとばしてるっての」
立ち上がり、俺は後ろに落ちていた土方の上着をひょいと肩に担ぎ振り返ると『してやったり』と舌を出すと、我に返った土方に
「もっと素直になれよ。判り辛ぇから」
なんて苦笑交じりな顔で言われたが、面と向かって「あけましておめでとう。今年もよろしく」なんて二十字足らずの言葉が言えなかったり、素直じゃないのはお互い様だろ?まぁ、土方くんは俺と違って判り易いけどよ。
そんなところも、少し強引なところも、居眠りしてる俺にそっと自分の上着をかけてくれる優しいところも、ムカつくところも。コイツの全てが愛おしく思えてしまうなんて俺はかなりいかれちまってるらしい。
「ところでさ土方くん〜。銀サン今から土方くんと一緒に初詣行きてーなぁー」
「オメーは初詣じゃなく屋台の食いモンねだりたいだけだろ」
「あ、バレた?」
「程々にしとけよ」
「まーまー、固いこと言うなって。後で銀サン、サービスしちゃうかもよ?」
「かもじゃなくて決定事項だから覚悟しとけ」
「マジでか」
屋台はもちろん、初詣で願掛けしたいってのもホントなんだけどな。
……何?願い事は何かって?そんなモン秘密だ秘密。べ、別に恥ずかしいとかじゃねぇよ?願い事をおおっぴらに言っちまうと効果が弱くなりそうだからとかその程度の理由だから気にすんな。
互いに出掛ける準備が整い、万事屋の外へと足を踏み出すと俺は鍵を閉め、外の寒さに身を竦めると下で待っている土方のところへと急いだ。
…似ている二人とはよく言ったモンで、初詣での願い事まで二人同じような事を願っていたが、そんなことを互いが知るハズもなく、まさに「神のみぞ知る」ものだった。
―おまけ―
「「せーのっ!!」」
「よっしゃァァァァァ!!大吉だぜ大吉ィ。『大吉』って数が意外に多いからビミョーって声もあるけどやっぱり良いにこしたことはねぇよな。うんうん。しかも『のぞみのまま』だってよ。で、そっちは?……オイ、なに固まってんだ?どれどれ…っと、『凶』。…ま、まぁ、そんなこともあるって〜。ホラ、滅多に出ねぇレアカードみたいなモンだよ〜。すげーなー、俺初めて見たわ。それに大凶じゃなかっただけマシじゃん」
「励ましになってねぇよ。…もし結果が逆だったらテメーならどうすんだ?」
「『ざけんな!』つって、みくじごとテメーをぶった斬る」
「オイィィィィ!!なんだそのご都合主義!?言ってることが百八十度ちげーじゃねーかァァァァ!!」
「うっせーな。俺は別にレアで強力だけど呪いかかってる装備より、ステータスアップできる種とかそんなささやかな幸せでいいんだよ」
「俺だって呪いよりそっちのがいいわ!!…だいたい、呪いはトッシーでこりごりだっつーの」
「そーいやそんなのいたな…ホントに成仏したのかよ?」
「さぁな。今のところは鳴りを潜めてるがな」
「ふーん、まぁ…アレだ。凶運を背負い込まされんのはゴメンこうむるが、幸運を少し分けてやるぐらいはしてやらなくもねぇ」
「お前…」
「とりあえずみくじを括り付けるか。いいみくじは持ち帰ってもいいみてぇだが、悪いみくじはなるべく括りにくい場所に利き手と反対の手で括った方がいいんだってよ。困難なことをすることで神様にこの後降り掛かる不幸を少しでも免除してもらおうって算段なワケよ。…あのてっぺんとかどうよ?ガンバレー(棒読み)」
「いや、さすがにあんなトコまで登んのは無理があるだろ」
「大丈夫、お前なら出来るって。行ってこい。そして落ちろ」
「オイ、なんかいま不穏な言葉が聞こえたぞ」
「あぁ、気のせいだって気のせい。え〜、何?土方くん、まさか『出来ない』とかヘタレたこと言っちゃう?」
「そんなこと言ってねぇだろ!!行ってやるよ!行けばいいんだろ、このドSヤローがァァァァ!!」
「あ〜…、ホントに登ってっちゃったよ。…お、綿菓子屋と苺大福屋発見♪おじさーん、代金は今そこ登ってるバカが払うからソレとソレちょーだい。あとソレも」
「くっそ、無茶言いやがって。ホラよ、結んで来たぞ!!…ってオイ?銀時っ」
「おー、ココ、ココ。オメーが遅いから先買っちまったぜ?代金土方くん持ちで買って来たから後よろしく〜♪」
「は?ちょっ、待てっ!!テメー、俺が『程々にな』つったのを忘れてねぇだろうな?」
「まだそんなに買ってねーって。さすがにいっぺんに買いすぎると持ちきれねーし冷めるし」
「『まだ』って、まだ買うつもりかよ」
「まぁまぁ、細かいことは言いっこなしだぜ、ダーリン☆」
「……(くっそ、可愛いじゃねーか!!)」
「よし、次はチョコレートタワー行くぞ〜♪」
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