しろの小説(短編倉庫) 【土銀】どんなによく知ってる相手でも知らない一面ってモンが必ずしもあるモンだ よく晴れたある昼下がり。 外回りから帰ってきた土方の視界に入ってきたのは此処、真選組屯所で会うとは思っても見ない人物だった。 「―――それでさぁ、やめろって言ってるのにアイツは俺の話なんてまるで聞きやしなくてよぉ、いつも半ば無理矢理…」 「な………」 溜め息混じりに、だが親しげに隊士達と話すその男は土方に背を向けるように立っていたが、すっかり耳に馴染んだ声やくるりとうねった銀髪で誰なのか一瞬で答えに辿り着く。 だが……。 「あ、副長」 「おー、多串くん。何やってんの?そんなトコで。金縛り?」 言葉を失い、玄関先で唖然としてつっ立っている土方に気付いた原田が声をかけると、銀髪の男も振り返り、相も変わらず死んだ魚のような瞳で土方を見やると無気力な声のトーンでしゃべりかけてくる。 その声にハッとした土方は次の瞬間、靴を脱ぎ捨てながら次の行動に移っていた。 「ちょっとこっち来い!!」 「えっ、ちょっ、おおぐ…土方っ!!」 「おぉ、トシ帰ってきたか………って、どうしたんだ?いま万事屋が引きずられて行ったように見えたんだが」 「さぁ……なんでしょう?」 いきなり自分の手をグイとひっぱり、ずかずかと歩きだした土方のせいでバランスを崩し転びそうになったものの、どうにか態勢を立て直した銀時が文句を言おうと口を開きかけるとほぼ同時に土方は空いている方の手で障子を開けると銀時を部屋に押し込み後ろ手にぴしゃりと閉めきりると、ようやく手を離した。 「ったく、いきなり何すんだコノヤロー」 ようやく解放され、じんじんと微かに痛む手首をさすりながら土方を睨み付け文句を言う銀時に土方は逆に問い掛ける。 「何してんだって聞きてェのはこっちの方だ。何でテメーが此処にいんだ?しかもその格好…」 「ん?あぁ、似合う?…って前にも一回着てるけどな。いやぁ銀サンなんでも着こなしちゃうからさぁ。あ、あまりにもかっこよく着こなす俺に見惚れちゃったワケだ?」 「誰が見惚れるか!!自画自賛してんじゃねェよ」 からかうように言いながらウインクする銀時に、もし見惚れても口に出して言えるか!!と思いながら土方が反論すると「ちぇ、なんだよ。ココはお世辞でも合わせるとこだろ」とムッとして拗ねたような表情をしたが土方は構わずに銀時に疑問を投げ掛ける。 「似合う似合わねェなんてことより、なんでテメーが真選組の制服着て此処にいるのかが知りてぇんだよ俺はっ。つか、その制服、俺のだろ」 銀時がなぜ自分の制服を着て此処にいるのか。どのような経緯でそのような事になっているのか全く理解出来ない。 「…今回はちゃんとオメーんトコからの依頼だっての。まぁ、助っ人みてーなモンだ。服は前にテメーの着た時にサイズがちょうどよかったからな。…なんだよ、服一着ぐらいでぎゃーぎゃー騒ぐなって。俺だってこんなヤニ臭ぇ服我慢して着てんだ。痛み分けだろーが」 余計な言葉がもれなくついてくるのは、もはや彼の性格上、仕方のない事なのだろう。 しかし、全ての言葉をスルーしてやれるほど土方も気の長い方ではなく、むしろ短気な性格故に銀時の態度に苛々させられることも少なくなかった。 「………………げよ」 「は?」 何を言ったのか聞き取れなくて聞き返すと、土方は銀時を壁際へと追い詰め、顔を近付けもう一度言う。 「文句があるならその服脱げよ。それとも俺が脱がせてやろうか?」 「……冗談だろ?寒っ。そんな寒いジョーダン真に受けるほど銀サンはあまくねェぞ」 いくらなんでも…無いわ〜と流そうとする銀時を見て、土方は口の端で笑うと銀時の首元に指を引っ掛ける。 「…冗談だと思うか?」 しゅるりと布が擦れる音とともにスカーフがほどかれ、ワイシャツのボタンが外される。スカーフに口付けながら銀時を見る土方の目は「本気だ」と物語っていた。 「いやいやいや、文句ありませんっ!!無いから離せやボケェェェェ!!」 「今更取り繕ったって遅ェよ……って、テメー、ちょっとはおとなしくしろよ」 「おとなしくしてたら状況が悪化するだけだろーが!!」 往生際が悪いと言っても聞かない相手には実力行使で黙らせるのが一番手っ取り早い。それは戦場だけに留まらないことを土方は知っている。 「大体、こっちはまだ仕事が………んっ、んん――っ!!」 騒ぐ銀時の口を塞ぐように土方は自分の唇を重ねると、舌を絡め角度を変えたりと深い口付けを何回も繰り返し、恋人の唇の柔らかさと甘さを味わう。 「ん………ふっ、……んぁ……はぁっ…」 最初は強く抵抗していた銀時だったが、感じるところを重点的に攻め立てるような長いキスが終わる頃には抵抗する力も弱々しいものになっていた。 唇が名残惜しげに離れると二人の間を銀色の糸が光る。 「甘ぇな。味も匂いも――」 服にも甘い匂いが移ったんじゃねぇか?と笑う土方に対して銀時は与えられる快感に溺れそうになりながらも抵抗する言葉はやめなかった。 「ぁっ……、ちょ、もうや…めろ…って……。こ…んな…トコ…、んんっ、誰か…に見られ…たら……ぅぁ…」 「もっとはっきり言わねーとわからねぇよ」 胸の先を引っ掻くように土方の指が動き、首筋や胸に顔を埋め舌を這わせ舐め上げられ、「銀時」と名前を囁かれ見つめられる。この男の行動全てに反応してしまう自分の体が忌々しい。 そしてこの男自身にも。 俺もいちおう健康な成人男子だしそれなりにムラムラする時だってあるよ?あぁ、あるともさ。でもTPO考えろってんだ。 「盛…ってんじゃ…ぁ…ねェ…ての……んぅっ」 銀時の言葉を奪うように土方は再び唇を重ねると、抱き締めるように腰にまわしていた手を下へと滑らせ、ズボンの上から銀時の双丘の谷間をさすり、布越しに秘所を刺激する。 銀時はビクリと反応して、さすがに此処で最後までやってしまうのは無理、と、力が思うように入らなくなっているにも関わらず土方を押し退けようと身体を捩る。 「だからテメーは…、時と場所を考えろ…っての」 「お前が大きな声出さなけりゃ大丈夫だろ」 「テメー、いっぺん死んでくんね?300円あげるから……ひぁっ」 土方は耳を舐めると銀時のベルトを外し、ズボンに手をかけたその時。 「旦那ァ、ドコにいるんでかィ?」 廊下の方から近づいてくる沖田の声と足音にハッとした銀時は、同じく、沖田の声に気を取られた土方を突き飛ばすと服を元通り着直した。 「あ、此処だったんですかィ。探しやしたぜィ。…アレ?土方さん、何してるんで?」 「いやぁ、ちょっと腕立て伏せでもやろうかなと思ってな。はい、いっち、にー。お前もどうだ?総悟」 「バカがうつりそうなんで遠慮しときまさァ。…ところで旦那。コレ、報酬の超高級洋菓子店の数量限定スイーツでさァ」 「おぉぉぉ、コレずっと食いたかったんだよ。ありがとう総一郎くん!!」 「総悟でさァ」 沖田からケーキの箱を受け取る銀時の嬉しそうな顔を見て一瞬複雑な気分になったが、この場合、おそらく自分が嫉妬している対象は沖田ではなく『ケーキ』ということになるのかと気づいた土方は違う意味で複雑な気持ちになり、違う事に意識を向ける事にした。 「報酬ってことは、まさか依頼人って…」 「そ、沖田くん」 「旦那には俺の代役を頼んでたんでさァ。まぁ、事件も起こりそうにありませんでしたし、旦那ならたとえ何かあっても対処出来るでしょうからねィ」 確かに腕も立つしちゃんとやる気さえ出せばたいていの事には対処できるだろう。しかし、だからといって(一応)民間人であるコイツを巻き込むのはいかがなものだろうと土方は思った。 銀時の身の安全を心配するというよりも、どちらかといえば機密事項も多いこの仕事に部外者を関わらせたくない想いの方が先立つ。…だからといって恋人が他の者と親しげに話してるのを見てなんとも思わないのかと問われれば否であるが。 「コイツの代わりだったら普段サボってるイメージしかねぇし楽そうだな〜って」 「心外ですぜ旦那。俺ァこれでも一応隊長ですからねィ。サボってるように見せかけて色々やる事や考える事があるんでさァ。いつになったら土方さんが副長の座を俺に明け渡してくれるのかとか、どうやったら土方さんを亡き者に出来るのかとか、貶める事が出来るのかとか…」 「それ全部同じだろーがっ!!テメーが物騒そのものじゃねーか!…ったく、テメーの頭ん中はそんな事しかねーのか!」 「土方さんを苦しめる事に関しては俺ァ労力を惜しみませんぜ」 その労力を違うところに使えよ!!と激しく言いたかったがコイツらのやる事全部にツッコミを入れてたらキリがないと土方は溜息を吐いた。 「とにかく、てめぇが戻ってきたって事はコイツの仕事はもう終わりなんだろ」 「そういうことになりますかねィ。…旦那はいいんですかィ?土方さんの仕事ぶ……」 「わーっ!!ちょっ、何言ってるのかなー?沖田君。別に俺は依頼として受けたワケでコイツのことをどーこー思ってとかそんなのないからね!!」 「まァ、旦那がそう言い張りたいなら俺は別にそれで構いやしませんがねィ」 アイツが俺のことをなんだって?内容はよく分からないが今回のコイツの依頼を受けた理由が俺に関係している…とでも言うのだろうか。 「…じ、じゃあ、俺帰るわ」 話題転換をするかのようにわざとらしく背伸びする銀時に「またいつでも遊びに来てくだせェ」と言いながら制服を着替えた部屋へと案内する為に沖田は廊下を出た。その後ろを付いていくように銀時は「茶菓子のひとつでも出るんなら考えてやらねぇこともねぇけどな」などと応えた後、ふと立ち止まり、土方へと振り返ると思い出したかのような口調で言った。 「そういやこの間、仕事の報酬でいい酒が手に入ったの思い出したわ。……今晩飲みに来たけりゃ来いよ」 ちょうど神楽も今日はいねぇし…。ぼそりとかろうじて聞き取れる程度の声量で言うと、少し早足気味にすたすたと視界から消え、部屋に一人取り残された土方は、立ち去る直前の恋人の赤く染まった表情に「その顔は反則だろ」とその場に座り込み、呟くと今日は早めに仕事切り上げるかと天井を見上げた。 ――おまけ―― 「そういやお前、あの時何の会話してたんだ?」 「んぁ?あの時ってどの時よ?」 「俺が帰ってきた時に原田に『無理矢理』がどーの…」 「あぁ、アレね。アレは…」 「アレは?」 「神楽が定春の散歩に行かねェからいつも俺が連れて行くハメになるって愚痴だ」 「はぁ?俺はてっきり…」 「てっきり…なんだよ?……ちょっ、おまっ、そんな話を人に出来るわきゃあねぇだろーが!!」 [*back][next#] [戻る] |