しろの小説(短編倉庫)
【土銀】土方サイド【土誕2008(前)】
「何?わざわざ呼び出して何か用なワケ?」
相も変わらずやる気のかけらも見せねぇ銀髪を目の前に俺は口を開いた。
「いや…とりたてて急ぎの用でもねぇんだが…」
どーもこういう話は自分の口からじゃ言いだしにくくてしょうがねぇ。
「…と、ところでだ、今日が何の日か知ってるか?」
コイツの口から俺が求める答えが出るなんざ最初から期待しちゃあいねーけどな。
「あ?当たり前だろ」
期待しちゃいねぇ。だが、ほんの少しの可能性に思わず俺は息を呑んだ。
「アレだろ?『黄金週間』。でもなんで金色なのかねぇ。別に銀だろうが虹色だろうが無色透明だろうがいいんじゃねーの?よーし、今日から『銀色週間』でいこう」
「なんだよ『銀色週間』って!今更変える必要がねぇ…っつか、だいたい金も銀もあんま変わらねーじゃねぇかっ!っつか無色透明に関しては存在感すらねぇわっ!!」
「見えなかろーが存在するだけで意義があんだよ。空気だって目には見えねーが無いと生きていけないだろ?『あなたがいなくなって初めてその大切さが分かったの(裏声)』〜って気付いて泣き付く頃には手遅れなんだよ。相手はもう新しい幸せを手にしてんだよ。
金と銀が変わらない?バカ言っちゃあいけねーよ。変わるに決まってんじゃねーか。このマンガのタイトル忘れたかぁ?『銀魂』だろうが。銀が金に変わったらジャンプ回収騒ぎだからねコレ」
「オイィィィィ!そりゃ一体ドコの昼ドラだ!それにだいたい俺はマガジン派だからジャンプが回収されよーが廃刊になろーが知ったこっちゃねぇんだよ」
「てめっ、そんなこと言ってもし本当にジャンプがそんなことになったらテメーを袋詰めにして廃品回収に出すからなっ。」
「上等だコラ。やれるもんならやってみやがれっ!…ってか話逸れてんじゃねぇか!今日…5月5日は何の日だって聞いてんだろが。」
口論になり掴み合いの一歩手前で俺は本題を思い出し軌道修正を試みる。
「…5月5日ねぇ……ん〜?…あー、思い出した」
ポンと手を叩いて思い出した素振りを見せるが、まぁせいぜい『子供の日』と普通の答えが返ってくるのが関の山か。
「『中二男子の日』だったな」
「誰が中二男子じゃボケェェェェ!せめて『子供の日』とかまともな解答よこしやがれっ」
思わずずっこけそうになったじゃねぇか。
「何ムキになってんだァ?子供も中二男子も変わらねーじゃねぇか。ま、子供の方が変に悟ってたりするけどな。中二はバカのオブザイヤーだけど」
「尚のこと悪いだろーがァァァ!!」
やっぱり期待した俺がバカだったのか。
「ちっ、もういい」
どうせ最初から期待しちゃいなかったんだ。覚えていたトコロでソレを喜ぶ歳でもねぇしな。コイツに会えただけでもヨシとしようじゃねぇか。なのになぜこんなにも釈然としねぇんだろうか。
「…土方十四郎の誕生日…だろ?」
「な…」
コイツ…覚えててわざとすっとぼけてやがったのか?…でも、からかわれていたのかという苛立ちよりも相手が自分の誕生日を覚えていた、ただそれだけでなぜかやけに嬉しくて胸の辺りが温かくなったような気がした。だが…
「そっかぁ〜、土方くんは俺に祝ってほしくて今日わざわざ呼んだんだ〜?」
ニヤニヤと俺の顔を見ながら笑うコイツを見るとどうしても素直になれなくて
「うるせー、別にそんなんじゃねーよ」
…なんて意地を張っちまう
「そ?でもせっかくだし銀サンが特別大サービスしちゃおっかな〜」
アイツに背を向けるようにして立っていた俺の顔を覗き込むようにしてヤツがしゃべりかけてくる。
「っつーことでぇ〜、とりあえず目ェ瞑れや」
「…は?」
続けて言われた言葉に思わず俺は聞き返した。
「目ェ瞑れっつったんだよ。心配すんな。チューなんてしねーから」
「なっ…だっ、誰もそんなこと期待しちゃいねーよ!!」
続けて反論したい気持ちは大いにあったがせっかくコイツが祝ってくれるんだと自分に言い聞かせ、言われるとおり目を瞑ると銀時は俺の右手を握ってきた。目を瞑ると他の神経が研ぎ澄まされるってのは本当だな。アイツの手の温もりや感触が伝わってきて、もっとソレを感じていたいと思わず引き寄せて抱き締めたくなっちまう。
「……?銀時?」
アイツが俺の右手を掴んだまま一向に動かないコトに気付くも、勝手に目を開けたら怒るのだろうかとか思い、目を閉じたまま俺は声をかけた。
「…あ、あぁ。もう目ェ開けてもいいぜ」
俺が声をかけた瞬間、銀時がビクリと反応するのが目を閉じている俺にもしっかり伝わった。
何か考え事でもしていたんだろうか。でもコイツのことだ。聞いてもはぐらかされるのがオチだろう。ゆっくり目を開けてみると俺の手の中にはひとつの小さな箱があり、開けてみると中には見慣れた黄色いボトルに赤いキャップのソレが入っていた。
「マヨ型の…ライター?」
「知り合いにカラクリ技師がいてちょっとな。マヨラーな上、ニコチンコなテメーにはぴったりだろ」
パッと見、単純な構造にも見えたが、よく見ると色んな仕掛けが施されているみてぇだ。こんな手の込んだモンそこらの技師がそうそう作れるワケねぇ。きっとコイツはその技師に無理言って作ってもらったんだろう。ソレを考えると普段は腹を立ててしまうようなコイツの憎まれ口にも全く怒る気にはなれなかった。
「あ…ありがとよ」
「あれまー、多串くんの口からそんな言葉が出るなんて雨が降るんじゃねーの?」
「うるせぇ、礼儀はちゃんと通す方なんだよ」
そういいながらヤツの様子を伺うと少し頬や耳を赤らめているように見えた。目の錯覚かどうかは定かではなかったが俺の理性を吹き飛ばすには充分だった。
「へー。まぁいいけど。…ところで土方くーん?…何してんの?」
「いや。確かお礼ってのは3倍返しが原則だったよな?」
そういいながらアイツが俺の腕の中から逃げるのを阻止する。
「あ、あぁ。そりゃ当たり前だろーが。常識だろ常識。」
「じゃあ俺は今からテメーにプレゼントの礼をしてやるよ。3倍返しでな」
「いやぁ〜…それはちょっと遠慮させてもらおうかなぁ〜。どうせならパフェ1年分とかにしてくんない?」
「遠慮するこたァねーだろ?」
「いやいやいや、遠慮させていただきますっつーか遠慮させてくださいっ!結果、テメーが得するだけだろーがァァァ!」
「いいじゃねーか。俺の誕生日なんだからよ」
そういって俺はヤツの唇をふさいだ。
「…ふぅっ…んん…、はぁ…。……テメーは手加減しねーからな。後が大変なんだよ。少しは労れコノヤロー」
「ふん、数ヶ月単位でしか歳違わねぇんだからその必要は無ぇだろ。何ならテメーが立てなく位 ぶち…」
「わーっ!わーっ!てめっ、何言っちゃってんですかァァァァ!?以前テメーが人前で堂々と言った恥ずかしいセリフを、こんなトコで再び恥ずかしげもなく言わないでくれない!?」
「『こんなトコで』って、俺とテメーだけのこんな密室で恥ずかしがる必要もねーだろ。大体アレはテメーの発言に言い返しただけだろうが」
「あんな返事くるなんて普通思わねーよ!…そっ、そうだっ。ゴリ達はテメーの誕生日について何か言ってなかったのかよ」
「パーティー開くとか言ってたが断ってきた。…今日はお前と一緒に過ごしたかったからな」
「……。あーもー、分かったよ。そこまで言われちゃ、しょーがねぇ。銀サンも覚悟決めてやらぁ。…ただし、なるべく手加減しろよ」
「さァ?どーだろーな」
俺の表情を見たアイツも多分察しているだろう。…手加減出来るほどの余裕がないことを。そして明日きっとまた文句を言われるんだろうななどと思いながら目の前の愛しい人を抱き寄せた。
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