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初合作・土銀馴れ初め話

「―――っ、いきなり何すっ、ぅ、ん!!?」

突然。

それはあまりに突然だった。

なんでもない普通の日。

町に出てぷらぷらと馴染みの店とかに顔を見せていたら真選組の巡回に遭遇して…それが顔を合わせれば絶対に口論か意地の張り合いになる瞳孔開いた相手だったものだから、いつも通りにまた一モメすんだろーなぁとか思ったのも束の間。

いきなり問答無用に腕引っ掴まれて路地裏に放られて。

何すんだ!と言ってやるのは当たり前だろう。

しかし、そんな行動を前にコイツは、目の前のこの野郎は…考えも及ばなかった事を実行しやがったのだ。

誰が考える?昨日まで会えば喧嘩染みた事しかして来なかった相手が、突然……出会い頭にキスしてくるなんて。

「ん…っ、ぅ、ふっ…んん!!!」

しかもかなりアレだ…深い感じでなかなか離れやしないとか。

力はほぼ互角。

がっつりと顎を捕まれて攻め立てられてる時点でこちらの分は大層悪い。

どんだけ暴れても無視されると来たら後は最終手段…蹴り上げしかない。

が、ピントも合わないだろうに目を閉じない相手の視線を見ていると…どうもそこまでの行動に移れなかった。

こんな状況で意地の張り合いもないんだろうが、何か、負けるかと思ってしまったのだ。

…後から考えるに、男からのキスの嫌悪よりも先に負けん気が立っていたと言う時点で全ては決まっていたような気もする。

「…ぅん、ふぁっ!」

はっきり言って、キスとか久々だったわけだ。

つーか攻められる側とかは正直に未経験だったわけでよ。

感じたとかどーのこーのは言いたくないが、顔が軽く赤くなるくらいまでにはやられた。

から、解放されてすぐにした行動は手を口元に寄せたことだった。

で、怪訝と言うか探るような目でヤツを見た。

そうして見たヤツは、眉間に皺寄せてこっちを見ているものだから、なんでやられた側がそんな風に見らんなきゃなんねーんだよ!と、いやに腹が立ったんだ。

「てめっ、何様のつもりだ、アァ!?何のつもりでんなことしやがった!!事と次第によっちゃあ、容赦しねぇで全力でボコるからなコラァァァ!!!」

拳を握り締め、本気で叫んだこちらをどう見たのかは分からない。

ただ、あまり相貌を崩さず冷静に言い放たれた、やはり今まで想像だにしなかった爆弾発言に。

俺は一気に間の抜けた態度に戻らざるを得なかった。

「…お前が好きだ。俺のモノになれ」

「……は?」

その言葉に、すぐに思考を働かせるなんてことは出来なくて。

なんて言った?

…好きだって?

コイツが俺のことを。

ゆっくりと、そんな単調な反復を頭の中で繰り返してからようやっと口を動かせるようになった。

「…そりゃあまた一体何の冗談だ?知ってっか?世の中にゃあやっていい冗談と悪い冗談があってだな…」

なのに、そんな軽口もあちらさんのイヤに真剣な声と表情で苦さに変えさせられちまう。

「テメーは、好きでもない男に冗談でこんなこと出来ると思ってんのか?」

「それは…」

そんなことは分かってる。

コイツがこんな冗談、やるヤツでもやれるヤツでもないことぐらいは。

それぐらいの理解はある。

だけど、顔合わせりゃ突っ掛かって喧嘩しかしてこなかったような相手が突然キスしてきた挙げ句、好きだとか俺のモノになれだとか、そんなこと言われたって話の流れに付いていけるかよ。

「信じられねェってんならお前が信じるまで何度でも言う。俺はテメェが好きだ。……銀時」

名前を呼ばれたのは、そういえば初めてだった。

そんな些細な事に一瞬反応が遅れた辺り、俺も大概だったのだろうか。

でも、そう言って抱き寄せようとする腕をなんとか掴んで俺は制止をかけた。

「んなこといきなり言われても…っ、テメーの気持ちには、応えられねェ」

目を合わせる事がどうにも出来ずに下を向いたまま言えば、しばらくしてその身体は離れ。

「……そうか」

とだけ口にして、さっきまでの戸惑うほどの強引さのかけらも見せず、あっさりと踵を返して去って行ってしまったのだ。

残された俺は、その後ろ姿が見えなくなるまでただ呆然と見つめるしか出来なかった。

「…一体なんなんだよ……土方っ」

普通の日、だった。

なんでもない普通の日。

そのはずだったのに、たった一つの接触が、たった一つの言葉が、その日をなんでもなくない日にしちまった。

胸に燻るモヤモヤの正体が分からなくて、その場の居心地の悪さの意味が分からなくて。

アイツの告白を受けるなんて考えはなかった、だから対応に間違いなんてなかった…そのはずなのに。

俺はその場にへたり込み、もうここにはいない土方がもう一度ここに現れないかと、願ってしまっていた。




それから、何日経ったかは正確には覚えていない、だから数日後。

またもや一人で町をぶらついてたら巡回中の真選組に遭遇した。

幸か不幸か、今度は土方だけじゃなく生まれながらのドS王子も一緒で、とりあえず俺はそっちとの会話に花を咲かせてみる。

アイツを意識してるのかって?

別にそんなんじゃなくて、大体今までだってこの組み合わせと鉢合わせた時はどっちかってーとこっちと会話をしていたはずだ。

だから、この行動が一番無難でハズレはないはず……別に意識してるわけじゃない、断じてない!

が、しばらくして気付いてしまった。

土方が、頑なにこちらを見ようともしないことに。

いつもなら、俺と沖田くんの会話にツッコミなり仕事だからと邪魔を入れたりするものを、ちっとも触れようとしやがらねェ。

それを見て、積もりに積もったこの数日間の鬱憤が一気に爆発するのを自分の事ながら他人事のように理解した。

「ちょっと沖田くん、この無愛想瞳孔ガン開き野郎借りてってもいいかなァ?」

腹が立つ、腹が立つったら腹が立つ!その一心で親指で野郎を指して訊いてみる。

すると、いきなりの申し出にキョトンとして見せたかと思えばさすがのドS王子はすぐさまニヤリとイヤな笑いを含ませた表情になり答えを返してきた。

「えぇ、構いやせんぜィ。精々長いこと借りちまって下せェ、その方が色々楽しい事を仕込めるってもんでさァ」

「オイコラ待て!総悟お前何するつもり――っ!!」

「あぁもう!テメーはこっちだ!!」

とにかく苛立ちが収まらなかった。

やっと口を開いたかと思えばこの期に及んで沖田くんにだけ言及するとか、コイツはこの前俺に何したか覚えてんのかと、アレはやっぱり気の迷いだったとか冗談だったとかいっそ俺の記憶違いだったのかと!

もう、ふざけんなコノヤロー!!

そう叫びたくて堪らなかった。

ヒラヒラと手を振ってくれた沖田くんを後ろに、手頃な路地裏へと入る。

反論なり何なりするだろうと思っていた土方は、だが抵抗の一切もなく素直に俺に腕を掴まれたまま付いて来ていた。

「テメェの気持ち押しつけるだけ押しつけて受け入れてもらえなかったら今度は無視ですかコノヤロー」

この間の仕返しとばかりに勢いよく放り投げてやりながらそう言う。

あちらさんの返答はなし。

「そういうのってないんじゃないの?マナーとしてどうなのとか思わねぇの?お前」

こっちがキレそうになるのを堪えてるってぇのに、俺の話を聞きながら野郎の態度は尚よろしくなかった。

だからなんでコイツは眉間に皺寄せてやがんだ!

いきなりキスされた後の態度と似たようなその顔に強烈なムカつきを覚えた瞬間…頭に急に広がった一つの答え。

……あぁ、よく分かった、もう分かった。

つまりは、そうなんだろ。

キスされて特に嫌悪がなかったのも、直後の眉間の皺に腹が立ったのも、名前を呼ばれて意識したのも、無視されて苛立ったのも、今尚寄せられる眉根にぶん殴りたくなるのも。

全部全部、お前が…お前のことが…。

「…テメー…覚悟は出来てんだろうな?」

気付いた以上、余計にこのまま黙ってなんかいられるかってんだ。

銀さん振り回すなんざァ、百年早ェんだよ!

「何度も言うが俺は―――っ!」

話を聞いてやる必要なんてもうねェ。

コイツの言いたいことなんて分かってる。

どうせ…今の俺と同じなんだろ?

土方のやっとの言葉を遮って、あの時より深くはないがキスを見舞ってやった。

これで俺の気持ちが分からねェとか言いやがるなら、本気で容赦しないからな、コノヤロー。

「…テメーのせいで…この数日間、ずっとモヤモヤしたモンが取れなかったんだ。…責任、取れよ」

慣れない告白に、顔が赤くなってようが知るかっ。

こうなったら、もう引き下がるわけにはいかないだろっ。

そう、半ば開き直っていた俺だったが、真っ直ぐに見ていた土方が驚きから立ち直ったかと思えた瞬間、また突然に今度は抱き締めてきやがって。

お前だからそーゆー不意打ちやめろよな!そんな風に言ってやりたかった言葉さえも、飲み込まれちまった。

「ひじかっ、た、ぁ…、ん…ふ…ぅあっ」

えー、もう、口塞がれたかと思えば速攻、躊躇いなく舌が差し込まれるわ、ちょっと驚いたから引っ込んだこっちの舌を容赦なく絡め取ろうとするわ、上顎下顎をやたら的確に刺激もされるわ…コイツ、言いたくないが上手いんだよな。

とはいえ、突然だったから最初は振り回されてたけども?こっちだって負けちゃいないわけですよ、途中から舌を絡め返してやったりしたさ。

い、言っとくけどな!俺だって、その、ちゃんと自覚した相手なんだし、乗り気になったりもするんだよ!

「…ふ、んぁ…っ…はぁ」

それはもう長いキスを終えて。

顔を離し自然と目が合うことになった土方の表情は、珍しいことに笑っていた。

う、わ、コイツってこんな顔したりもするんだ…。
どこか惚けた頭でそんな呑気な感想をふわふわと考えていると、再び土方の唇が降りてきて、キスの最中意識してる間もなく零れていた唾液の跡を辿られる。

顎から唇の端、胸元から首。

ちょ…ヤバイ、身体が勝手に震えるのを抑えられねェ。

いやいや、しかしこんなところでこれ以上ってのはいかがなものかと。

てゆーかあの、俺が…そっち?

みたいな色々な葛藤が頭を巡り、少し力が抜けている右手を持ち上げて土方の手を取る。

ちゃんと制止の意図を汲んでくれたらしいそいつは、こないだからずっと見せやがる眉根を寄せた表情を少し柔らかくしたみたいな顔でこっちを見た。

「悪ィな…どうにもテメェを見てると、我慢が利かなくなる」

エロ過ぎだろ、お前。

そう続けられても自分じゃよく分かんねぇんだが…もしかし、て。

「お前…こないだからちょくちょく見せてやがったイヤに眉間に皺寄せた表情……まさかアレ…」

俺が単刀直入に訊けば、あー…と言葉を濁しバツが悪そうな顔になってぶっちゃけられた。

「変に手ェ出さねぇよう必死でな…たぶん、そんな顔してただろうな…」

「いや、でもお前、出会い頭にちゅーかました直後もそんなだったじゃねぇか!」

「だからアレは…それ以上に手を出さねぇようにだな……必死だったんだよ」

驚愕の事実だよオイ…。

何コレ…それじゃあ俺のあの苛立ちはなんだったんだオイ…。

「このやろっ、じゃあてめっ、今日ガン無視決めてくれてやがったのはなんだったんだよ!?」

そうだ、大体そのせいで苛立ちが限界突破してこんなことに…いや別に後悔とかねぇけどよ、自覚してなかっただけでどっこいだったみてぇだし…つってもやっぱ無視されんのは腹立つし気になるだろが。

「あぁ…それは…」

そうして吐き出された答えに、俺は盛大に脱力することになるのだが。

「前回まさか一目見ただけで我慢出来なくなったあげく、告白までしちまったんだぞ?今度顔見ちまったらどこまでやらかすか自分で自信持てなかったんだよ」

お前…どんだけ俺が好きなんだよ…っ!?

そう思ったって俺は悪くないだろ?自惚れとかじゃないだろコレ?

まったく…救いようがねェ……それが、そんな理由で、ちょっと嬉しかったり安心してたりする自分がまた…誰よりも救えねェ!!

ハァァァ…と盛大にため息を吐きながら座り込む。

そんな俺に、土方もしゃがみ込み真っ直ぐと視線を合わせてきて言いやがった。

「責任、しっかり取ってやるよ。離せと言っても離さねぇ。テメェこそ、覚悟しろよ?」

その言葉を口にしたヤツの顔が、やっぱり見慣れない、嬉しそうな笑顔だったものだからか。

俺もつられて珍しい笑顔ってのに、気が付きゃなっているようだった。



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あきゅろす。
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