攘夷派で伍の御題



会話の方角を探す。耳をそばたてて、必死の思いで夜闇に目を凝らした。

すると橋の少し向こう側の堤の上に、人が二人腰かけるのを見つけた。

片方は紛れもなく、大好きな 晋助。


あたしはこっそりと並木や堤の影に潜んで音を立てないように近づいて行った。


「――お侍さんは大変ね。信念貫くために血塗れになって」


少しずつその二人に近づいていくと、女が晋助に身を寄せるのが見えた。


「…こんなに身体傷つけてさ」

「ククク…」


やだ

晋助に触んないで

晋助もなに喉鳴らしちゃってんのよ
そんな目立つ場所でイチャついてんじゃないわよ


嫉妬があたしの中でグラグラ燃えている。醜い奴だと自覚していてもその気持ちは止められない。


「…ずっとこうしていたいわ」


今飛び出してって 女ともどもひっぱたいてやろうか。


「…お前、俺と一緒に来たいか?」

「ぅふふ…連れていってくれるの?」



―――…

あたしは呼吸を忘れた。



完全に晋助にもたれ掛かる女。口づけを求めているのか、得意な流し目がじっと晋助を見つめている。


「……っ」

なんでよ
なんでそんな、たまたま足を止めた先の町の女に、
どうせ身体の関係しかない女に、

そんな優しい事言うの…


あたしには突き放してばかりで近くに寄ることも許してくれないじゃない

分かってるよ。
あたしには何の魅力も無いその女(ヒト)のように色っぽさもない、

晋助が望む女じゃないことぐらい分かってる、

分かってるけど…
あたしはこんなにあんたの事好きなんだ

あんたの近くにいたいが為に頑張っているくらい
あたしにはあんたしか見えてない。

それは晋助だって知ってるんでしょ?
何でやすやすとそんな事言うのよ

何ですぐ隣で笑ってんのよ…


悔しいにも頂点があるんだな、

それでも晋助と女がいる一番近くの柳まで来れたのに、まるで石化したかのようにあたしの身体はそれ以上動けなくなってそしてとうとう地に崩れ込んだ。


「戦場に女がついてっていいのかしら」


血の流れが大きく身体中で騒ぎ、耳に聴こえてくる音も自分の脈動が大音量で占める。
女と大好きな男が微笑みを交す声が遠くに聞こえる。


もう 聞きたくない

やめてよ…



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あきゅろす。
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