攘夷派で伍の御題
5
幾日も経たないうちに晋助は私たちが居座る寺を出て行った。やっぱり何にも言わず。
毎日顔を会わせてあたしは様子を窺っていたのに、そんな素振りは全く見せなかった。鬼兵隊に加わることは愚か、あたしは後ろ姿も見送ることができなかった。
「――えっ?みんな知ってたの、晋助が今日から動き出すってこと!?何で教えてくれなかったのよッッ?!」
「…あのなァ高杉に一途な娘、」
「いい、聞きたくない言い訳なんて…どうせ口止めされたんでしょ」
悔しかった。
男の人に負けないように鍛錬を積んで限界を越えるまで刀を振るってきたのに、あたしの実力じゃ晋助に見向きもしてもらえなかった。
悔しくて悔しくて、でも泣くと負けのような気がしたから唇を噛みながら涙を必死に堪えていた。
だけどそうしたら、ヅラや辰馬が頭に手を乗せて笑いかけてくれた。
銀時が黙ってあたしの愚痴を聞いてくれた。
みんな優しいんだ。こんなに周りの事も考えらんなくなったあたしに身を寄せてくれる。
あったかい。
…それに比べて晋助は、冷たいし、いっつも不機嫌な上怒りっぽいし、
…女んとこしょっちゅう行くし。
何であたし好きになっちゃったんだろうね。
だけどそんな理由なんていちいち考えられないほどあたしは晋助に溺れちゃってる。
それは常に一方通行で置いてかれた今も勝手に一人で沈んでて…
「何かさ…バカみたい」
「…何が?」
「今までのあたしが」
「今更気付いたのかい」
むしり採った草を隣に寝そべる銀時の顔面にぶちまけてやった。
「――ブァッ ベペペッッυ だってホントじゃねーか」
「……」
否定はできない。
膝を抱え、風に揺れる草花を眺める。
「あんなに頑張ったのに…無駄だった。いつ何が起こるか分かんない時代だってのに、別れを惜しむ時間も無いなんて。まさかの事が起きたらもう会えなくなったりするかもなんだよ?なのに…」
「無駄じゃねーよ、何言ってんだオメー。そのおかげで今生きてんだろ」
「…まァ…そらそーだけど…」
「お前、ホントに高杉の事好きなのか?」
「…何よ。今さらそんな事」
「だったらよー、いらねぇ心配すんなや。奴がこんな戦争で死ぬタマかよ」
「……」
……銀時…
鬼兵隊の名が世に響き渡り始めるといよいよ戦乱も激しさを増し、あたし達は戦の合間に寝泊まりする寺や神社や空き家をさらに頻繁に転々とするようになった。
その度に仲間の数もだんだん減っていく。
生き残ったみんなの表情にも曇りの色が濃くなってきていた。
それでもあたしは懸命に刀を振るうだけだ。
銀時に言われた通り、生きるために。
晋助に会うために。
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