攘夷派で伍の御題




夜も更け、寺に籠る仲間たちがぽつぽつと眠りに落ちていく頃、晋助がようやく帰ってきた。


たった一人で石段を上ってくるその姿が木陰の闇から月明かりの下に出た時、お寺の賽銭箱の前に座りこんでいたあたしの眠気も一瞬にして覚めた。


「……」


ギロッといかにも不機嫌そうな視線が一度こちらに向けられたが、すぐにまた足元に落とされた。
あたしは遠目にその様子を目にして、立ち上がろうと腰を上げていたけどまた元に下ろした。

…また仲間集めが上手く行かなかったんだろうか。

鬼兵隊は実力重視に結成させると聞いた。

でも晋助の事だ、自分と反りが合わない奴はバッサバッサ切り捨てていくに決まってる。

ちゃんと部隊として旗を挙げられるだけの人数を集めるのにも苦労するんだろうな。


「お帰りなさい」

「…」


晋助があたしの横を通り過ぎる時に、そっと声を掛けてみた。ちょっとぶっきらぼうに聞こえたかもしれない。自分で言うのもなんだけど、正直あたしも今は気分が良くない。何だか、今日は疲れた。

晋助からも何も無かった。
いつもならさらに


『ねぇ』

『駄目だ』

っていうやりとりがあるんだけど、…何だか今日は本当にご機嫌悪そうだからやめとこう。


暗い本堂の廊下が軋む音に混じって、

「ガキは早く寝ろ」

やっとそう言われたのが聞こえたから、

「はーい」

と膝の上に顎を乗せたままふて返事を溢した。

…そうやってガキ扱い。
着物に染み付いた甘い香りを風に漂わせながらなんて言わないでよ。


あたしは…晋助にあたしを好きでいて、なんて言わないよ。
近くにいさせてとは何度も言うけど。

そのためにあたしは今まで生きてきた。この戦争で晋助のために自分の力を使いたいから。
昔あんたに会った時からずっと、その気持ちは変わらない。
あんたが松陽先生を慕うのにだって負けないくらい。

だからさ、そうやってスルスル通り抜けて行っちゃうばかりじゃなくてさ、ちょっとでもいいからあたしを試してみてよ。

振り返ってよ…



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あきゅろす。
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