攘夷派で伍の御題


坂本の話の間に日光は完全にその輝きを暗雲に阻まれ、町はまるで白昼とは思えぬような薄暗さに包まれていた。

それに気付かずに話し込んでいた坂本と娘は、天候の変化に遠くで轟く雷鳴でようやく意識を自分達以外の空間に戻した。


「いつになっても天のご機嫌だけは読めんのー」


店の外を振り返って、坂本が暢気に言った。

空気を震わす轟音が少しずつ数を増やし、その大きさもだんだん増していく。


「…荒れそうじゃな。今日は帰った方がよかろー」

「そうじゃなァ」


娘の案に頷くと、坂本はしばらくの間手にしていた拳銃を懐に納めた。


「何かすまんかったのー。つまらんわしの語りに付き合ってもらっちゃったきー、作業進まんかったろー」


娘に振り返ると、坂本は天然パーマをわしゃわしゃと掻き、アハハハハと笑い声をあげた。


「明日ならじーちゃんおるろー。また詳しいこと聞けばいい」


娘も立ち上がって、坂本に正面を向いた。

それは言葉にこそしないが、 またここに来い の合図。


じゃー失礼〜、と昨日と同じように右手を挙げ、坂本は店の戸口を出ていった。


「……」


また娘を取り巻く空間が静かになった。
…がしかし、昨日とは違ってとてもすがすがしい気分がしていた。


「すまんかった…」


誰もいなくなった戸口に向かって、もう一度、小さくこぼした。



時の経過とともにますます空がぐずりだした。流れ行くどす黒い厚い雲が轟く雷鳴と調和していた。


「…やな雲行きじゃ」


娘は蝋に火を点けて店内に灯りを灯し、早々と作業を切り上げた。







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あきゅろす。
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